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白銀の戦姫と黄昏の道化

作者: 睦月みと

短編です


続きが浮かんだら長編にします

そのときは異世界恋愛になるはず

「いやいや、クソみたいな教団だねはっはっは」

「笑ってる場合かアホ!」


 非常に不本意なことに今私たちは絶賛命の危機だった。


「いやさ、こうなったら笑うしかないだろう?」

「口よりも手を動かせ!」

「動かしてるけど効果ないしさぁ」


 なぜこんな柱に腕を縛り付けられているのか。

 …あぁ、そんなに長い回想をするつもりはない。

 ただ、いつものように依頼を受けたらそれが罠だった。それだけの話。


「なにを話している!」

「ここから抜け出す算段を」

「なーに馬鹿正直に話してんだ、間抜けェ!」

「いやだって無理そうだし」

「うるさいぞ!黙っていろ!」

「…クソが…」


 案の定見張りが入ってきた。しかも注意した後も部屋の外に出ていかない。


「……どーすんのよ、この状況…」

「…なるようになる、じゃない?」

「はー…いっつもそれじゃん…」

「静かにしていろ!次期に教主様がいらっしゃる。無礼なことをするなよ」

「てめぇらがしてるコレは無礼じゃないのかよ…」


 というかそもそも無礼なことってなんだ。口が悪いのはもう治らないので見逃してほしい。

 さすがに見張りの目の前で逃亡する準備をするわけにも行かず、必死に動かしていた手を止めた。


「あー!とっとと教主サマとやらを連れてこいよ!」

「そう急かさずともここにいますよ」


 とうとうきた。私たちを罠にはめた張本人。


「教主サマ直々に依頼を出したの?はっ、ご丁寧だこと!」

「下手に教団の人間を使えばバレてしまいそうでしたので。それに、悪魔殺しと名高い方たちの顔を直接見たかったのですが…こんな美男美女とはね。悪魔に捧げるのにはもったいない!」

「……クソヤロウが…」

「へー、私たちの二つ名って悪魔殺しなのかい?」


 私がふつふつと怒りを抑えている間も側の男はくだらない会話をべらべらとし続けている。


「いいえ。あなたたちの二つ名は…白銀の戦姫と黄昏の道化…でしたか」

「こっ恥ずかしい二つ名つけやがって…」

「私は道化かぁ…君は戦姫だって!いいなぁー」

「ならお前も戦えばいいだろ」

「でも向いてないしなー」

「こほん、いいかな?」


 教主サマはどうやら私たちに話を聞かせたいようだ。

 それだけ時間が稼げるしまぁいいか…。


「あぁ。どうぞ?」

「…まぁとにかく君たちは悪魔殺しとしても名を馳せている。私たちは曲がりなりにも悪魔を崇めているのでね。君たちを生贄に捧げたらどれほど喜ばれるだろうか!」

「生贄に捧げられた後ってどうなるんだろうね」

「知ってたらここにはいないだろ」

「それもそうか」

「はぁ…君たちと話していると気が抜けてしまうな…。さあ、みなさん。これより召喚の儀式を行いましょう!」


 ぞろぞろと部屋に教団員が入ってくる。彼らの持っているろうそくがぼんやりと床を照らすと描かれている曲線と文字がはっきりと浮かび上がった。


「これは魔法陣だったのか…。解析できる?」

「もちろん。呼び出せてせいぜい下級だけど…人間からすればとてつもない力を持っているだろうね」

「こいつら下級を崇めてるわけ?はー…期待はずれ。がっかり」

「何をぶつぶつと言っているんですか?もしかして、最期の言葉ですか?」


 崇めているのだし、上級…とまでは行かなくても、せめて名あり(ネームド)の悪魔ならこうしてわざわざ捕まったかいもあるというのに。

 それに教主のキザというか、勿体ぶった言い方がとても気に障る。


「違う。こうして教団を作って崇めるぐらいだし、さぞかし名前のある悪魔だろうな、と思って…」

「えぇ、えぇ!かの悪魔はとても強く、」

「いたんだけど、どうやら下級も下級、弱い悪魔っぽいから期待はずれだなって」

「…は?」


 すでに解けていた縄をはらりと落とし、ゆっくりと立ち上がる。


「知ってた?私たちの悪魔殺しって、私たちの目的とは一致してないの」

「え、な…なぜ解けている!?」

「いやだなぁ、君がべらべらと喋っている間に抜け出させてもらったよ」

「なんでこういう事するやつって喋りたがるんだろ…ま、こうして抜け出せたわけだし油断してもらっていいんだけど?」


 周りは驚いたように後ずさるけれど、詠唱の声が止まることはない。もしもこの儀式が失敗すれば良くて魔力の逆流による内蔵損傷、悪くて悪魔に食べられてしまう。賢明な判断だ。


「さて、どうする?」

「――そうだな、この陣を書き換えて魔神でも喚び出そうか」

「そ、そのようなことできるわけが!」


 ところが出来るんだなそれが。


「マイス。やって」

「お姫様はわがままだなぁ。では失礼して」


 夜色の髪がふわりと広がる。いつ見てもこの光景だけはとても綺麗だなって思ってしまう。悔しいけど。

 彼が床の魔法陣に手をつくと文字と線が生き物のように蠢き、より複雑にその姿を変えた。


「はい、お望み通りに。これで魔神が出てくるはずだよ」

「やっぱり属性を反転させるのは難しいか…ま、魔神も神には違いないか」

「ぐっ……!あなたたちは…一体何をするつもりなのですか…!」


 予想外に魔力を吸われているのだろう。教主が地面に膝をつき、こちらを見上げる。

 ま、さらってきた生贄が魔神を呼び出したりすればそりゃ驚くよね。


「さっきもいったけど、こんな弱い悪魔じゃ私たちの目的に合わない…というか、別に私たちは悪魔殺しが目的じゃないの」

「な、何が目的ですか?手を組みましょう!私とあなたたちが手を組めば」

「そんな気まったくない。あるわけないだろ、ドアホ」


 この期に及んでなんて寝ぼけたことを言ってくるのか。


「私の――私たち(・・・)の目的は、神を殺すこと。あなたが聞いた悪魔殺しっていうのは多分、副次的なものだろうね」

「な、なら見逃してくれても…」

「私が嫌いなものは神と、私の邪魔をするもの。つまり、お前たちも排除するってこと」

「それに召喚陣があるのなら利用しない手はないだろう?私のお姫様は使えるものは何でも使う性質(たち)でね」


 召喚陣を用意するのにはいろいろなものが必要になる。処女の血、死産した赤子、…その他冒涜的な諸々。とてもじゃないけど素人には用意なんてできない。用意する気も起きない。


「…あぁ、空気が震えてる。成功したみたい」


 震えと同時に陣に力を送っていた教団員のうち何人かが倒れた。魔力が枯渇し生命の危機に陥ったためセーフティが働き意識不明に陥ったのだろう。放っておけば何日かで治る。

 予想では全員がそうなるはずだったのだが、倒れなかった教団員と教主は想定よりも魔力量が高かったみたいだ。


「あぁ…魔神…さま…」


 教主は都合のいいことにそれまで崇めていた悪魔ではなく、召喚陣から徐々に姿を現している魔神に鞍替えしたみたいだ。

 ――より力のあるものに依存する。それがほとんどの人間というものだ。


「マイス、完全体になるまでどれくらい?」

「うーん、上級なら1回(・・・・・・)かなぁ…中級なら2,3回ってとこ」


 マイスの言葉に目を閉じ自分の内側に集中する。なぜならこれは|神や誰かの力を借りるもの《魔法や魔術》ではないから――。


「―――ふぅ。………”これは、誓いである。私に天へと捧げる祈りはなく、されど地へ捧げる祈りもない。これは我が敵へ向ける刃である。これは拒絶である。これは否定である。我は、捧げられた祈りを砕くものなり”ッ!」


 詠唱を終えると同時に右手に重みが加わる。ゆっくりと目を開ければ手には使い慣れたいつもの重み。

 それと同時に周囲の雰囲気ががらりと重苦しいものにかわる。


「この教団はなかなか質のいい魔力を揃えていたみたいだねぇ」

『私を喚び出したのは貴様らか…?』

「そうとも言うし、そうでないとも言う」

『…どういうことだ…?いや、それより貴様らの魔力、いささか異端にすぎる…。その剣も…』

「そう。……お前の名前は?」

『我が名はネーベル…夜霧の魔神、ネーベルなり……いや、待て。名乗るつもりはなかったのに…』

「そう、ネーベル。悪いが――死んでくれ」


 この世界では上位世界にいるとされる神や悪魔を殺すことはできない、とされている。喚び出したとしてもこちらに現れるのは上位世界にいる本体の影、分身であり、それらを殺したとしても本体には一切傷がつかないのだ。

 ――しかし、何事にもその例外を叶えるモノというのはある。

 この剣と、私――そして、マイスがその例外というわけだ。

 詳しい仕組みはよく知らない。ただ、私がこの剣を振るい、相手を殺せば。

 どのような存在であろうとも――殺せる。


「そして、大抵の上位存在というやつは、下位存在に対して無防備である、ってね」

『おおおおおお!!!この、魔神を――、界を隔てて!殺すとはァッ!』

「夜霧の魔神、ネーベル。その名は私が永遠に覚えておこう」


 あっけなく身体を貫かれた魔神は核を残して消滅した。

 いまごろ上位世界にある本体も綺麗サッパリ消滅しているだろう。


「ほら、マイス。核」

「これで17個目だね。うーんいい調子なんじゃないかな」

「相手は油断してくれてるしね」


 手元の剣は私が”誓約”を履行したことでその存在を消した。普段使っている装備はどこか他の部屋にでもあるのだろう。

 さて、探しに行くかと扉に手をかけると、後ろから声が聞こえた。


「あ、あなたたちは…何者なんだ…?」

「君たちが言ってただろう?白銀の戦姫、黄昏の道化、悪魔殺し。そして――」

「神殺し。よぅく覚えておくことだな。いずれお前らの崇めるモノはことごとく、私たちが殺す」

「ヒッ」


 教主は怯えた顔をして、後ずさった。


「…殺さなくていいのかい?」

「……もう、邪魔なんてする気もおきないだろ。無駄なことはキライだ」

「ふぅん…ま、別に私は君がどうしようと構わないけどね」


 マイスはこちらを見透かしたように笑う。

 わかっているのだろう。私がああいう”神に依存するしかないヒト”を――人間を殺せないのを。


 ――――雨の音がする。


 いや、それは私のただの感傷だ。首を振り、余計な考えを振り払う。


「あーもう!ほら、早く次を探しに行くぞ!」

「そうだね。でも依頼をこなして金も稼がないとー。」

「ま、待ってくれ…これから私たちは、どうすればいい」

「は?んなこと知らねーよ。勝手にしろ」


 こういう輩はむかつく。依存先がなくなれば、新しい依存先を見つけるだけだ。それがなんだろうとどうでもいい。神を信仰するのならそれを餌にしておびき出し、また神を殺せばいいし。それ以外なら私たちに干渉しなければどうでもいい。


「行こう、マイス」

「先に行っててくれるかな、シェラ」

「……あぁ」


 不審には思うが、口を出すことはしない。

 マイスとは、そういう契約だ。あの日から。


 他の部屋を探し装備といくつかの装飾品(たぶん、誰かの遺品だろう)を見つけ、教団のアジトを抜けると背後からマイスの足音が聞こえてきた。


「用事は、済んだ?」

「あぁ。万全に」


 黄昏の道化――。うまいこと二つ名をつけたものだと思う。

 こいつはいつもヘラヘラと微笑んでいて誰にも本心を明かしたことがない。

 ……自分も同じだからいいか。


「そ。ほら早く行くよ」

「はいはい。次はどの神にしようか。そろそろ大物を狙ってみる?」

「そうだな…そういえば、多神教の国ってあったっけ」

「あぁ、それなら…」


 たぶん、この旅は続いていく。

 どれだけ続くかはわからないけれど。

 ねぇ、教主さん。ヒトを神にすることは出来ると思うかい?


 道化は、愛おしい白銀を思い浮かべながら黄昏色の瞳を細めた。

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