そのアニマル集う
ンーと前足を伸ばして、次に後ろ足を伸ばす。しゃんと座って欠伸までが一連の流れだ。吉郎も光彦も晩酌を終えて自室で休んでいる時間。今夜は集会だ。前回はまだ秋だったが、今は暖房がないと寒くて布団から出てこられない。晩酌中に見ていたニュースでも、今年は何年ぶりかのホワイトクリスマスになるだろうと言っていた。リビングの暖房はつけっぱなしなので、もう一度お気に入りの座布団で丸くなる。目を閉じ、意識を集中させ、体から抜け出す。少し透明になったアケミは、軽々と床を蹴り、リビングの壁を通り抜け、いつもの集合場所へ駆け出した。外は、ピューと木枯らしが吹いている。実体はないのに、音だけでも寒いと思うことは不思議な感じである。お行儀よくといえど門の下の隙間からだが、門から道路に出て端の方を走り、住宅街の角を曲がり、さらに走ってまた曲がり、見えてきた公園の中を突っ切っていく。上を見上げて走れば、いくつかの星を隠しては去っていく平べったい雲が速いスピードで動いている。橋を越えた向こう側、遊歩道にはピーちゃんかレオンがいるはずだ。ゴンは呼んでやったことはないが、もっと前から呼んでも良かったのかなと思ってしまう。夢の中の母ちゃんも、今生きている父ちゃんもゴンのこと憶えているんだなと知って以来、胸の中心らへんがぽかぽかと温かい。
「ピー!お待たせ!」
「アケミ!よっ!」
集合場所には、ピーちゃんが枝に止まっていた。あいさつ程度に、羽根をばたつかせ、そのまま上から降りてこない。アケミはその下の地面に座り、見上げて話す形だ。
「珍しいんじゃない?降りてこないなんて。」
「うん、まあね。誰よりも早く到着したから、ここで二人の家を見ていたんだ。まだ、レオン出てこないんだよねー。」
ピーちゃんは、もう一回見てくるよと木のてっぺんまで飛び上がり、レオンの家を見るが出てくる気配はない。
「あれかね、誰か起きていて出かけるようにも出かけられないのかもね。」
「わかるわー!オレもマイハニーが深酒しながら愚痴祭りしていると、2人を待たせちゃうもんなー!」
望海のお友達が来てさーとペラペラ話し始める。本当に全てが職場の愚痴だったようだ。
「こればっかりは仕方ないからね。母ちゃんの看病で2人が交互にお世話していたときは、私も来られなかったし。」
「そうだったね。あれは、桜が散るくらいの季節だった。もう結構たつのか。夢の橋使って会いに行ったりしたかい?」
夢の橋、それは夢の中で天国にいる誰かと、今生きている誰かを繋いでくれる神様がプレゼントしてくれた特別なものだ。けれど、いつでも使えるものではなく、順番なのか無作為なのか分からないが、突然夢の中に橋が架かるのだ。それを見つけられて、橋の終わりまで駆け上がることができると、天国の会いたい人に会うことができる。夢からさめて覚えていられる者は多くないそうだ。
「うん。この前、たまたま夢の橋がかかったから会いに行ってきたわよ。前世の家族とか友達とかが集まってきたからなかなか探せなかったけど。」
「みんな、アケミのことが大好きだから仕方ないね!モテ期到来か!」
「何てこと言っていくれるの!私もみんなが大好きよ!モテるっていう次元の話じゃないわ!」
よっ!アイドルアケミちゃん!そんなわけあるか!ピーピーニャーニャーと言い争いが始まる。わざわざ、アケミの傍まで降りてきては、飛び上がり、アケミも捕まえようと木に登っては飛び降り、捕まえようにも捕まらない不毛な追いかけっこしている。
「今夜も楽しそうだねー。お待たせ。祐太とお父さんが喧嘩しちゃって。なかなか来られなかったよ。」
追いかけっこが終わったのは、深夜三時を過ぎたくらいのレオンの声かけだった。
「お疲れ!!レオン聞いてよー!アケミがさー。」
「ピー!レオンに嘘を教えないの!反応に困っているでしょうが!」
レオンの鼻の頭はピーちゃん特等席だと言わんばかりに堂々と降り立ち、それ自体、あまり気にならないレオンは、いつもの位置でゆっくり腰を下ろす。アケミはというと、未だ鼻息を荒くして、四本足で仁王立ちしている。
「まぁまぁ、アケミも座ろう。疲れたでしょ。」
レオンがいつもの優しい口調で提案すると、そ、そうね。と、言われてやっと公箱座りをするアケミ。
「レオン、どうして喧嘩になったの?仲良かったわよね。ずいぶん前の記憶だけど。」
「なーに、進路の話だよ。祐太が、この前の練習試合でレギュラー落ちしちゃったんだよね。それでお父さんが心配になって、スポーツ推薦狙わないで勉強して大学行きなさいって言ったことが始まりで。」
「確か祐太君って、高校には受験して入って、スポーツ推薦で入った他の部員より良い成績出してたんだよね。」
「ピーの記憶通りだと思うよ。何故、勉強できるのに今回スポーツ推薦を取りたいの?」
「祐太曰く、勉強量が多すぎて、このままの練習だとプロになれないし、レギュラー落ちなんて二度としたくないから、練習に時間を費やしたいって。」
「本当にサッカー好きなんだね。プロになったら応援席にレオンを招待してくれるって言っていたよね。」
その言葉でレオンの表情は曇った。一番近くにいるピーちゃんの肩に瞬間的に力が入り、アケミのむにゅ口がへの字になる。
「…彼はもう忘れていると思う。」
あははと自嘲的に笑い、視線がそっぽに向いていく。
「まあ、子どもとの約束だから仕方ないかもしれないけども。応援ならどこにいてもできると、私は考える。要は心でしょう。そこに行かなければいけないわけではないと思う。」
アケミの一喝で、レオンの愁いを帯びた視線が友達の輪に戻ってくる。すかさず、両羽根を開き、援護射撃をするピーちゃん。
「アケミ!たまには良いこと言うー!全ては愛だよ!レオンが居て応援しているなら、その場所が応援席で特等席だ!」
「ありがとう、2人とも。なんか慰められたみたいで。お父さんと祐太の喧嘩の話していたのに。」
先ほどの発言がなかったかのように、いつものレオンが困ったように笑ってごまかしている。それを見逃すほど、浅い付き合いのメンバーはここにはいないというのに。
「だって、それは…」
「ピー。」
だってそんなにも傷ついているじゃないかと口にしようとして、アケミから静止を受ける。意図を理解し、ピーちゃんも何事もなかったことにした。
「はーい。んじゃ、報告会始めようよ。早くやることやらないと、おしゃべりの時間なくなっちゃうし!」
賛成よとアケミは頷く。レオンもコクリとピーちゃんを落とさないように軽く頷いた。




