第4話
「…………結婚?っていうか、貴方誰?」
侵入してきた青年に跪かれ、結婚の申し入れをされるものの私は何故そんな行動をとられているのか理解できず首を傾げた。
そんな私の行動が予測できない行動だったのか、なんなのか、青年は目を大きく見開き、「…………はい?」と小さく言葉をこぼした。
「だ、第二皇子殿下。ご無礼を承知で会話に割って入らせていただきます。大変申し訳ありませんがスカーレット様はもう貴方様の知るスカーレット様ではありません。」
(えっ!?このどこぞのアクション映画俳優みたいな人が第二皇子!?)
私を背にかばいながら言葉を発するラグの言葉で目の前の人物が誰なのかを理解した私はこれ以上ヘタに口を開かないでおこうと思いながら状況を見守ることにし、ラグの後を任せて黙り始めた。
そんな私の様子をみて一瞬安堵した表情を浮かべたラグは軽く息を吐くと第二皇子に言葉をつづけた。
「スカーレット様は国外追放されこの街にたどり着いてしばらく、自殺未遂をなさいました。その際に生死をさまよいった影響なのでしょう。ビオール王国で過ごした時間や私をはじめとする人間との関係もすべてお忘れになられたのです。とてもではありませんが今の鍋の事しか頭にないスカーレット様に第二皇子殿下の妃など務まるとは……。」
「うん、そうなんだけど言い方……。」
どこからどう考えても不必要なワードが混ざっていたことに対し、突っ込まずにはいられない。
そんな私の言葉なんてまるで聞こえていないと言わんばかりに第二王子殿下と向き合い続けるラグ。
そして―――――
「…………鍋?」
第二皇子殿下も拾わなくていいところを拾ってしまった。
(そういえばビオール王国ってもともとどちらかといえば温める文化じゃなくて冷やす文化何だっけ?)
以前ラグがビオール王国はどちらかといえば暑い国だからと言っていたのを思い出した。
そして最初、ラグも鍋について理解はほとんどなかった。
鍋という話をして調理器具の鍋を食べるのか?なんて訳の分からないことを真顔で聞かれたのがもう懐かしい。
……なんてことはさておき、とにもかくにも拾わなくてもいいワードを拾ったところから多分この第二皇子はそこまで怖い人ではないのかもしれないと毒気を抜かれた私は第二皇子に対し声をかけてみた。
「あの、とりあえずご用件は何でしょうか。窓突き破ってくるほどその、差し迫った事情が?」
いくら何でも型破りすぎる侵入に私は何か差し迫った事情でもあるのかと問いかける。
すると第二王子は一度視線を落としたのち、再び私に視線を向けてきた。
「貴方が聖女にしてきた嫌がらせ、そして聖女を毒殺しようとした件、それらがすべて聖女の企てだったという事を知ったのだ。」
「「「…………え?」」」
第二皇子が真剣な面持ちで語る言葉。
その言葉にその場にいた誰もが気の抜けた声を漏らした。
というか――――――
「ラグ、なんであなたまで驚いてるの?まさかあなた、スカーレット・ラグラリアを慕っていた割に疑ってたの?」
「ち、違います!いや、でも、その、根はいい人ではありましたが気難しいところもありましたし、そもそも女同士の喧嘩は剣をぶつけあうより悲惨だと大神官様が――――」
疑っていたわけじゃないけど信じていたわけでもない。
そんな曖昧な感情でよく聖職者の座を捨ててまでこれたものだ。
いや、もしかすると昔命を救われたみたいな恩を感じるような出来事の一つや二つ、あったのかもしれない。
真面目なラグならそれだけの理由で国外追放にもついていきそうな気がする。
というか―――――――
「そもそも第二皇子殿下?そんな大それた話、ラグはともかく、見知らぬ異国の一般人もいる場所で話しても平気なんですか?」
私はそういいながらすぐ傍に居るリックさんを指差す。
こんなことは言いたくはないが彼はただの情報通な一般人だ。
情報通な人は意外と口が堅い。
だから露見することはないと信じたいが、人の口には戸が立てられない。
皇族の人間でありながら、次期皇帝の妻、次期皇妃に関して無関係でもない情報をやすやすと口にしていいものなのだろうか。
なんて思っていると第二皇子殿下は驚いた表情を浮かべた後、静かに言葉を紡ぎ始めた。
「…………感想はそれだけなのか?」
「……はい?」
「貴方は無実の罪を着せられ国外追放されたのだ。何故まるで恨み言などまるで何もないような清々しい言動なんだ……?あるだろう!恨みの一つや二つ!」
ひどく驚いた表情で私の言葉を受けた第二皇子殿下が言葉をこぼす。
感想、というより私はただただ疑問を口にしただけな気がするのだけど……なんて思いながらも冷え邸の言葉はとりあえず飲み込んだ。
そしてとりあえずこの第二皇子、あまり会話が成立しなさそうなことを悟った私はとりあえず聞かれたことに対する答えを返すことにした。
そう、ただただストレートに―――――――
「すみませんがその恨み、忘れたので!」
スカーレット・ラグラリアの記憶がない私には恨みはもちろん、当時の事だってなに一つわからないので私はあくまで部外者らしく明るく答えるのだった。
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