魔道皇子、真実を知る
・このお話はフィクションでファンタジーです。
ジークだけが胃を痛めた夕食から三日後。
一日目は旅の疲れを癒すためにゆっくり休み、二日目は第三皇子として溜まっていた最低限の仕事を片付ける。そのあいだにジークは第三皇子の近衛騎士と軽く手合わせをし、精霊たちは気ままに城内を散策していた。
そして三日目。今日も仕事に追われるのかと自室でレスタに抱き着いていたアラステアは、皇帝からの呼び出しに応じていた。レスタも同伴するように言付かったことに首を傾げながらも、護衛に派遣されてきたのがこの国に五人いる魔導騎士の一人だったので黙って後を追う。
やがて皇帝の居室近くを通って下に降りていくと、厳重な封印のなされた扉の前で父親と合流した。
「来たか」
「呼び出しに応じ、参上いたしました」
膝をついてあいさつをしようとすると、片手をあげて止められ、これは私的な用件であると告げられた。父親の年齢相応の威厳に気圧されそうになりながらも、金の目の中に浮かぶ慈しみは変わらないので、安心して近づいていく。
「どうかしたんですか?」
家族との時間ですらなかなかとることのできない忙しい身分なのは判っているので直球で質問すると、皇帝はちらりとレスタを見てからついてくるように背後の扉を開けた。中は薄暗く岩を削ったような階段があって、ためらうことなく降りていく皇帝と、けっして皇帝のそばを離れることのない護衛騎士と魔導騎士が騎士礼でもって見送る姿に驚く。
位置的にもここは城の海側の最下層に近いはずだ。このまま進めば城裏の断崖絶壁に出るくらいしかない。
「大丈夫。ついていこう」
思わず鈍る足にレスタが励ますように声をかけてきて、見下ろせばロイヤルブルーが少しばかり楽しそうに細められる。何かを知っているのかと問いかける言葉を飲みこみ、アラステアは黙ってひんやりと階段を下りるために踏み出した。
魔導の明かりを持つ父親の背を見つめる。帰国してから感じていた違和感の正体がこれで判るかもしれないと、自分も魔道の明かりをレスタのそばに浮かべた。
光源が二つになったことに気づいた皇帝が振り返り、息子の浮かべた魔道を見て小さく笑う。
「お前は相変わらず息をするように、簡単に魔道を使うんだな」
「魔力を節約するように癖がついてしまって。頭の中での組み立ては面倒ですが、慣れればそれほど苦ではないんです」
「私の場合は攻撃魔道をいくつか程度だな。暗殺者対応で叩き込まれたぞ」
「父上は政務もあるんですから、それで十分ですよ。私のように魔道を専門にしているわけではないんですから」
何度か踊り場があり長い階段を下りながら親子の気軽い会話が続いた。
「そういえばお前が作った幼児用の生命維持魔導について報告が上がっていたぞ。死亡率が下がったようで、よくやったな」
「年齢に応じてすぐに変更できるように組み替えておきましたが、無事に作動したようで安心しました」
「あと報告のあった南部領の治水に関してだが……」
「皇帝陛下」
ここまできて我慢できなくなったアラステアは父親の言葉を遮った。
「呼ばれた理由をまだ聞いておりません」
父親を皇帝陛下と呼ぶアラステアの笑顔に、ちらりとこちらを振り返った皇帝ロードリックはこちらも少し意地が悪く楽しそうな笑みを浮かべて先を急ぐ。
「お前がどこから精霊という存在を知ったのかは聞かぬが、これでも私は魔道帝国の皇帝だぞ。お前たちの知らない秘密の一つや二つくらい抱えているのだ。その中にお前のことについて教えてくれた存在がいる」
突然よみがえった記憶に不信を感じさせないように注意していたからこそ、第三皇子としての義務を果たしてレスタを迎えに行けたと思っていたアラステアは驚いて唇を引き結んだ。
「歴代の皇帝に就いた者だけが知る秘密だから、まだ皇太子のサディアスですら知らない」
「なぜ……そのようなことを私に……」
時間的にもかなり降りてきて、そろそろ海岸どころか海面下に潜るだろう。警戒を強めるアラステアの腕にレスタがたてがみを擦り付けた。
「落ち着きなさい」
レスタの声にある可能性がひらめき、彼を見ると楽しそうにうなずいて尻尾を揺らしながら下りていく。最下部にあったのはこれまた豪華な扉。深緑色にも見る古木ダークオークに青く発光する銀の飾りが打ち付けられていて、どこかで見覚えのある光景だと思い出す前に父親によってあっさりと開かれた。
「わぁ……」
扉の向こうは海面から光が差し込む海の中だった。透明の結界がドーム状に張られていて、周囲を色とりどりの魚たちが泳いていく。足元は乾いた白い砂で覆われていて、それは結界の外まで続いていた。
そして――
「クジラ……」
小さな一軒家ほどの広さの結界内を見下ろすように、巨大なクジラが悠然と浮かんでいた。
《ロードリック。久しいな》
頭の中に直接響くような不思議な声。言葉の通じなかった千早がレスタと契約したときに聞こえたそれと同じ感じだった。男とも女ともつかぬその声はレスタと同じように優しさがあふれていて、青みを帯びた黒い体色とレスタと同じ深い知性を感じさせる赤い瞳のその存在は、楽しそうに笑いながらアラステアを見る。
《初めまして、精霊の愛し子。お前の来訪を待ちわびていたよ》
自分を『精霊の愛し子』と呼ぶ存在。それが判るということは彼は精霊ということになる。そして父の名を呼んだということは、父はアラステアがいうより前に精霊の存在を知っていたということだ。
驚きすぎてここまで考え付くのに時間がかかったアラステアは、たっぷり時間をおいてからまずは小さく頭を下げた。
「初めまして。私はアラステア・シャムロックと申します」
《私のことはエセルと呼んでほしい。それにしても本当にロードリックの息子か? なんと可愛らしい子だろう》
「私の子供なんだ。可愛いに決まっているだろう」
エセルと名乗ったクジラに軽く憤慨して言い返す皇帝。ずいぶんと気安いようすに、二人の関係が長いことが察せられる。
「やはり城の結界の一つはそなたの力だったか。エセル、久しいな」
《レスタも久しぶりだな。かれこれ一万年ぶりか?》
「いや、そこまでではなかったような気がするが……?」
これは精霊ジョークだろうかと笑いをこらえていたアラステアは、珍しく穏やかにこちらを見ている父親と目が合った。
「精霊の存在を知っていたんですね」
「ああ」
「だからレスタを迎えに行くことに許可をくれたんですか?」
「いや」
二つ目の確認はすぐさま否定され、ロードリックは家族に向ける皇帝の仮面を外した凪いだ表情でクジラを見上げる。それから少し悩んで口を開いた。
「お前の想像通り、彼は精霊で代々のシャムロック魔道帝国皇帝と友和を結んできた。だからお前が十五歳になったとき、精霊を迎えに行きたいと言ったことに驚いたよ。精霊の存在をおとぎ話として隠してきたのは私たちシャムロック魔道帝国と当時の国々だったからね」
《懐かしいな。あの時のそなたは息子の成長を喜ぶ親の顔と、昔から受け継がれている密約を守ろうとする皇帝の顔、二つの表情を浮かべながら私に相談してきて》
当時を思い出したのかクスクス笑うエセル。そういえば父に相談した時に即答できないから時間が欲しいと言われた。数日後に呼び出されて細かいことを決めてから許可をもらったが、あれはエセルに相談する時間だったのかと思い当たる。
「でもなぜ隠したのですか」
「お前はなぜか精霊の存在を知っていた。その上で不思議に思ったことはないか? これだけ大きな力を操ることのできる古からの存在が、なぜ魔王大戦のときに人とともに戦わなかったのか、と」
父の言葉にちらりとレスタを見ると、口元に笑みを浮かべながら穏やかに笑っている。自分のことは何も気にすることはない、という無言の意思にアラステアは正直に答えた。
「前に話を聞いたとき、ある精霊は魔王大戦には興味がなかったのであまり覚えていないと答えてくれたんです。精霊にとって興味のない出来事だったから、魔王大戦は人のみで戦ったのだと思っていました。ただ……」
精霊自身に興味はなくとも契約している者がいれば戦いに出たはずだし、それに。
「お前は大聖女レラリアに直接会ってどう思った」
言おうとしていたことを父に先に言われて、正直に心情を吐露する。
「大聖女と魔女の能力は人の域を出ていないと思いました。魔王の強さが話ほどではなかったとしても、勇者と三英雄だけで討伐できたのは奇跡に近いのではないかと」
今回レストラーダ聖王国で大聖女レラリアに直接会って感じたのだ。確かに大聖女も魔女も強い。強いが、島を一つ消し去るような力を持つ魔王と互角に戦えるものなのだろうか。千早の感覚でいえば、大型怪獣に武器を持った生身の人間が戦いに挑むようなものなのではなかったのか。
「お前の直感は正しい。ただ人の身だけでは魔王を倒すことは叶わなかった。そこに私たちが隠してきた事実がある」
《勇者春樹は人の形をした精霊だった》
「は? ……え?」
エセルがあっさりと告げた事実に思考が追い付かない。てっきり勇者は精霊の愛し子か、そうでなくとも契約者だと思っていたアラステアは十数秒ほど呆然としていた。
「え? 勇者が、精霊だった? あれ? だって今まで人の形をとった精霊はいなかったって……それに彼は日本人だったはず」
記憶に間違いはない。学生服を着て眠っていた彼は皆川千早と同じ世界の人間だったはずだ。それは千早の記憶だけではなく、レスタを迎えに行ったときにアラステアも見ている。
驚きのあまりアラステアでは知りえぬ情報までもを口にしてしまったが、当然皇帝である父親は『日本人』がなにかは理解できず、千早の話をしてあるレスタと、勇者春樹が存在していた当時を直接知っているエセルは違和感なく話を続けた。
《……そこまで知っているのなら、少し年寄りの長話に付き合ってもらえぬか》
クジラであるエセルの表情は分かりにくいが、それでも深い苦悩に満ちていることだけは確かだった。
◇◇◇
《私が春樹に会ったのは春樹がこの世界に現れた直後だった。たまたま私がいた場所から近いところにあった精霊の卵から彼は現れた》
「たまご……」
申し訳ないが地面に座らせてもらってエセルを見上げていたアラステアが小声でつぶやくと、気になったのはそこなのかとレスタが笑う。
「別に我らは卵生というわけではないからな」
「なんとなく判るけど、あとでゆっくり教えて」
この部屋はエセルと歴代皇帝だけが訪れる空間のせいで、テーブルとイスが一つずつしかない。どうせレスタも砂の上に座っているのだからと一緒に座ったのんきな息子の背中を、テーブルに頬杖をついた皇帝が呆れたように眺めていた。
《彼はこう話していた。友人と道を歩いていたら、うしろから強い衝撃を受けて意識を失った、と。そして気が付いたらここにいたらしい》
これは異世界転生物だぁと、まるで小説の冒頭を聞いているかのように興奮したアラステアだが、続く言葉に笑みは崩れた。
《そして彼は友人はどこだと尋ねてきたので、ここに精霊の卵は一つしかないと答えた。すると彼は泣き始めたのだ。自分が家に誘わなければ、彼は事故に巻き込まれなかったのにと》
いやな予感がする。もしこれがテンプレ通りでアラステアが知っている事実と符合するのなら、かなり後味の悪い終わり方をしたはずだ。
《おそらく春樹は事故で魂だけ吹き飛ばされてこの世界に来た。そしてちょうど力を蓄えていた精霊の卵に入り込んで、自分の姿を形作ったのではないか。それが私たちのだした結論だった》
それは友人の死を意味していたのだろう。それから春樹は三年ほど、人のいない場所でこの世界のことを学んだり、精霊としての力のふるい方をエセルの下で学んでいたらしい。その間は人里に出ることは一切なく、自給自足で静かに暮らしていた。
だがそこに不穏なうわさが届く。黒髪の少年の姿をした魔王が現れた、と。
「やっぱりそうなったか」
アラステアの予想通り、春樹の友人はこの世界に落ちていた。春樹とまったく同じ状態で、本当に偶然に別の場所にあった精霊の卵に入り込んで記憶を繋いだのだ。だが、そこからは春樹と異なり、彼の周囲には彼を利用しようとする者しかいなかったらしい。
せっかくできた友人や、ほのかな想いを抱いていた大切な少女を殺され、そして最後には自分自身を痛めつけられて彼は絶望する。手足をもがれ、目をくり抜かれ、のどを焼かれた彼は無意識に力を振るったのだろう。現在のレストラーダ聖王国にあった街の地下深く、闇組織が牛耳る闘技場で魔物に内臓を喰われながら声なき声で笑った彼は人を憎む魔王になった。
《友人を助けようと春樹は私のもとを去った。友人に近づくために仲間を募り、どうにかして会えたのだが……》
最初、再会した彼らは穏やかに話をしたらしい。なにがあったと問う春樹に友人が自分の体験した残酷な現実を話すと、春樹は言った。
『どんなに辛くても無関係の人を傷つけるのはよくない』と。
「あー……」
真実はアラステアの悪い想像のさらに上だった。
この世界はまだまだ弱いものに厳しい。今では清潔で安全な国と言われている自分の国ですら勇者の時代では弱いものは淘汰されていた。そんな場所に千早と同じ年代の学生が現れて無事でいるはずがなく、自身が精霊であるという自覚もなく傷つけられた友人は『人』を憎んだのだろう。
逆に勇者は精霊に保護されると人と関わることなく知識を身に着けて、剣聖や魔女、大聖女といった面々に守られながら世界を知ったのだ。それは危険が少ない好奇心に満ちた道行だったのかもしれない。
だからこその『平和ボケ』発言は魔王の逆鱗に触れた。
《そこから春樹と友人は袂を分かち、魔王となった友人はあちらこちらに災害をまき散らしながら世界を蹂躙していった》
あとはおなじみの勇者英雄譚だ。勇者は三英雄や人々の国の助けを借りて魔王を討ち、相打ちで眠りについた。勇者を慕っていた魔女は眠る勇者を守りつつ目覚めを待ち、大聖女は魔王が最初に目覚めて汚染された地にレストラーダ聖王国を建てて封印することにした。
剣聖についても、当時もっとも魔物の被害のひどかった国の王女と結婚し、魔王が滞在したためか魔物が湧き出るようになった大森林の最前線に立ったのだ。時間が経つにつれて落ち着きを取り戻したあとは、アラステアが魔女のもとで聞いた終わりを迎えたようだが。
《魔王と呼ばれていたが、あれは人の姿と意思を持つ精霊だった。精霊を根本から消滅させることはできないから、春樹はその魂を抱いて眠ることで癒す決断をしたのだ》
驚いたことにレスタを侵していた『魔女の呪い』も、魔王を弱体化させるために魔女が編み出したものだった。そんなものがなぜいまだに精霊たちに降りかかるのかは判らないが、精霊である勇者春樹にも影響を及ぼすそれを使わなければ倒すことが叶わなかったのだから、どれだけ魔王はこの世界を憎んだのだろうか。
「人の魂でもって精霊に転生させるという危険な事実を、当時の国の頂点に立つ者たちは危惧した。精霊のそばで赤子を殺し、精霊に転生させて自分の意のままに操ろうという愚行を犯す者まで現れ始めたのだ。だから勇者と魔王が『人の身で精霊になった』という事実を隠蔽することにした」
当時の国の対応については皇帝が話を引き継いで説明する。
「最初は各国も秘密裏に人を精霊にする研究を続けていたようだが、長い年月を経てさまざまな国が消えていくことで研究も廃れ、古くから残っている国以外はその事実を忘れていった。それと同時期に精霊たちが姿を消し始めたのも、精霊を人々の記憶から消えるきっかけになったのだ」
ロードリックの言葉に触発されてなにかを思い出したらしいレスタがポツリとつぶやいた。
「たぶんエーレクロン王国に精霊の愛し子が現れたからだ。白鷲のスノーが契約をして、彼は自慢するために大陸中を飛び回っていたはずだ。その話を聞いた精霊たちが愛し子目当てに一斉に移動した時期があったな」
孤高の大鷲、白き氷の精霊と呼ばれる白鷲スノーは、一夜で大陸を馳せながら己の契約者を自慢するクーデレ精霊であったようだ。
「よっぽど嬉しかったんだね……」
なんとなく彼が白い羽を膨らませて自慢する姿が想像できてアラステアは小さく笑ったが、それで無駄な犠牲を出さなくなったのだから結果オーライである。
「大昔に大陸の東側で精霊の存在を隠した理由は判りました」
腕を組みながら頭の中で年代と話の内容を整理し、精霊を取り巻く今の状況に付け加えていく。そうすると今まで当たり前だと思っていた事実が、誰かによって情報操作されていたのだと理解できた。
「魔王の被害は大陸の東半分に集中していた。そして魔王の身の上を知っていたのは、発生した国とその周辺国の上層部だけだったそうだ」
「なるほど。だから少し離れていたエーレクロン王国とその周辺国では、勇者が人の姿をした精霊だったという話が広がらなかったんだね。おかげで精霊の存在が認知されたままだったと」
情報網が未発達の時代の話だ。今のように国家間の行き来に街道の整備も不十分で転移門もなかったから、魔王の脅威も自国に被害がなければそれほど警戒していなかったのかもしれない。
「エーレクロンは大陸一古い国なので勇者と魔王が精霊だということは知っていたな。それでも魔王の魂を抱えた勇者を自国の中心にある森で守ると決断したのは私の契約者だった。そして魔女とともに迎え入れ、精霊と人の取り決めを定めたのだ。それは精霊であった勇者や魔王が目覚めたときに対応するためのものでもあったと聞いている。ただ……彼らが千早と同じ世界の人間だったということは初めて聞いたよ。だからそなたの記憶が魔女の対価になったのだな」
情報のすり合わせにレスタが加わった。懐かしいのか昔の契約者を思い出して目を細めて話す精霊に、アラステアはむっとして抱き着きながら納得する。確かにレスタは千早に嘘をついていなかった。エーレクロン王国の王族も、勇者と魔王が別世界の人間だったという事実は知らなかったのだろう。知っていれば千早の警戒があれだけで済むはずがない。
「それ以来、エセルはシャムロック魔道帝国の皇帝のみにその存在を知らしめてきた。過去の邪悪な試みが再び復活することのないように見張るために」
人の意思を持つ精霊を作る。邪悪と称された試みが実際行われたという事実に吐き気がした。
「それなのに私が精霊の存在を公にしようとしたので、この機会を作ったということですね」
《そなたが精霊に関する矛盾に気が付くのは時間の問題だった。それなら最初から説明したほうがいいと私が説得したのだ》
慈しむようなまなざしに穏やかな口調はレスタに似ていて、まとまらない思考に煮えた頭を冷やしてくれる。それでもレスタが禿げるんじゃないかと思うほどたてがみを撫でまわしながら、無言で父と皇帝の精霊を見上げた。
「精霊に関しては大聖女レラリアからも書状が届いている。時代も変わったし、流通や通信網が格段に発達して、今までのような情報操作が難しくなってきた。そんな時にお前が精霊を連れて戻ってきたのは、何かの予兆だと思ったのだ。だからお前とこれからのことを話い合おうとして――」
《その前に、質問に答えてもらっていいだろうか。千早とは誰のこと?》
父の言葉をエセルが遮った。見下ろしてくる赤い目は先ほどまでと変わらず、けれど言い逃れできない強い光を宿していた。
【世界の裏話・前編】
作者「本日もやってまいりました。世界の裏話コーナー!」
千早「本編は結構シリアスな話なのに、この軽さよ」
作者「言語、下着の話をしてきたので、次は大規模移動魔導陣(転移門)のお話」
千早「(スルーしたw)瞬間移動する魔法の話かな」
作者「うん。日本でいえば鉄道や航空移動と思ってもらえればいいかな。金を出して時間を買うのは一緒ですね」
千早「移動を楽しむのも私は好きだけど」
作者「それは判ります^^。最初は近場だけにしか転移ができなかったけど、最近は魔道陣の改良もあって数国を跨ぐ距離が可能になりました」
千早「私は乗り物に弱いから、転移陣が日本にあったらうれしいだろうなぁと思う」
作者「輸出したのはシャムロック魔道帝国で、もちろんブラックボックスもあります(笑)。数年に一度の割合で事故も起こります」
千早「ひえっ」
作者「ぱっと消えちゃうんですよね。一応禁忌事項もあって守らなきゃどうなるかわからないよ、とは言ってあるんですが、事故の半分はそれが原因です」
千早「禁忌事項って?」
作者「例えば危険な魔導の持ち込みや、指定危険物の転移です。猛毒をまき散らす魔物の死体を、相手の国の転移門にいきなり送り付けるようなテロを防ぐためですね」
千早「ちょっと怖いんだけど」
作者「飛行機と一緒と考えてもらえると判りやすいですかね。武器とか可燃物とか、持ち込み禁止でしょ?」
千早「それで消えちゃうってどうなるわけ?」
作者「それがよく判らなくて。たいがいは魔導が発動しないことで防ぐんですが、ときたまなぜか発動したのに出口に現れなかったということがあるんです。どこか別の場所に転移したという話もないようですし、事故があるとシャムロックの魔道師たちが嬉々として調べに行ってます」
千早「ダメじゃん」
作者「嘘か本当か、数十年後に現れたなんてうわさもありますけど、今のところ生きて見つかった人はいないようですね」
千早「なんで消えたって判るわけ?」
作者「転移門を作動させるとシャムロック魔道帝国に情報が行くんですよ。それで入ったのに出てこないという異変に気付いて、移動魔導陣の全停止なんて事態に陥ったこともあります」
千早「その辺りは鉄道、航空と変わりはないのね。でも他国がいつ、何を、どこに送ったのかとかの情報が筒抜けじゃない」
作者「そこは織り込み済みで使用しているようです。それだけ便利だからなのですが、本当に知られたくないものは転移門を使用しないでいるみたいですよ」
千早「ふーん。そんなに便利ならすごい高そうね」
作者「もう少し詳しい話はまた次回に。あとがき初めての後編だよ♪」
千早「(疲れているんだろうか。テンションがおかしいな)」




