結婚披露宴
EXILEの『ただ・・・会いたくて』が会場に流れ、西川 翔平と三宅 茜は登場した。
「西川!茜さん!おめでとう!」
「茜さん!おめでとう!綺麗よーっ!」会場からは招待客から二人を祝福する声が次々に飛んできた。
「西川君、茜さん、ご結婚おめでとうございます。西川君は警官としてはまだまだ半人前ですが、その内に秘めた正義感で町の人々に愛される存在であります。昇級試験も積極的に挑み、今では私と同じ警部補にまで昇進し、私の頭を飛び越えて生活安全課ではありますが布施署の刑事にまでなりました。しかしながら西川君の正義感は町の人々と密接に結びつく生活安全課でこそ発揮されると私は確信しております。その心のままに茜さんとご子息の健太君を守っていくものと期待して私のご挨拶とさせていただきます」交番勤務だったころに上司であった原田 雅史警部補の挨拶が満場の拍手により結ばれた。
「ここで新郎新婦のお色直しです。お二人は一旦、退場いたします。ご来場の皆さまにはお食事を楽しみながらのしばしのご歓談を」司会者の言葉の後、食事が運ばれた。西川の希望により和食懐石が振る舞われた。
「うーん、美味いなぁ。披露宴でここまで本格的な懐石料理が食えるとは思てなかったで」
「これ?『鱧の梅肉ゼリー寄せ』やって!何かお洒落ーっ」
「この『ずわい蟹の和風豆乳グラタン、日本酒の香りを添えて』ってエエなぁ。日本酒にピッタリやで」招待客たちは口々にシェフの料理を絶賛しながら堪能していた。
「西川警視正!本日はおめでとうございます」布施警察署の向田署長が翔平の父親である西川 隆平の元に酌をしにきた。
「今日は警視正は止めてくれ。今日は翔平の父親として出席しとるんやから」そう言いながらも隆平の表情は普段の厳しい表情とは違い、緩んでいた。
「ここで新郎新婦のお色直しが済みました。どうぞ!」再登場した茜はこれからの季節を思わせる真っ赤なドレスに身を包み、翔平は黄色いスーツに身を包んで現れた。
「茜さん!綺麗!」
「翔平!似合ってないぞ!」
口々に友人たちが声をかけた。
「ここでお二人の初めての共同作業、ケーキ入刀です」登場したのは1mはあろう豪華なウェディングケーキだった。
「このケーキは新郎の翔平様のご恩人であられます三浦 泰彦様と山崎 和浩様の合作であります。お写真を撮られる皆さまは前の方へどうぞ」下の本物部分は山崎が、上のイミテーション部分は三浦製作所の三浦社長が作ってくれた。二人は翔平の人生にとってなくてはならない存在だった。
「ここでケーキと本日のお料理を担当して下さった新郎のご友人であり、お二人のご恩人でもあられます山崎 和浩様にご登場いただき、ご挨拶をお願いいたします」司会者の紹介で山崎が登場した。
「翔平、茜さん、ご結婚おめでとう。二人には沢山のモンをもらいました。オレは自分の身勝手で好きに生きてきたけど、それをいつも助けてくれたんは翔平です。茜さんはオレの商売がら子供らと関わる事が多いけど、そんな子供らとの向き合い方を教えてくれました。オレはただの料理人やから料理でしか人を幸せに出来へんから今日も料理で恩返しをさせてもらいました。翔平!健太を…け…健太を…よろじぐ…」涙ぐみ出した山崎に、学ラン姿の三宅 健太が花束を持って登壇した。
「健太!それは新郎新婦に渡す花束や!」進行にない行動をする三宅 健太を誰からともなく諌める声がした。
「大丈夫。これはボクからのカズちゃんに対するお礼やから」健太は毅然と言い切った。
「カズちゃん。今までありがとうございました。戸籍は翔ちゃんの息子になるけど、いつまでもカズちゃんをお父ちゃんと思ててエエかな?」健太は自分の感情を隠すように無感情に話した。
「あ…当たり前やろ?いつか約束したようにお前はずっとオレの息子や!」山崎は号泣して健太を抱き締めた。それにより健太も感情が剥き出しになり、号泣し始めた。
「山崎!お前が主役と違うぞ!」また誰かが声を荒げて言った。それを皮切りに口々に罵声が飛んだ。
「皆んな、黙ってくれ!」叫んだのは翔平だった。
「ボクが結婚出来たんも茜ちゃんと出会えたんも健太を守る覚悟が出来たんも、全部カズさんのお陰や!カズさんが主役で何が悪いねん!ボクらの結婚を祝ってくれるんやったらカズさんにも拍手をしてくれ!」翔平の言葉を聞き、一同は互いの顔を見合わせた。
「その通りです。カズさんが居てなかったらアタシらは真っ当に生きれませんでした。カズさんの犠牲の上にアタシらの幸せがあるんです」茜も発言した。
「スマン!カズちゃん。良うやった!」
「ありがとう、山崎君!」一斉に称賛の声が飛ぶ中、山崎は構わずに健太と抱き合っていた。
こうして感動に包まれた挙式は終わりを告げ、一同は散り散りに帰っていった。
「なぁカズ兄ちゃん。今度はカズ兄ちゃんが祝福される番なんと違う?」久本 真希は山崎の手を強く握った。
「言うたやろ?もう忘れてもうたって」山崎も真希の手を握り返した。
「私ら、傍から見てたらどう見えるんやろうなぁ?」真希が意味深な言葉をぶつけた。
「どう見えるって…そら…お…親子なんと違うか?」山崎の言葉を受け、真希は複雑な心境になっていた。二人の年の差は12才。それを『も』と取るのか?『しか』と取るのかは二人次第なのだが…。
世の中の "スマイル" を作る事に一生懸命で恋愛に向き合って来なかった山崎にとって、一生を独身で終えるのか、傍また誰かと結ばれるのかはもう少し時間を要しそうだった。