孤独な戦士は、今日も悪事を100%見抜く
パラレルでパロディなローファンタジー世界チック=ニ=チアサ。
今年度はどうにも変な様子です。
※本作品にはバトルシーン“らしきもの”が存在します。ほとんどロクな描写も有りませんが、そう言った物がとてもとても苦手な方はどうぞ、ブラバ等の措置をお願い致します。
20XX年。
地球は毎年、なんらかの驚異に襲われている。
その年初の異変を見た者達は、一様に同じ感想を持ったと言う。
――今年は特別、派手だねぇ。
普段の派手とは、ビルが数棟ほど倒壊するだとか、爆発音を始めとしたとても大きな音が鳴るだとか、謎の存在が空中に現れて演説と宣戦布告をしてくるだとか、大量の人型敵性体を街中へ放つとか。
しかし今年は違った。
どこかの採石場で、大きな火柱がたったのだ。
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これはその年の記録の一部である。
ある日のコウザブロウは、とても強い違和感を覚えていた。
このコウザブロウ。実はとある口に出せない組織によって誘拐され、最後の脳改造手術直前で逃げ出せた、特別な改造人間である。
逃げ出せたは良いが、自身の周りへその組織によって不幸がばら蒔かれ、誰かと接触する事すら躊躇ってしまう。
その結果、不幸は止まったが自身は孤独に生きねばならなくなった。
一時その時の怒りや悲しみから来る、復讐心のみで動いていた。
そのくらい憎い組織だが、戦っている内に正義の心にも芽生え、今は憎しみより平和の為に活動しているヒーローである。
それがその組織の影を違和感として感じとり、元凶や手がかりとなる物を探しているが、全く分からないのだ。
「どこだ……何かがおかしいのは分かっている。分かっているが、そのおかしい所が分からない」
とある街の大通り。人々の多くはとても良い笑顔で、とても高そうな物や大荷物を抱えあるいは身にまとい、コウザブロウの脇を通りすぎて行く。
高そうな飲食店も大入りで、人々が「美味しいね、美味しいね」ととても楽しそうに食事している。
「どこだ……探せば見つかるはずなんだ」
対して安値を謳う店は閑古鳥が鳴くほどではないが、いつもより客が格段に少ない。
「よく探せ……見つけてみせる。ゴムゴンめ……」
コウザブロウは焦っていた。全く分からないのだ。
とある大きな街の、とても大きな交差点。そこではビルに大型映像装置が設置されていて、信号待ちをしている人に向かって映像を垂れ流していた。
《現在日本国内で、様々な超高額の当選クジが配られる珍事が続発しています。クジを配られた人達の証言によると、朝仕事や学校に行こうと外へ出る寸前、玄関に置いてあったと同じ証言がされており…………》
その映像、ニュースを見ていたコウザブロウに、衝撃が走った。
こんな事件を起こせるのは奴らしか居ない!
「これはゴムゴンの仕業だ!!」
ついに見つけたぞ、この国をゴムゴンの好きにさせてたまるか!
ようやく掴んだ手がかりを胸に、意気込んだコウザブロウは信号が青になった途端、勢いよく駆け出した。
決して口に出してはいけない組織の名を叫びながら。
周りで同じく信号待ちをしていた一般人の、顰蹙も買いながら。
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「見つけたぞ、ゴムゴンの怪人め!!」
場所は例の火柱があがった某採石場。
そこでなんらかの作戦行動中と思われる怪人へと追い付いたコウザブロウが、バイクから降りながら呼び掛けた。
「キサマか!近頃我等の作戦を邪魔する、クロと名乗る存在は!?」
怪人から誰何の声をあげられたコウザブロウ。
その姿は既に戦闘態勢となっており、全身黒くて深緑色の縦ラインが入ったプロテクターに見える、何かを装着している。
頭部もしっかりしたフルフェイスの仮面をかぶっており、素顔は分からない。
怪人の声には耳をかさないコウザブロウ……いや、クロは、質問を質問で返す。
「何が目的で、あんな事をした!答えろ!!」
質問を流された事でクロ本人だと無言の肯定を示したと判断した怪人は、律儀にも作戦を語りだす。
……いや、本当。なんで語るんだろうね?黙ってれば、どうしてやっているか原因を特定できず、対処もできないと言うのに。
しかも指揮している怪人を倒したって、その怪人特有の能力でない作戦をしているなら、替わりの怪人に指揮させれば継続できるんですよ?不思議。
現在クロが対峙しているのは、大きい公園の木や街のアチコチで色々やらかしている、現地民が頭を悩ませる鳥の着ぐるみを着ている人間に見えるナニカ。それとよく見る雑魚戦闘員がいっぱい。
顔と腕と足を出す部分が切り取られ、出ている腕には手羽を模した大剣が握られている。
その姿から、ムクドリ怪人と呼ばれている。
「超高額の当たりクジをばら蒔き、一生働かずに生活できる金が手にはいれば、労働意欲が明確に減る!減ったら社会的生産力は低下する!そこにゴムゴンが割り込めば、我らは国を乗っ取れるのだ!!」
意外と真面目な作戦でした。
食料も生活必需品も何もかも、作っているから使えるのであって、無ければ大変に困る。そんな必要な物資を謎の組織に握られれば、国内で影響力を発揮できるだろう。
その辺を理解したクロは、正義の義憤で奮い起つ。
「なんて卑劣な!貴様らの思い通りにさせてたまるか!!」
国の乗っ取り、と言う部分に目を向けなければ、お金をくれるし代わりに働いてくれると言っているゴムゴン。
長期的にはどんな結末になるかは不明だが、短期的……目の前の出来事に限って言えばとても魅力的な話である。
……あ、いやいや!ロクでもない組織の甘い誘惑なんて、良くない未来しか無いのは分かりきっているから、良い子達は安易に飛び付いちゃダメだぞっ!
「ならばお前を倒し、我等の社会進出作戦を遂行してくれるわ!!」
…………社会進出だけなら別に作戦を展開せずとも、普通に会社を立ち上げるなり就職すれば良いだけな気もするが、ここは言わぬが花……なのだろう。うん。
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最初の雑魚戦は苦戦しなかったが、怪人があまりにも強く、戦いは熾烈を極めた。
クロが小手調べで攻撃モーション中屈伸を挟むと強力になる攻撃方法にて、今までより威力3倍と言われるクロパンチを繰り出せば、ムクドリ怪人が持つ剣の腹で受け止める。
ならばクロキックだと、これまた屈伸で力を増した蹴りに切り替えれば、隙の大きさを見切り攻撃してくる。
キックを当てる隙を作るべく、プロテクターから光が放射されるブラックライトを浴びせて目潰ししてやろうとすれば、ムクドリ怪人がとっさに後ろを向きそのままトリフンバズーカで反撃。
見た目の割りに、とっても強いぞムクドリ怪人!!
「っ!!」
「ええぃ、逃がすか!」
このままでは千日手……打つ手なしで永遠に勝負が決まらない。
日中から戦っていたはずだが、気が付けば既に夕暮れ。
一体どれ程戦っていたのか……。
ひとまずこの場から離れてなにか方策を立てるべく、乗ってきたバイクも置き去りにしてどこかへ跳び去るクロ。
もちろんそんな離脱を許したくないムクドリ怪人は、渾身の羽ばたきでクロに追いすがる。
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たどり着いた場所はどこかの廃工場。
「待てクロ!!」
「くっ!!」
結局引き離せなかったクロは、そのまま工場内へと踏み込む。
もちろん怪人もその後を追い、暗い建物内へ。
「くそっ!!クロ!どこだ、姿を見せろぉ!!」
すると、急にムクドリ怪人の様子が急変した。
目の前にいるはずのクロの姿が見えないらしい。
クロの仮面に暗視機能は標準装備。変な挙動のムクドリ怪人がバッチリ見えている。
「もしや……この怪人は鳥目なのか?」
今呟いたクロの声は聴こえているはずだが、そんな事より視覚に問題が起きたことばかり喚き、それどころではない様子の怪人。
ちなみにだが、鳥目の鳥類は極一部らしい。
この怪人は実はその極一部の鳥が、ベースになっている疑惑浮上の瞬間である。
この状況を好機と見た(少し卑怯な)クロは、静かに後退りする。
20歩程だろうか。そのくらい離れ、息を整え、瞬時に全力疾走!
十分加速した実感と共に深く屈伸。
そして溜めた足の力を使い素晴らしい跳躍!
クロの必殺技、屈伸で威力3倍増しのクロジャンピングキックがムクドリ怪人を襲う。
「ガッ!!?」
ムクドリの着ぐるみに新たな穴を作り、そのベクトルのままスライディングして距離を稼ぐ。
「…………」
スライディングが終了し、立ち上がる。
立ち上がったら、なにやらカッコいいポーズをとるクロ。
なんか背景からドドドドドド!とか聞こえてきそうだが、本人の醸す空気から、幸せオーラが感じられるから……まぁ、よし!!
そのクロの後ろで「ぐわぁぁぁ!!」とか断末魔の叫びをあげながら爆発して、とても大きい火柱をあげている怪人が居るが、自分に酔っている感じのクロにはなにも聞こえていなかった。
コウザブロウ・クロの活躍により、今週の平和が約束された!
ありがとうクロ!頑張れクロ!
この国の平和は君の双肩にかかっている!!
……んだけど、今週の敵は倒すのをもう少し待ってくれても良かったのよ?
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以下、ちょっとだけムクドリ怪人の裏話を記述。興味無い等の見る気が無い方は、ブラバなどを行ってください。
クロについてはノリと勢いしかないので、完全にパスです。
ムクドリ怪人。
今回の超高額の当選クジをばらまく作戦だが、ムクドリ怪人が居ないと成立しない作戦である。
理由は簡単。怪人にウンを付けてもらったから!それが無いと、クジが全く当たらない。
ムクドリによる糞害は大迷惑だが、ムクドリ怪人は驚異的なウン付与能力を持っていた!
そしてそのウンを逃したく無いため、ゴムゴンは本気で改造、クロを越えかねない能力まで持たせた。
しかし、どっかの悪ノリした研究員が鳥なんだから鳥目だろ!そうじゃないと可愛くない!と余計なことをしてくれたお陰で、それが明確な弱点となってしまった。