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第33話.妖精との対話

 


『石ってコレのこと?』

『この石が欲しい?』


 絹で出来たような白いワンピースをまとった小さな少女たちが、ブリジットと肩の高さでくるくると踊りながら、そう可愛らしく問うてくる。


 彼女たちは両手に抱えるようにして、魔石を持っていてーーそれは小妖精たちが手にしているととても大振りに見えたーーそれを確認したブリジットはさりげなく目を細めた。


 お喋り好きのシルキーと呼ばれる愛らしい妖精たちの大きな目に見つめられながら、大仰に頷く。


「ええ。その石とこの笛を交換してほしいの」


 ブリジットが草笛を鳴らすと、プィー、プィーと音が鳴り、それを見たシルキーたちは途端に湧き立つ。


『なんで音鳴る?』

『どうして鳴いてる?』

「これは魔法の草なのよ。私がたくさん鳴くようにお願いしておいたの」


 シルキーたちは納得のいった様子で頷いた。


『なら、これあげる』

『アタシもあげる』

「ありがとう。二人分の草笛を用意するわね」


 魔石と草の物々交換を済ませる。


 樫の葉をくるくる丸めて作った筒状の笛を、面白そうにいじりながらシルキーたちがふわふわ飛んでいく。


「鳴らすときは筒の片方をつぶしてね。でも空気の通り道は残さないと駄目よ」


 そんなブリジットの呼びかけを聞き届けたかは定かではないが、その姿も見えなくなり……ふぅとブリジットは息を吐いた。


 素直さが取り柄であるシルキーとの取引は、これで三回連続の成功を収め、ブリジットがリュックサックのポケットに仕舞った魔石も五つ目である。


(シルキーとの取引はこのあたりが限界かしら……小妖精たちはお喋りが好きだから、そろそろ音の鳴る草は価値が落ちていそうだわ)


 手に入れた魔石の内側には、繊細な妖精の羽が意匠として描かれている。これはオトレイアナ魔法学院のエンブレムで、表面はともかく魔石の内側に模様を掘るには、腕の良い魔法技工士、それに細工師が必要となる。加えて技工士個人の魔力の波動が注ぎ込まれているため、模造品を用意する手段はほぼゼロという代物だ。


 この魔石を獲得した数で競い合う試験のわけだが、日が高く昇っている現状、果たして自分はどの程度の位置につけているのか。


 何度か他のクラスの生徒は見かけたのだが、嫌われ者のブリジットに近づいてくるような相手は誰も居なかったので、情報は集められずじまいである。


(決して悪いほうではないと思うんだけど……)


 ううむ、とブリジットは首を捻る。

 下準備の草笛準備中に、既にユーリが魔石を獲得している姿を目にしてしまったので……なんというかまったく安心できない。


「いいえ! やれるだけやるしかないわ……!」


 わざと声に出して自分を奮起させる。


 ーーさて、では次はどの手を使うべきか。


 精霊種や妖精種の知識においては誰にも負けるつもりはない。

 精霊種は真面目さ、妖精種はずる賢さが語られることが多いが、どちらにも共通するのは“素直さ”だ。


 精霊は人に対して素直に、真摯な態度で向き合うし、妖精は素直な好奇心や悪戯心から人間で遊びたがる。


(だから私は、精霊が好き)


 手練手管を弄する人間という生き物よりよっぽど好感が持てる、とブリジットは思っている。


 そしてこの魔石獲りにおいて、契約精霊の力を発揮できないブリジットが唯一、他の生徒たちを圧倒できるのが、精霊の在り方をよく知るが故の交渉術だった。


 だからこそ、持てる知識のすべてを総動員して勝利への筋道を探す。


(魔石に引き寄せられる妖精といえば、鉱山妖精のコブラナイとかも集まってそうよね……もう少し森の奥に進んでみようかしら。本当なら川岸周辺にも捜索範囲を広げたいんだけど)


 どうしても、ウンディーネを有するユーリがそのあたりの魔石を総取りしている光景が浮かび、なるべく遭遇の確率を排したほうが良いかと思ってしまう。


(負けるつもりはないけど。ただ集中力が散漫になるという理由だけなんだけど!)


 やはり胸中で謎の言い訳を重ねながら、ブリジットは斜面を滑り落ちるように進んでいくのだった。




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