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運命の救急患者

「久本先生って恋人とか居てはらへんのですか?」大阪市の都島区にある大阪市立総合医療センターの救命救急担当看護師、国富くにとみ 布佐絵ふさえは唐突に久本 真希医師に聞いた。

「何を言うてんのん?仕様しょうもない事を言うてんと仕事、仕事!」真希ははぐらかすように両手を叩いてICUの担当患者の元に行ってしまった。

「久本先生、綺麗やのに勿体もったいないやんなぁ。まさかあの年でヴァージンとか?」国富看護師はよほど下世話な話しが好きなのか、同僚の道端みちばた 芽衣めい看護師に言った。

「ハイハイ、先生も言うてたやろ?四方山よもやま話しはその辺にしてさっさと仕事しよ。アンタ新山さんの点滴の時間と違うん?」道端看護師が注射や点滴の用意をしながら布佐絵の言葉を一蹴した。

「ヤバ!ホンマや。早よ行かんと」布佐絵はキャリーを引いて慌てて薬品庫へ向かった。


「上田さん、お加減はいかがですか?」真希は患者に優しく声をかけた。

「先生、お陰さんで良好ですわ。今度お礼にメシでもおごらして下さいよ」上田は事故でむち打ち症と診断され、首に巻いたコルセットを痛々しくしながらも真剣な表情で言った。

「そんだけ元気なんやったら、もう退院します?それとも首のストレッチでもした方がエエかしら?」真希は表情を引きらせながら答えた。

「あーっ、痛い痛い。ごめんなさい、無理です」真希の表情に本気度を感じたのか、上田はすんなりと引いた。


真希は東京でもそうであったが、患者にも同僚医師にも人気があった。しかし真希の男性を見る目が山崎を基本にしてしまっているので、どうにも他の男性がくだらなく見えてしまう。幼少より父親の記憶がほとんどなく、代わって父親のような存在としてどんなにつらい時でもそばに居続けてくれた山崎は、真希にとっての男を見る価値観の基準となり、いつしか山崎こそが理想の男性像となってしまっていた。ここで一般の娘であれば、父とは結ばれない事を、本能的にも理屈でも知り、それに似たような男性を求めるものである。しかし真希にとっての父親は、血の繋がらない他人なのだ。理屈では分かっていても、どうにもせない部分が真希の頭の中を支配していた。


『北消防より一次の患者要請。患者は30代女性。下腹部に痛みをうったえ。血圧78/112、心拍64、意識レベル3』救命救急のごうと言うやつであろう。突然に急患がやってくる。医師たちはその都度つど、対応を求められるのだ。そして失敗もゆるされない。それが真希が選んだ仕事の激務なのだ。


「久本先生?大した事なさそうや。頼めるかな?」救命救急を束ねる元木もとき 茂一しげかず医局長が真希に聞いた。

「大丈夫です。受け入れ準備に取り掛かります」真希は真剣な面持ちで返した。

「国富さん、虫垂炎が疑われるからそのつもりで準備を。後、中年女性やから排卵障害とかも考えられるからよろしく!」真希は看護師にテキパキと指示を出した。やがて運ばれてきた患者が真希にとって心が揺さぶられる存在の女性とは、この時の真希は知るよしもなかった。


「名前は水野 優香さん39才。仕事途中で下腹部に痛みを訴え同僚から119番通報。本人曰ほんにんいわく食事は朝からありません。便通も良好との事です。生理不順の傾向ありです」救急隊員の報告を聞きながら、真希は女性が乗ったストレッチャーを処置室に運んだ。

「水野さん、聞こえますか?痛みはどうですか?」意識レベルが3と言う事もあり、患者女性は受け応えをはっきりとした。その後下腹部をエコーで見るも腫瘍しゅようや影は見当たらずMRI検査をするも不審な点は見つからなかった。


「あの…非常に申し上げにくいんですが、水野さん?ヴァージンって事はないですか?」真希は女性のデリケートな部分を聞きにくそうに聞いた。

「先生、笑わないで聞いてもらえます?この年で恥ずかしいんですけど、そうなんです」優香は恥ずかしそうに顔をそむけた。しかし真希は笑う気にはなれなかった。もちろん医師としてそうなのだが、真希自身もそうだったからにほかならない。

「大丈夫ですよ。水野さん。恐らく水野さんは萎縮性膣炎いしゅくせいちつえんと思われます」真希は医師として毅然と告げた。

「い…萎縮性?」優香は聞いた事もない病名に戸惑いを見せた。

「はい、通常は月経を終えた高齢女性に多い症状なんですが、まれに男性との性行がなかったり長くしてなかったりする中高年の方にも現れます。とりあえず筋弛緩剤きんしかんざいを点滴しておきますんで、その後の処置は様子を見て決めましょう」真希は丁寧に説明をした。

「そうですか。担当が先生で良かった」優香は安堵あんどの表情で答えた。優香の言う通り、男性医師ならば医師と言えどもそうはいかない。自身がヴァージンだの下腹部でなく女性の部分に痛みがあるだのとは簡単には言えない。


「フィーッ、水野さんカズ兄ちゃんと同じ年で、それで未経験か…私はどうなるんやろ?」真希に言われのない不安が襲っていた。

性的な表現がありましたが決していやらしい気持ちで読まないで下さい。女性のデリケートな部分であり、私自身、そう言う女性を知っていて考えついたお話しです。実際に悩まれている方もおられます。偏見の目で見ないようにお願いします。

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