第2話
「俺はこんな食に貪欲ではなかったはずなんです!質素な食事でも食べれたらそれだけでよかった……なのに、なのに……こんな体にした責任をとってください!!!カーナ!!!」
「せ、責任って……。」
ひどく理不尽な文句を言われ、すこし呆気にとられる私。
というか、久しぶりに呼ばれたな、この世界での私の呼び名。
ラグは私をスカーレットと呼ぶのには抵抗があるらしく、人前では私はスカーレットとは名乗りはするものの、愛称がカーナという事にしてラグは私をカーナと呼んでいる。
本当は国外追放なんてされてる身だし、人様にもカーナと名乗るほうがいいと思うんだけど、スカーレットという存在がこの世界から消えるみたいでそれは嫌だというラグの願いがあり、愛称をカーナにした次第だったりする。
ま、そんなことはさておき―――――
「責任……責任かぁ……。」
責任と言われても非常に困る。
というか私としては健康的になっていい気しかしないし。
でも、真面目なラグがここまで言うのだから冗談で責任をとれと言っているわけではないのだろうと思う。
「……わかった。じゃあ一緒に夜の運動でも始める?」
「!!!!よ、夜の運動っ……!?」
「うん、夜の運動。食べたら動くってこと。責任をもってしっかり付き合うよ!どうかな?」
責任をとれと言われてももともと食生活は悪いわけじゃない。
となればできる事となれば運動に付き合う事しかできない。
そう思って提案すると何故だかラグがひどく焦ったような表情になっていく。
顔も赤くなってる気がするけど、それはカセットコンロみたいなものの熱によるせいなのだろか。
もしくはもともと神官だし、運動が苦手なのかもしれない。
(もしかして運動苦手なの、ばれたくないとかなのかなぁ……。)
だとしても気にしないんだけど……なんて思っているとラグは恐る恐る口を開いた。
「あ、あの、俺、そういうことに関しての自信は全くないんですが、……良いんですか?」
予想した通りどうやら運動が苦手らしい。
が、どうやら運動をする気はあるらしい返答だ。
「大丈夫大丈夫。手取り足取り私がしっかりと付き合ってあげるから!」
やる気さえあれば何とでもなる!
私がそういうとラグは「よろしくお願いします。」と小さくつぶやいた。
そんなラグを見ながら私はひそかに思う。
(ラグには少し私好みになってもらおうかな!)
ラグ改造計画を始めよう、と―――――――。
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「はぁ……はぁ……も、もう、無理ですっ……カーナっ……!」
荒々しく息を切らしながら限界を語るラグ。
顔を真っ赤にしながら汗を流しながら吐く熱い息。
それらから口先だけの限界ではないことは理解できた。
だけど――――――
「ラグ、あと少し、あと少しだけ……ね?」
限界と言われたからとは言え運動は始まったばかり。
速すぎるリタイアを私は了承できず声をかけた。
しかし――――――――
「だぁぁぁぁぁ!!!もう無理ですってば!!!!」
必死に上体を起こそうと腹筋を震わせていたラグはついに勢い良く床に上体をたたきつけた。
(限界早すぎるよ、ラグ……。)
もう無理だとラグが声をあげるまでにできた腹筋の回数、わずか17回。
いくら祈りを捧げるのが務めだったからとはいえ、10代の男の子がここまで筋力が無いとは流石に思わなかった。
そりゃ増えるのは脂肪だけなはずだ。
「ラグ、花屋じゃなくていっそ力仕事始めたほうが下手に運動始めるよりいいんじゃない?」
国外追放についてきたラグは罪人と共にいる道を選んだことで聖職者の職を離れなくてはいけなくなり、たまたまラグの事を気に入ってくれた花屋の店主さんのご厚意でラグは花屋で働いている。
が、その店主さんが筋骨隆々のオネエさんなもんだからか力仕事は任されていないんだろうなぁという事が効かなくても理解できて来た……。
「ち、力仕事は労働がきついのに対し、報酬が少ないんですよ。まぁ、仕事内容はともかく報酬がこれ以上下がれば生活水準が―――――」
「じゃあ私も働こうか?」
「絶対駄目です!!!」
生活水準がどうのこうのというなら私も働けばいいだけの話だというのにそれは間髪入れずに却下してくるラグ。
そんなに私を働かせに出すのが心配なのだろうか。
(多分私、ラグよりは筋肉あると思うんだけどなぁ……。)
言えば私は今、専業主婦のような状態だ。
とはいえ、専業主婦をなめてはいけない。
日々の掃除、洗濯、買い出しで筋肉を大いに使う私は花屋で花のように大切にされているラグよりは間違いなく鍛えられた身体を持っていると思う。
「もう少し筋肉あるほうがかっこいいと思うんだけどなぁ……。」
素材がいいラグは所謂美青年だ。
でも今の筋肉が全くないもやしっ子状態だとカツラさえかぶればどこからどう見ても女の子にしか見えないほどの見た目だ。
個人的にはもう少し筋肉もあって、細マッチョとまではいかなくてもたくましい体つきが好ましい。
なんて思いながらラグの腹筋を見つめていると恐る恐るラグが問いかけてきた。
「……今の俺は貴方にとっては物足りないんでしょうか?」
息を切らしながら顔を真っ赤にした状態で物足りないかを聞いてくるラグ。
ひどくやり切ったような状態で倒れているラグだけど、その実彼が達成したのは腹筋17回。
ここは変に気を使わないほうがいい。
そう思った私は――――――
「うん、物足りなさ過ぎるかな。」
自分の思いをはっきり告げる。
するとラグはひどくショックを受けた表情を受け、私から視線を大きく外すのだった。