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魔道皇子、精霊の愛し子になる  作者: サトム
二章 魔道王子、帰国する
19/28

魔道皇子、性別を見破る

・このお話はフィクションでファンタジーです。

・今回は残酷描写注意! 特に虫注意です!

 冒険者ギルドの前には大型の馬車と十数人の冒険者たちが集まっていた。

 装備はさまざまだが少しの出血でも生死にかかわるので、ギルド主体で各個確認をされる。アラステアもジークも無事にパスしたので、集合時間まで一緒に行く連中を眺めていたのだが。


「ジーク。あの小柄な人、判る?」

「ああ。あの人がどうした」


 ギルドの女性職員のところに歩いていっている人物に違和感があってジークに確認すると、水色の目を細めてその冒険者を観察するが、アラステアの感じた違和感には気づかなかったらしい。


「あの人、女性じゃないかと思うんだけど」


 装備は吸血の森に行く冒険者と同じでギルド職員の確認をしっかり受けているのだが、アラステアの勘が警告を発している。

 いざという時は自分とジークくらいならどうにか助かる(すべ)はあるから、曖昧にしたまま行っても困りはしないし、もしかしたら何もないかもしれない。だが、もし確認をしているギルドも公認だとしたら、これから重大な事故が起こる可能性が跳ね上がってしまうだろう。


 一緒に見ていたジークは自分では判らないと首を振るが、面倒ごとを嫌いながらも、この依頼を失敗したときの最悪なパターンを想像すると黙っているわけにもいかない。躊躇しているとジークが勇気づけるように背中を軽く叩いてきた。


「冒険者の依頼は生死に関わるから、気になることがあるなら確認したほうがいい。もし本当にあの人が女性なら『最悪』もあり得るのだから。俺のことなら気にするな。命があればランクを上げることなどいつでもできる」


 男前なセリフに惚れ直しながら、同じことを考えたらしい彼に一つうなずいて歩みを進める。


「あの」


 ギルドの女性職員と小声で話していた件の人物に近づくと背後から声をかける。声をかけただけなのに大げさに驚く二人に、アラステアは形だけのほほ笑みを浮かべて話しかけた。


「間違っていたら申し訳ないんだけど、あなたも吸血の森の採取依頼を受けた冒険者なのか?」


 小柄な冒険者は不機嫌そうににらみ上げてくるが、質問に答えたのは間に割って入った女性職員だった。


「なんですか? 彼は三級冒険者ですが、ギルドからの推薦があるので参加資格はありますよ!」


 勝気そうな女性職員を無視して、アラステアはじっと小柄な冒険者を見つめる。森に入るために肌の露出は最低限だが、近づけばこの冒険者が女性だということはすぐに判った。


「吸血の森に女性は入れない。それを知っていてここの冒険者ギルドは彼女(・・)に許可を出したのか」


 言い合いを始めてから周りの視線が集まっていたが、アラステアが女性と断言したことで一気にざわつきだす。ほかの冒険者を確認していた男性職員が慌てて駆け付け、なにがあったのかと同僚に問いただすと、彼女は「何も根拠がないのに()に参加資格がないと言いがかりをつけてきた」と金切り声をあげた。


「あの、ギルドでも審査しておりますので女性ではないのですが……もしよろしければなぜ彼を女性だと思ったのかお聞きしても?」


 ここを取り仕切っている職員の男性がきっぱりと断言したが、一応こちらの言い分も聞いてくれるらしい。どうやらギルドぐるみで女性を参加させようとしているわけではないとわかって、黒髪の一級冒険者は肩の力を抜いた。


「まずは歩き方。男性と女性では骨格が異なるから、体重移動の中心が異なるんだ。男性は肩から歩くし、女性は腰から歩き出す。こればかりは経験と勘だが、間違ってはいないはずだ。私は立場上、周囲の人間の違和感や嘘を見抜くように訓練されているからね」


 言いながらフードを外すと、ギルド職員は驚いて息を飲む。黒髪と金目の一級冒険者である魔導士は、この町の冒険者ギルドでも有名だった。もちろん帝国の皇子という身分も知られており、言葉の信ぴょう性は増したはずだ。


「それから魔力の質も女性特有の動きだ。これは見えないと判らないだろうけど、よほど腕利きの魔導士でなければ私をごまかすことは無理だよ」


 ここまで指摘されれば完全にばれたと思ったのだろう。冒険者は顔を覆っていた装備を引き下げて、そのかわいらしい顔を歪めて怒鳴った。


「そうよ、私は女よ。でもそれのなにが悪いの?! どうして女性だからって差別されなきゃならないのよ! 私は女でもその辺の冒険者より動けるし戦えるわ! 吸血の森の採取は実入りがいいのに、男性限定なんてずるいじゃない!」

「そうよ! 怪我さえしなきゃ女性でも採取は可能だわ! 男性と女性でどんな差があるというのよ! 同じ血液が流れているのに!」


 女性冒険者に同意するように怒鳴る女性職員。まさか本気で女性を吸血の森に行かせようとしていたのかとあっけにとられた男性職員の横で、アラステアは大きなため息をついた。


「犠牲者七人」


 ぽつりとつぶやくとそれまで怒鳴っていた彼女たちが怯む。

 昔、吸血の森に入った女性のせいで一度に七人の冒険者が犠牲になった。この町にいる者ならだれでも知っている話だし、吸血の森での依頼を受ける冒険者には戒めのために語られ続けていた。


「とある冒険者グループが止めるギルド職員を無視して仲間の女性冒険者とともに森に入って全滅した。一緒に入っていたほかの冒険者も犠牲になった話を知らないのか」

「知っているわよ! でもあれは生理の周期を確認しなかった女が悪いんじゃない。私はそんな馬鹿なことはしないわ!」


 確かにその時に犠牲になった女性は森の中で突然生理が始まってしまい、その血液の匂いを嗅ぎつけた虫たちに襲われて亡くなっていた。だがこの話の根本はそんなことではないのだと理解していないらしい。


「男性だって突然鼻血を出したりするんだから、危険度は一緒のはずです。そんなこともわからないんですか?」


 腕を組んでこちらを馬鹿にしたように見上げてくる女性職員をじっと見つめると、事実を淡々と口にする。


「鼻血がでたらすぐさまポーションを使う。その程度なら私の回復魔道でも出血はすぐ止まるだろう。ほかの場所からの不意の出血も一緒だ。だが生理は違う。目に異物が入れば涙を流すように、口の中が常に潤うように唾液がでるように、生理は怪我じゃないからポーションでは治せない。それに女性の体は繊細だ。緊張のあまり不正出血をしたらどうする。ごめんなさいじゃ済まないんだぞ」


 アラステアの見立てだが、吸血の森は前世でいう赤血球に反応している。ほかの体液には反応しない代わりに、どれだけ少量であろうとも吸血生物たちは嗅ぎ分けてくるのだ。だからこそ、この依頼は男性限定なのである。


「一生に数回あるかないかの病気による出血ならば、運が悪かったと諦めもつく。だが月に一度では頻度が多すぎるだろう。これ以上の説明は必要か?」


 吸血の森での死に方は凄惨だ。虫や植物が次々と押し寄せて、まずは出血した獲物を狙い傷口から皮下に入り込む。その際には麻痺毒も一緒に分泌されるため痛みはないが、それ故に獲物は生きて動き回り周囲の生き物を傷つけるのだ。そして新たな血液に反応してさらに大量の吸血生物が押し寄せてくると、たとえ傷がなくとも動くだけで襲われることになる。


 犠牲者の最後は、痛みはないが意識を保ったまま自分の体が虫たちによってぐちゃぐちゃにされるのを感じるという。頭蓋に守られた脳に吸血生物が入り込むのが最後だからだ。そうして失血死する。

 アラステアが話した七人の犠牲を出したときに生き残ったのは三人。彼らは件の冒険者グループから少し離れた場所を探索していて助かったのだが、押し寄せる吸血生物が全身を覆っていて、狂乱が収まるまでの三日間、少しも動くことができなかったという。最初の騒ぎに巻き込まれなかった冒険者はほかに二人いたらしいが、彼らは体力が尽きて動いたために助からなかった。


 それでも冒険者が吸血の森に入るのは、貴重で重要な薬の材料が採取できるからだ。大けがをしたときの止血剤だけでなく、胎児が流れるのを防いだり、子供をできにくくするための薬の材料もある。

 だが、これだけ説明しても彼女たちは納得しなかった。


「だったら女性だけで森に行く日を決めたらいいのよ。そうすれば迷惑は掛からないでしょう?」


 いい加減に苛立ちが限界のアラステアの前に男性ギルド職員が入り込むと、怒りを押し込めた低い声で言った。


「七人が犠牲になったときは森が過敏になっていて、(おさ)まるまで二か月間も入ることができませんでした。その間に何人の子供が助からなかったか、あなた方は判りますか。あなたが一人で死ぬ分には何も言いません。冒険者という仕事はそういうものだ。ですがあなた方の勝手で犠牲になる命があることをしっかりとその足りない脳みそに刻み込め! こういうのは差別じゃなくて区別っていうんだよ!」


 最後は切れた男性職員の剣幕にひるんで二人は泣き出してしまうが、誰も慰めようとはしない。これは女性だから男性だからという問題ではなく、依頼の条件に不適格な者の不正受注だからだ。

 しくしくと哀れに泣く二人をほかの職員がギルド内に連行していくのを、集まった冒険者たちが厳しい視線で見送ると、男性職員がアラステアに頭を下げる。


「ご指摘くださりありがとうございました。二度とこのようなことがないように、職員の教育を徹底していきます。まことに申し訳ありませんでした」


 男性職員とともに数人の職員が頭を下げると、アラステアは小さくため息をついて腕を組んだ。


「冒険者ギルドに謝罪の意思があるというのなら、今回の依頼の受注を違約金なしで取り消しにしてもらいたい」

「……理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」


 一級冒険者からの申し出に、職員は驚きはしたものの一呼吸おいてから質問してきたので、今の正直な気持ちを伝える。


「ギルドへの不信が一番だ。もしかしたらほかにも女性がいるかもしれないし、持ち込み禁止の食材を見逃しているかもしれない。それでなくとも神経をすり減らす過酷な森だ。気の弱い者なら二日と持たずに逃げ出すし、最悪それで食われることもある。疑心暗鬼はあの森の中で大きな脅威になるからな」


 命を懸けて依頼をこなすのだから少しの妥協もしたくないと言い切ると、男性職員はふたたび頭を下げて謝罪した。


「教えていただきありがとうございます。本当に当ギルド職員が信頼を裏切るようなまねをして申し訳ありませんでした。ただ、性別や荷物の確認は私が責任を持って確認いたしますので、もし可能でしたら二級の採取依頼だけは行っていただけないでしょうか。薬の在庫がもうあまりなく、このタイミングを逃すと薬が尽きそうなのです」

「あなたが信頼できるという証拠は?」


 厳しいアラステアの言葉に控えていたギルド職員が息をのむ。男性職員は頭を上げ、揺るがない目で見返しながらはっきりと告げた。


「七人の犠牲をだした事故で生き残った一人が私です」


 おそらく人の想像をはるかに超える地獄を見てきた男は、穏やかなまなざしのままアラステアを見つめる。アラステアも、かたずをのんで見守っていた周囲の冒険者たちも、言葉を紡ぐことができずに職員を凝視していた。

 男の壮絶な体験を誇るでもなく悲嘆にくれるわけでこともなく、ただ黙って一級冒険者の判断を待つ姿を見て、黒髪をガシガシ掻きながら諦めたようにジークを振り返る。


「いいぞ」


 何も言わずともうなずいてくれる仲間に感謝しながら、アラステアはフードを被りなおした。


「判りました。あなたを信じます。二級採取は何人ですか?」

「あなた方を含めて四人です」

「……荷物を(・・・)捨てれば(・・・・)私一人でもぎりぎり全員の転移ができるか。そちらはどうしますか?」


 近づいてきていた二級採取依頼を受ける二人に聞くと、彼らも憤慨しながらも緊急性は理解していたらしく、このまま出発してもいいと答える。どうやらギルドで指名依頼した冒険者らしく、プロらしい対応にこれなら安心かと納得した。


「予定通り三日で帰ってきます。三級採取依頼は私たちの依頼が終了してからにしてくださいね。もちろん彼女たちを牢から出すなよ? ついてきて困るのはあんたたちだからな」


 一応釘だけさして荷物を取り上げると、同行者に軽くあいさつして用意してあった馬車に乗り込む。ずいぶんと少なくなった人数にため息を吐きながら、アラステアは気を取り直してジークと依頼について話を始めたのだった。


【どうでもいい裏話】


作者「こんにちは。女性向けの恋愛小説で女性に喧嘩を売る話を書いた作者です」

千早「いや、別に女性に喧嘩を売ったわけじゃないんじゃない?」

作者「いえ。一部の(自分たちにとって都合のいい)平等大好き女性たちには不愉快に思われるだろうな、と」

千早「そういうところは喧嘩売ってると思う」

作者「えへw」

千早「褒めてないし!」

作者「でも本気で思うんだ。本当に男女平等を掲げるなら、早く男性が妊娠できるように研究するべきだって。なんで女性だけがあんなにつらい思いをしなければならないのか」

千早「それはどんなファンタジー……(虚)」

作者「まぁ、子供を産む喜びはあるし、命に係わる苦しみを体験できたのは面白かったと思う。男性も一度体験してみるといいよ。人生観が少し変わるから」

千早「そこを面白いと思えるあんたの思考が怖いわ」

作者「産むが易しっていうじゃん」

千早「それは言うが易しでしょ!」

作者「あれ?笑」

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