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優香の過去

今から13年前、岡山に帰った水野 優香は町で一番大きい小料理屋でお見合いの席に着いていた。

「こちらは生活協同組合の職員をされとる中本 まさるさんじゃ。優香さん、中本さんと一緒になったらアンタのお父さんの桃園ももえん安泰あんたいじゃけぇのぉ。こないなエエ縁談はないと思いよるけぇ、前向きに考えよれよ」仲人なこうどが優香に話しかけ、しばらくして優香は中本と二人にされた。

「優香さんは料理とかしよるんですかいのぉ。ワシは家事はからっきしですけぇ、結婚したら家を守ってくれたら嬉しい思ちょります」中本は顔をテカテカさせながらハンカチで顔を拭いた。

「一応は料理はします。大した資格などもありませんので家に入るのは構いません。あの…食べ物にこだわりなんかありますか?」優香は心理的しんりてき嫌悪感けんおかんを持ちつつ小声で聞いた。

「食いモンの拘りですか。ワシは口に入れば何でも食いますけぇ、そんなモンはありぁせんです」中本は並べられた料理の中からヒジキの煮物をつまみ取り、口に運ぶとクチャクチャ音を立てて食した。それが優香の嫌悪感を増幅した。

「あの…食べ物が何でも良いと言う事は、女性だったら誰でも良いと言う事でしょうか?」今度は少し語気を強めて言った。

「ハハハッ、優香さんは面白おもろいですのぉ。まぁ誰でもとは言わんですが優香さんみたいな美人さんやったら十分ですわいのぉ」この言葉で優香の腹は決まった。


「何?見合いを断るとはどう言う事じゃ?」父親の雄二は声を荒げた。

「お父さん、私あの人は無理!一緒に居る事も想像出来んけぇ。思い出しただけで鳥肌が立ちよるもん」優香は必死で説得した。

「ほなら他ん人じゃったらエエんか?中々あないエエ条件の人は居らんけどのぉ」雄二は呆れ返ったように言った。

「お父さん、私やっぱりお見合いは辞める。好いてもおらん男性ひととは一緒になりとうないけぇ」優香のこの一言で雄二はキレてしまった。

「ほならどうすぅ言うんじゃ!結婚もせんと、こん田舎じゃ女のお前が働くトコもないでぇ?どないする言うんじゃ!」

「私、大阪に戻る。大阪でしたい仕事があるけぇ、きっとお父さんにも損のないような仕事やけぇ分かって?」

「分かった、お前は勘当じゃ!大阪でもどこでも好きんトコ行ってどこでぇ野垂のたれ死にしたらエエんじゃ!」優香は父に分かってもらえない悔しさから勘当を受け入れた。母の光代は止めてくれたが大阪で農業と消費者の架け橋になろうと決意した。


大阪に戻った優香は大阪では農業一大都市である泉佐野市へ行き、そこでパプリカ農家をいとなむ、藤原 清彦の元に駆け込んだ。そこで藤原より農業のイロハを教わり、周りの農家とも仲良くなり、野菜や果物の知識を深めていった。

そして藤原の元に来て8年が経った。

「優香さん、オレは優香さんが好きなんや。出来たらウチに嫁に来て欲しいんやけどどないかな?」藤原の突然のプロポーズだった。藤原は確かに働き者で好青年だった。しかし優香は藤原を異性としては見ておらず、農業を教えてくれる師匠のように見ていた。何より優香には農家で野菜を作って卸すだけの人生は送りたくはなかった。自分が納得した物を消費者へ直接届けると言う使命感にも似た夢があった。その夢の向こう側には今もって忘れる事が出来ないでいた山崎 和浩の存在があった。

「私、農家の嫁になる気はありません。農家と消費者を繋ぎたいんです。今は商業としての農家がほとんどですけど、キャベツを主に作っておられる中村さんや春菊を作っておられる谷本さんはオーガニックにも挑戦しています。私はそんな農家の皆さんの思いと一緒に消費者に届ける仕事がしたいんです」


藤原のプロポーズを断わった優香は、新規事業を推し進めるべく、大阪市内に向かった。そこで懸命にアルバイトの掛け持ちをしながらお金をたくわえていった。そして二年の月日が流れた。

「上手い事UR物件に入れたわ。ここから農家との架け橋を築くんよ。」優香は北区の長柄ながらと言う場所から事業を始めた。泉佐野で出来た農家の知り合いを説得して回った結果、規格外の野菜ならば卸せると言われ、それならばそれを逆手さかてに取って毎週何が入って来るか分からないアソートで売ろうと決めた。この案はワクワク感から消費者にうけた。

「農家の元に行って配達してって一人じゃ限界かな?」こうして人を雇い入れる事を決めた優香の元に、松浦 久美と木下 遥と言う仲間が加わった。

「代表、ビラをくだけじゃなくてチョクで家に突撃訪問してお客さんを増やすってどうですか?」弾丸娘のような性格をした久美が言った。

「私は押し売りはしたくないの。ホームページも作ってるし、口コミで確実に増えてるから、今のスタイルで行くわ」そう言ってしばらくした時、配達で東大阪の最寄り、東成区の深江橋近辺に来た時だった。

「この辺、懐かしいなぁ。ここからもうちょっと行ったらまんぷく食堂やなぁ。山崎さん元気にしてるんかな?私、何言うてんやろ?さぁ配達、配達」ノスタルジックに耽って我に返った優香だったがちょっぴり久美が言った事を却下したのを後悔した。山崎に会いたい!しかし今更どんな顔をして会えば良いのか。まんぷく食堂に行く切っ掛けさえない。山崎との再会を望んでいない訳ではないが自分でどうする事も出来ないジレンマを抱えながらイタズラに時間だけが過ぎていった。

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