魔道皇子、仲間を紹介する
・このお話はフィクションでファンタジーです。
裏口で警備の騎士に一時止められてから、迎えに来た皇帝の第三侍従とともに入城した。
裏口でのやり取りはすでに何度もあって、ある意味彼らが出世するための通過儀礼となっていた。放蕩者の第三皇子の顔を覚えさせることで、表で立っているだけの騎士ではなく、皇族に信用される存在になるのだという。
裏口の警備という出世から外れたような位置に一度置くのも、近衛に上がるための試験なのだ。ここで腐って仕事の手を抜くようなら、皇族の身近で警護することはできないと判断されるらしい。そのことは本人には知らせないし、一定期間が過ぎれば元の職場に戻るが、そこから数年は出世が見込めなくなるだろう。
常に帝国への忠誠と正義を試される騎士という職業は大変だと思うが、アラステアを第三皇子と知って確認も取らずに入場を許可する騎士を見るたびになんとも言えない気分になっていたので、今日のやり取りはまだマシだ。
第三皇子の居室は魔道の塔に近い場所にあり、城の中にありながら完全に独立した造りになっている。一応専任の護衛騎士はいるが、魔道による結界がバリバリに張られているそこを人力で守護する必要はあまりなく、現在はなんらかの理由で仕事を減らしたい騎士たちで構成されていた。
それでも理由がなければ立派な騎士たちだ。主不在でもしっかりと仕事をこなしていたらしく、帰ってきたアラステアと仲間たちを整列して出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ」
「出迎えご苦労。変わりはないか」
「はい。何事もなく」
侍従長と筆頭守護騎士があいさつを終えてから皆にレスタたちを紹介する。
「私と契約した精霊レスタと、エーレクロンから引き抜いてきた私的な騎士のジーク・フィールド。そして彼が契約している精霊のロイだ。彼らは特別な客人になるのでよろしく頼む」
あらかじめ精霊についてはヴァージルから伝えてあったのだろう。彼らは初めて見る存在に戸惑うことなく歓迎の意を示した。
「皆さまを歓迎いたします。慣れぬことも多くご不便をおかけするかもしれませんが、どうぞなんなりと申し付けください」
一同を代表して筆頭侍従が頭を下げると、レスタが慣れた様子で進み出る。
「出迎えを感謝する。私たちは慣れぬどころか初めての存在だろう。どうかアラステアが私たちに接するのと同じようにしてもらえるとありがたい」
獣の姿で知性を感じさせる穏やかな言葉を発するレスタに、その場にいた者たちはしばらくあっけにとられていたが、そこは他国から見れば高度な不思議を操る魔道帝国の民である。話をする見慣れぬ生き物を比較的素直に受け入れた。
「基本的に精霊にもてなしは必要ないよ。食事もいらないし、自然とそこにある存在だから。ただ、まだこの国のみんなが慣れていないから、どこにでも入り込むのは我慢して」
アラステアの言葉の前半は仕えている者たちに。後半は自由気ままな精霊たちに告げると、レスタと彼の頭の上にいたロイがうなずいた。
「それとジークは私の冒険者の仲間であると同時にレスタの護衛でもある。皇帝陛下に相談してからになるけど、たぶんヴァージルと同じ立ち位置になると思う」
皇城の内部を興味深そうに見まわしていたジークが、自分の話にこちらに意識を向ける。少し緊張しているのか、威圧感が漏れ出ているせいで護衛騎士たちが緊張を漂わせた。
「エーレクロン王国の精霊騎士ジーク・フィールドと申します。お世話になります」
人当たりのいいほほ笑みを浮かべてあいさつをするジークに、第三皇子専属の侍女数人が目を輝かせた。
彼は皇族や王族のように見目麗しいわけではないし、年齢もあって男くささを感じる容姿なのに、人柄がにじみ出るのか人に好かれることが多い。逆に見た目がよいアラステアに近づいてきた人間が、精霊大好きな性格や微妙に老成した考えを知って離れていくことあるので、かなりうらやましく感じる。
一通り顔合わせを終えるとジークとロイを客室に案内してからレスタを伴って自室に戻ると、待っていた侍女長が鬼気迫る様子だがにこやかな笑顔でアラステアを捕まえた。
「無事のお帰りをお待ちしておりました。本日の夕食は皇帝陛下、皇妃殿下とご一緒ということですので、さっそくですが浴室にどうぞ。夕食までには間に合わせてみせますわ」
「ただいま、エルザ。今来たばかりだから一息つきたいんだけど……」
「殿下はもちろんヴァージル殿にも言いましたが、城を離れているあいだも髪と肌のお手入れだけは続けてほしいと申し上げておりました。わたくしには約束を守っていただけたとは思えませんが」
「……ああ、うん。ごめん」
反論を言い返されて黙った契約者が帰って早々浴室に連行されるのを見たレスタは、それまで埃っぽかった自身をこっそりと綺麗にする。アラステアを捕まえたあとにレスタを見た侍女長は、見慣れぬはずの金獅子を容赦なく観察すると、なにも言わずに自分より身長の高い青年を連れて行った。
アラステアが声に出さずに(うらぎり者~)と叫んでいたが、賢い精霊のレスタは空気を読んで行儀よくソファに座って待つ。出入りする侍女たちがちらちらとこちらを見てくるが、レスタの青い目は居室や皇城の周囲に張り巡らされた美しい魔道を観察していた。張った人数は四人。一つ目はアラステア。二つ目は居室だけのヴァージル。三つ目はアラステアの血縁らしき人物。そして四つ目が……
「入るぞ」
ノックに返事をする前に扉が開き、ヴァージルがロイ連れて入ってきた。
「ジークは?」
「侍女たちに丸洗いされている。殿下もだろ?」
一人足りないとレスタが質問すると、入城したことでアラステアのことを殿下と呼ぶようになったヴァージルが空いていたソファにどかりと座り込んだ。
「休みを取ろうと思って来たんだが……」
「宮仕えのつらいところだな」
あれだけ帰国したら城に上がらず休みを取ると言っていた男性が、しっかりと帰城するまで付き合い、こうして休みを取る許可を得にくるのだから、見た目によらず本当にまじめな男だと精霊たちは小さく笑う。
「そなたはアラステアの家族と夕食をともにしないのか?」
「殿下は俺の雇用主。ジークはエーレクロン王国の騎士で、殿下の友人だから立場が違うんだよ」
精霊たちの質問に答えたヴァージルはくすんだ金髪を揺らして億劫そうに立ち上がった。
「アラステアに伝えてくれ。別邸に戻って掃除とか部屋の準備をしておくから、用事があれば呼び出せって」
旅装のままだった元暗殺者の男は腰をぐっと伸ばすと、足音も気配もなく部屋を出ていく。後姿を見送っていたロイはテーブルの上でコロンと横になり、腕枕をしながらしみじみとつぶやいた。
「ヴィー君って見た目は悪そうなのに、やることは真面目なんだよねぇ」
「私にはときどきアラステアの保護者に見えるよ」
「そうそう。さっきのヴィー君は雇われだって話も、アラステアとはズレてるんだよな」
雇用される側として一歩引くヴァージルと、冒険者としての先輩であり、仲間であり、信用のおける部下であり、そして大切な友人だと思っているアラステアとのズレに精霊たちは首をかしげる。
「僕としてはアラステアの考えのほうが自然だよ。友人で、仲間で、部下でもある。全部一緒でいいじゃん」
「だがアラステアはこの国の皇子で、さまざまな責任やしがらみを持つ。そういった人間と対等の立場に立つことに重圧を感じる者もいるのだよ」
「ふ~ん」
暇を持て余しているのか、ころころと転がってレスタと会話をしていたネズミの精霊は、おもむろに立ち上がると鼻をひくつかせながら周囲の気配をうかがった。
「監視が解けたね。暇だからちょっと遊びに行ってくる。用事があればあのきれいな魔道で呼び出して~」
「慎重にな」
「大丈夫。アラステアの迷惑になるようなところには行かないよ。この城の誰でも出入りできる場所を見てくるだけ」
うきうきと声を弾ませながら素早い動きで開いていない扉から出ていくロイを、ご機嫌に尻尾を揺らしたレスタが見送ったのだった。
◇◇◇
洗われ、こすられ、揉まれ、塗りたくられた入浴が終わったアラステアはぐったりとレスタに寄りかかっていた。テーブルに置かれたお茶はすでに冷めているが、それだけの時間をかけても青年の気分は持ち直らなかったらしい。同じ部屋にジークもいるが、こちらはうんざりとした表情ではあるもののアラステアよりは軽微な疲労で済んでいるようだ。
アラステアはもとよりジークまでもが上質な正装を身に着けているので、雰囲気の違う凛々しい男二人がそろっているのをレスタは満足そうに見つめていた。
「皇太子殿下がお越しでございます」
部屋付き侍従が予定されていた来訪を告げ、皇子を出迎えるべく一同は立ち上がる。部屋には十名ほどの近衛騎士と二名の魔導騎士が待機し、得体のしれない生物に対する警戒は最高レベルだったが、精霊たちはもとより大国の騎士だったジークも動揺することはなかった。
「ステア! おかえり」
現れた皇太子サディアスは燃えるような赤い髪とアラステアと同じ金の目を持っていた。体格はアラステアと次兄エグバートの中間くらいで、美しい容姿と凛々しいまなざしが強い印象を受ける。なにより発せられる覇気は人が無意識に従ってしまうものであり、発せられた声は明朗で聞いているだけで気分を上げる明るさに満ちていた。
「ただいま、サディ兄上」
末弟の帰国を本気で喜んでいる満面の笑みはアラステアに似ていて、帰還の報告をするアラステアも甘えるような嬉しさを滲ませた表情を浮かべる。
「元気そうで安心だ。いろいろあったようだけど詳しい話は後日聞くから、今日は父と母に無事な姿を見せてあげて欲しい。それと――」
そこまで話してからアラステアの後ろに控えていた精霊たちとジークを見た。
「両陛下が一刻も早くあいさつをしたいと希望されていてね。一番近い空いた時間が今日の夕食の時間だったんだ。本当なら正式に謁見するのが筋だろうが、どうかこちらのわがままを聞いてほしい。正式なあいさつはその時に一度に済まそう」
お互いのあいさつの前に帰国直後の夕食同席の理由を述べたサディアスは、魅力的な笑みを浮かべながら気軽な雰囲気で提案してくる。ちらりとレスタたちを確認すると、優しい彼らはこちらの強引な提案を快く受けてくれるらしい。小さく頷きあってから長兄を促した。
「こちらは大丈夫。ただ彼はエーレクロン王国の騎士だから、非公式ということにしてね」
ジークを指してこちらの要望を伝えれば、アラステアよりも硬質な光を浮かべる金の目がちらりと彼を見てからぎょっとしたように視線を止める。長兄の珍しい態度に何事かとジークを見ると、今まで姿を消していたネズミの精霊がいつの間にか肩の上で小さな手を振っていた。
ロイが散歩に出ているとレスタに聞いていたので、常識人の彼らしく黙って合流したのだろう。
「彼も私の仲間だよ。可愛いでしょ」
ロイの可愛さを自慢すると長兄が微妙な顔をするが、気にすることなく両親の元に移動を開始する。護衛騎士や皇太子の侍従を含めると総勢二十人の大移動だ。サディアスの後ろにアラステアとレスタが並び、その後ろにジークが続いていて、前後を騎士たちが挟んでいる。
やがて皇太子の黒の騎士服とは対照的な白い制服を身に着けた騎士が見えてくる。皇帝夫妻の皇帝騎士が警護している部屋は明るい光に溢れていて、落ち着いたオフホワイトの調度品が設えられていた。
長テーブルの一番奥に椅子が一つ、角を挟んで左右には三組ずつあり、中央には花が飾られて銀食器が美しく並べられている席に、サディアスの侍従が三つ並んだ席の真ん中に主を誘導し、アラステアの侍従がサディアスの対面の上手の席にアラステアを座らせると、あいだの二人掛けのソファにレスタを、そして一番下座にジークを案内した。
この国の皇太子と同席するジークはかなり居心地が悪そうだが、アラステアが長期で城を空けて帰ってくると、皇帝は話を聞くためにサディアスの席と交換することはよくあったので、この配置は間違いではない。
謝罪の意を含んだ視線に、小さく息を吐いたジークは一瞬目を細めてから薄い表情で前を向いた。
「……ずいぶんと仲がいいんだな」
視線で会話をしたことを察したサディアスが興味深そうに話しかけてきて、直答をためらったジークの代わりにアラステアが答えた。
「大切な仲間ですからね」
「正直に言えばお前がヴァージル以外の仲間を作るとは思わなかった。エーレクロン王国に無理に付けられたのではないだろうな?」
とりあえず精霊の話はあとにするらしく、ジークに対する質問が飛んでくる。長兄の心配もわかるので、アラステアは金色の目でほほ笑みながら返答した。
「ジークは私に騎士の忠誠を誓ってくれましたよ。本当はエーレクロンの騎士もやめるつもりだったようですが、シャムロック魔道帝国の皇子のそばにいるのなら、騎士爵と肩書はあったほうがいいだろうというサラディウス陛下のご厚意があったのです」
国王とは違う人物に忠誠を誓って国を出た男を騎士にしておく理由はないのだが、それまでの国への貢献とジークとアラステアとレスタの関係を鑑みて精霊騎士という身分を用意してくれたのだ。国を運営する者としてある程度理解したらしいサディアスがしばらく考えたあとに答えた。
「確かに、ただの平民冒険者をこの席どころか皇城に迎えることは難しいからな。それとなくお礼を伝えておく」
「ジークの直属の上司はクラウンベルド公爵閣下だけど、彼のことでなにかあれば私を通してほしい」
レスタに確認してから用意してあった食器を下げてもらっていると、サディアスがジークに関する書類をまとめるために侍従に二、三指示を出す。
「すまない、遅れた」
落ち着いてすぐに次兄エグバートがのっそりと入室してきた。色は母親に似ているが体格は家族の中でひと際よく、翡翠の目は切れ長で鋭い雰囲気を漂わせている。帝国最強騎士の一人で魔導騎士という職業上、腰に下げた剣や弱点をかばうための詰襟の服を身に着けているせいで、男性ですら怯えてしまうことがあった。
「遠征討伐お疲れさま。報告書はあとで見せてもらうよ」
弟をねぎらったサディアスの隣り、ジークの正面に座った次兄はうなずいてからジークの肩の上にいるネズミの精霊に目を向ける。
「ロイ、この城は面白かったか?」
迎えに来たエグバートはロイと妙に仲良くなっていた。もともと人当たりのいいロイと、小さな生き物に怯えられなかったと喜んだエグバートは気安いようすで会話を続ける。
「あ、部屋出たのダメだった? いちおう人のたくさんいるところだけ探検に行ってたんだけど」
監視の目がなくなってから部屋を出たロイの行動を把握していた第二皇子も、この国の最高戦力でもある皇子に怯むこともない精霊も楽しそうだ。
「いや。ただこの城の者はまだロイを知らないだろう? 踏まれそうになったり、追い払われそうになったりしなかったか」
「僕は精霊だよ。人に踏まれたくらいでどうなるっていうのさ。それよりこの国には面白い人がいるね~。隠れて行動していた僕を見つけた人がいたよ」
「へぇ。それは凄いな」
純粋に心配したエグバートに胸を張って返事をしたロイだったが、精霊を見つけたという言葉にジークが反応した。
「そうなんだよ! エーレクロンでも契約者でもなきゃ見つからなかったのに、二人ほど僕を見つけて驚いてたんだ」
本気で身を隠した精霊を見つけるのは本当に難しく、派手な見た目の銀狼の精霊カイですら、突然目の前に現れたように見えて驚くことがあるほど。
「ロイ。あとで私と一緒にその人物を探しに行こう。そんな面白い……コホン、貴重な人材は確認しておかないと」
それを思い出したアラステアがうきうきと楽しそうにネズミの精霊と約束をしていると、皇帝夫妻の護衛騎士が入ってきて両親の到着を告げた。部屋に静かに緊張が走り、全員が立ち上がる。上座に近いドアが大きく開かれ、皇帝騎士に先導された皇帝と皇妃が入室した。
皇帝は皇太子サディアスの髪と目の色を持ち、体格と顔はアラステアに似ていた。アラステアが赤い髪を持ち、年を取ればこうなるだろうと簡単に想像できる容姿だ。
逆に皇妃は第二皇子エグバートと同じ色で、顔の作りはサディアスとそっくりだ。女性の年齢が分かりにくいのはよくあることだが、第一皇子と並んで座ると姉弟に見えなくもない。
長テーブルの一番奥に皇帝が座ると、一同も合わせて着席した。
「まずは無事に家族が揃ったことと客人の来訪に乾杯しよう」
給仕が流れるように食前酒を注ぎ、それを手に持った皇帝の合図で全員がグラスを掲げた。静かな室内で精霊たちも機嫌よく見守る。
グラスを飲み干し、一息ついたところで皇帝がアラステアたちを見た。
「いろいろあったようだが、とにかく無事に帰ってきてよかった」
「私も想定外の出来事で、ご心配をおかけしました」
彩り美しい前菜が運ばれてくるのを見ながら話をしていると、皇帝の金の目がレスタに向いた。
「お前の客人を紹介してもらえるか?」
父親から促されてアラステアが順番に紹介していく。
「となりにいるのが私の精霊レスタです。そのとなりがエーレクロン王国の精霊騎士で私の専属騎士のジーク・フィールド。彼の肩の上にいるのが彼の精霊で私の友人のロイです」
ところどころで皇帝の背後にいた秘書官の目じりがけいれんしていたが、皇帝一家とその客人たちは何事もなかったように話をつづけた。
「息子が世話になっている。アラステアの父のロードリックだ。となりが妻のアメーリア。一番目の息子のサディアスとそなたたちを迎えに行った二番目の息子のエグバートだ」
名を紹介された者が小さく頭を下げたり、にっこりほほ笑んだりとあいさつを交わし終えると、皇帝の合図で食事が始まった。
「アラステアの客人たちにはすまないことをした。すぐにでも正式に謁見したかったのだが、ここ数日は予定が詰まっていてね」
「一国の主なのだから忙しいのは仕方がない。私たちはアラステアがいいのならなにも気にせぬ。それに……」
老齢した者たちの会話にアラステアがうんうんとうなずきながら食事を堪能しているのを横目に、レスタは口元に笑みを浮かべて続きを話す。
「われらのような得体の知れないモノを受け入れるには、まだまだ根回しが必要だろう。皇帝とご家族には感謝しかないよ」
それまで優雅に食事を取っていた皇帝一家が一斉に手を止めた。皇帝はどこか納得したような、皇妃は素晴らしいものを見るような、第一皇子は驚きで、第二皇子は当然といった顔でうなずく。
次兄を除く家族は、精霊にここまでの知識と常識はないと思っていたのかもしれない。次兄だって数日を一緒に過ごさなければ同じ反応をしたはずだと思いながら、アラステアはメインの肉料理をフォークにさしてレスタに差し出した。
いつものように一口もらったレスタは慣れぬ香辛料に目を丸くしながらも、美味しそうに食べてくれる。
「驚いてすまないな。わが国で精霊を正式に確認したのはすでに三百年以上前のことなのだ。すぐにアラステアから正確な情報を聞くことにしよう」
いち早く立ち直った父親が続けると、レスタは口についたソースをぺろりと舐めてから気にすることはないと首を振った。
「われらのことを理解しようとしてもらえるのはありがたいが、王とは忙しいものだ。われらは逃げも隠れもせぬ故、無理をせずにゆっくりとアラステアの話を聞いてもらえぬか」
アラステアの話から彼がすべてを家族に語ってはいないことを知っていたレスタが、親子の時間を大切に過ごしてほしいと伝えると、皇帝ロードリックはそれまでの威厳をかなぐり捨てて大きくため息を吐いた。
精霊を除くその場にいた全員が皇帝の奇行に驚く中、彼は末の息子を見て言った。
「お前が全力で迎えに行った理由が判ったな。ここまで愛されていて離れていることなどできるわけがない。ステアの大切な存在を迎えることができて、私もうれしいよ」
もう一度歓迎の意を示した皇帝がワインの入ったグラスを掲げると家族もそれに倣い、一緒にグラスを掲げたアラステアとレスタは小さく笑いあったのだった。
【世界の裏話】
作者「本編に書くほどじゃないけど、妄想して、余裕があれば本編に出したい異世界の設定のお話です」
千早「なんか、どうでもいい情報のような……?」
作者「(ほっとけw)今日はアラステアのパンツの話」
千早「前世の身として止めるべきか、一緒に楽しむべきか(悩む)」
作者「服装の話はあとで出るので止めますが、一緒に下着を考えたときに決めた設定です。せっかくなので本人に語ってもらいましょう」
アラステア(以降アル)「お邪魔しま~す。いつも楽しそうな話をしていると思っていたんだよね。私も呼んでもらえてうれしいよ」
千早「……」
作者「アルの下着は特注だったよね?」
アル「そうだね。素材を集めて何度か試作品を作って履き心地を確かめてみたりしたから、貴重な体験だった」
作者「で、結果ぴったりフィットしたトランクス型になったと」
アル「うん。千早のお父さんがぶかぶかトランクス派だったから試してみたんだけど、スキニー系のズボンを履くのに合わなくて」
作者「ブリーフ型でないのはなぜですか?」
アル「これはこちらの事情なんだが、帯剣するのに腰にベルトをまくんだけど、そこに下着が入り込むと痛みを感じる時があるんだ。だから私の下着はかなり股上が浅く作られている。つまりローライズなんだよ。それでブリーフ型にすると履いているうちにずれてきてしまって。もっといい製法があるんだろうけど、そこまで下着に情熱はかけていられないからね」
作者「ベルトかぁ。腰骨の上の皮膚が刺激で黒ずんでくるんですよね。せっかくきれいな身体なのにもったいない」
アル「この世界の一般的な男性の下着はゆとりのあるトランクス型だけど、ヴァージルなんかも気に入って履いてるから、冒険者なんかには売れると思う。長さもいろいろ作っていて、ぴったりステテコ型もあるよ」
作者「最初はふんどしを試しましたもんね」
アル「男性の下着で不満だったのは……お嬢さん方に進んで聞かせたい話じゃないが、性器の位置がずれることだったんだ。それで思いついたのが簡単に作れたふんどしだったわけ。あれは帯剣するのには向かないけれど、本気で気合が入って好きだよ」
作者「昔の侍さんたちはどうやって腰回りのもたつきを解消していたんでしょうね」
アル「うん。ただこの世界には下着にするのにちょうどいい伸縮性の優れた素材があって、そちらを使ったほうが楽だったんだ」
作者「使用感は個人の感想です」
アル「え? なんでそんな予防線を張ってるわけ」
作者「いえ、全国ブリーフ協会とかからクレームがくると嫌だから。それより千早は静かですね」
千早「アラステアって私の記憶もあるんだろうけど、なんかチャラいなって思った」
作者「下着の感想じゃないしw」




