第3話
「え?もう責任は取らなくていい?」
責任をとれと言われ、夜の運動に付き合った翌朝。
流石に朝食は鍋ではなくパンと目玉焼きの軽食。
そんな朝食を用意していると起きてきたラグに第一声、「おはよう」ではなく
「夜の運動はもういいです。責任どうのはもう忘れてください。」と言われたのだ。
(まぁ、無理強いする事でもないし、そもそも太ってるわけではないもんね……。)
続けてみようだとか続けた方がいいだとかいうのは流石に違うかと思い、私は静かに「わかった。」と言葉を返すと―――――
「そもそも夜の運動っていうから俺はてっきり……。」
何やらぼそぼそ言い始めたけれど別にそれは私に伝わってほしそうな感じではなかったため私はぶつぶつ言っているラグをよそに朝食の準備を始めた。
その時だった。
我が家の扉を叩く音、そしてその後「ラグ君、カーナちゃん!朝早く悪いけど扉を開けてくれないか!?」隣の家のお兄さん、リックさん24歳の声が聞こえてきた。
あまりにも焦っている様子の声に私とラグは一瞬顔を見合わせるも、すぐさま呼び出しに応じ、扉を開けた。
「あの、何事ですか?リックさん。」
鬼気迫る呼び出しに恐る恐る応じ、扉を開けるとリックさんが焦った様子で「悪いけど邪魔するよ。」と言い放つとそのまま家の中へと入ってくるなり家の扉を閉め、私たちにしゃがむように促してきた。
とりあえずリックさんの指示に従いしゃがむと、リックさんは家中のカーテンというカーテンを閉め、更には私たちに2階へと上がるよう促してくる。
本当に何事だろうか。
そう思いつつも大人しく指示に従い、2階のラグの部屋へとやってきた。
「あ、カーテンはそのままで大丈夫。だけど窓際には近寄らないで。」
ラグは部屋にやってくるなり1階デリックさんがとった行動のようにカーテンを閉めようとするも、それはリックさんに止められる。
本当何事かと首をかしげているとリックさんは深呼吸をして真剣な表情を浮かべ始めた。
「二人とも、落ち着いて聞いて。どうやらこの街にお忍びでビオール王国の第二皇子が来ているらしいんだ。」
「「……はい?」」
落ち着いて聞け。
そう言われて聞いた内容に私とラグは声をそろえて言葉を発しながら首を傾げた。
「この街って意外と有名な観光地なの?」
「いや、そんな場所で暮らそうなんて言いませんよ。特にこれと言って観光名所のない田舎街を選んで移り住んだんです。こんな辺鄙なところに来るなんて目的があるとしか思えませんよ。」
「……ラグ君?うん、事実、事実なんだけどちょっとその言われようは傷つくなぁ……。」
状況がいまいち理解できない私の問いに素直すぎる返答をするラグに苦笑いを浮かべながら言いづらそうに言葉を発するリックさん。
そんないまいち緊張感のない会話をしていた時だった。
下の階から扉を強く叩く音が聞こえてきた。
「はぁ……やっぱりすぐここに辿りついちゃうかぁ……。赤髪の女の子なんてカーナちゃん以外いないもんね。」
「…………え!?目的ってもしかして私!?」
深いため息と共に語られた言葉。
その言葉で察せないほど察しは悪くない。
私には探される理由はなくてもスカーレット・ラグラリアには探される理由は……ないとは思うけどなくはないとも思う。
「……大人しく出たほうがいいんじゃないの?こういうのって。」
「ちょ、カーナちゃん、本気!?もしかすると君の国外追放が気に入らなかった第二皇子が君を殺しに来たかもしれないでしょ!?」
(えぇ……そんな殺意抱かれるような人間だったの……?)
流石に元聖職者のラグが職を捨ててまでついてきた人間だ。
あまりスカーレット・ラグラリアに興味がなくて彼女の人となりは聞いていないから知らないけど、心が清らかな人間に好かれる人が悪い人なわけではないと思う。
だからそこまで追いかけまわされて殺されるなんてありえないと思う。
けど――――――
(もし相手が剣とか持ってたり屈強な護衛を引き連れてたら嫌だなぁ……。こっちは貧弱の元神官とちょっと情報通な新聞配達で生計を立てている隣の家のお兄さんしかいないし……。)
武力を行使されたら明らかに終わる。
そんな現状に家のドアを開けるか悩ましいけれど、悩んでいる間に扉を叩く音はどんどん大きくなっていく。
(どうしたものか……。)
どうするのが一番いいのか。
そう思い悩んでいたその時だった。
勢いよくラグの部屋の窓ガラスが割れ、窓を突き破って一人の男が部屋に入ってきたのだった。
その行動に一同驚いていると、いきなり不躾に侵入してきた男は「失礼。」と澄ました感じで不躾を詫びると体中にまとわりついているガラスの破片を軽く払いながら私たちへと視線を向けてきた。
「わぁ、美青年……。」
「ちょ、カーナ様!!」
視線を向けてきた侵入者は顔は綺麗な作りで、体つきもいい感じに細マッチョ。
腰に携えられている剣を見る限り剣術の心得があるようだ。
そんな侵入者の姿に感嘆の声を漏らしているとラグが私に声を荒らげてきた。
何をのんきに、とでも言いたいのだろうか。
なんて思っていると侵入者の青年は静かに私へと歩み寄ってくる。
それを見たラグ、そしてリックさんまでも私を背にかばい立ててくれる。
だけど青年はそんな二人が見えていないかのごとく私をじっと見つめながら歩み寄ってきた。
そして――――――
「探しました、スカーレット・ラグラリア様。どうか僕と結婚していただけませんか?」
私に歩み寄ってきた侵入者は私の傍まで来るとひざまずき、私を見上げた。
そして眉一つ動かさず、真顔で結婚の申し入れをしてくるのだった。