番外編4.兄弟よりも兄弟? (ノベル3巻&コミック2巻発売記念)
本日ノベル3巻&コミック2巻が発売です!
記念番外編を書きました。
その日、ブリジットはいつものように図書館脇にある四阿に向かっていた。
否、いつものように、ではない。
彼女の隣には、とある人物の姿がある。
二人はときどき会話を交わしながら、のんびりと脇道を通っていく。
そうして訪れた四阿には、すでに人の姿があった。
本に目を落としていた青年は、足音に気がつくなり顔を上げる。
「ブリジ――」
名前を呼びかけたユーリだったが、中途半端なところで口の動きを止める。
彼の目が見つめているのは、ブリジット――ではなく、その隣に立つロゼだった。
「……なぜお前がここにいる。あのニバルやらキーラでも、ここには滅多に近づかないぞ」
眉間に皺を寄せるユーリに対し、ロゼはにやりと笑う。
「おれは義姉上にお願いして、正式にこの場に招待いただきました。自分たちだけの特別な場所だって言い張りたいのかもしれませんが、お生憎様ですよ」
招かれざる客人などではない、とアピールするロゼ。
この言葉に愕然としたのはユーリではなく、これを聞いた隣のブリジットである。
(確かに私、四阿を私物化していたかもしれないわ……!)
あまり人が寄りつかないところなので、ブリジットにとってはほとんど秘密基地めいていたのだが……そもそもこの四阿はブリジットとユーリが個人的に所有するものなどではなく、学院施設の一部である。
(急に『放課後も義姉上と一緒に過ごしたい』って言うから、どうしたのかと思ったら……)
どこかでロゼはこの四阿のことを知り、ブリジットたちに注意しようとついてきたのかもしれない。
ブリジットを傷つけないために適当な理由をつけて、こうして現場を押さえたというわけだ。
そんなロゼに、ブリジットが怒れるはずもない。むしろ逆である。
「ごめんなさい、ロゼの言う通りよね。これからはわたくしも気をつけるわ……」
「え?」
しゅんとしているブリジットの顔を見つめていたロゼは、彼女があらぬ誤解をしていることに気づいて泡を食った。
「ち、違います! 義姉上を責めているわけじゃありません、今のはただオーレアリス先輩にいやみを言いたかっただけで!」
「そうよね。学院の施設を占拠しているわたくしたちに、いやみを言いたくなるのは当たり前だわ」
「で、ですから違うんですって!」
慌てふためくロゼの様子を、鼻で笑うのはユーリである。
「下級生にここまで言われては仕方がないな。ブリジット、別の場所に移動しよう」
ロゼから目を逸らすなり、立ち上がったユーリはそんな提案をしてくる。
「どこがいい。食堂でもいいし、なんなら二人で町のカフェにでも――」
「ままま待ってくださいどうしてそうなるんですか!」
怒りのためか、ロゼは顔を真っ赤にしている。
その様子を眺めていて、ブリジットは改めて思う。
「……やっぱり、本物の兄弟みたいだわ」
ぼそりとブリジットが呟くと、ユーリとロゼの動きが同時に止まる。
先に口を動かしたのはユーリだった。
「……それは、将来的にそうなりたいということか?」
ブリジットは小首を傾げる。
(将来的に、そうなりたい……?)
どういう意味かしらと考える間にも、二人の兄弟然とした会話は続いている。
「あ、義姉上。おれは絶対に反対です。こんな義兄はいりませんっ」
「僕だって、お前のような生意気で面倒な義弟は死んでもお断りだ」
本当にいやそうに、ユーリは露骨に口端を歪めてみせる。
「生意気なのも面倒なのも、オーレアリス先輩には敵わないと思いますけど!」
「そうか? そう思うなら、自己分析が不足しているんだろうな。出直してくるといい」
「っ……いちいち苛立つ人ですね、あなたって」
「奇遇だな。僕も同じことを考えていた」
結局ユーリの言葉の意味はよく分からないが、打てば響くようなやり取りは眺めているだけで小気味よい。
ブリジットはふと思う。自分とロゼもいつかこんなふうに、遠慮なく意見を交わせる日が来るのだろうか?
想像してみると、口元がほころぶ。
(……姉弟喧嘩って、ちょっと憧れるかも)
なんて、呑気に考えるブリジットであった。