思わぬ再会
三浦元社長の言うナイロンと言うのはビニール袋の事です。昔の関西の人はビニール袋をナイロンとかナイロン袋と言う傾向があります。それを踏襲して表現しています。
「いつも義父がお世話になってます。この度、社長に就任致しました清水 誠司と申します」三浦製作所の社長、三浦 泰彦が連れてきた男は山崎に丁寧に挨拶をした。
「そうでっか。でもオレの方がお世話になりっぱなしやからなぁ。それにしてもジジィも遂に引退か?」山崎は三浦を横目で見た。
「引退やない!ワシは相談役や。そ・う・だ・ん・や・く。分かるか?」三浦は酔いが回ってきたのか、頬を赤らめるながら言った。
「はん!清水さん、こんなジジィに相談する事なんか何もあらへん。相談やったらオレにした方が身になるで」
「何やとぉ!お前は一丁前に…いかんいかん、こんな悪ガキにまともに付き合うてたら、相談役としての威厳がなくなってまう」
「おっさんのどこに威厳があんねん!」この義理の親子のような二人が、こうして口喧嘩をする時は、お互いに悩みがなく上手く行っている時だ。
「ハハハッ、ホンマに恭子が言うてた通りや。喧嘩するほど何ちゃらって言うけどホンマですね」誠司は隣に座っていた大橋不動産の大橋 伸夫に同意を求めた。
「えっ?いやー、私に振らないで下さいよ。後で何を言われるか分からないんで」大橋は汗で滲んだ額をおしぼりで拭いた。
「何?オイ、デブ橋!今、何か言うたやろ?」聞き耳を立てていた三浦が大橋に迫った。
"ガラガラ" 引き戸が開き、三人の女性が入ってきた。
「こんばんは!山崎さん!お言葉に甘えて来させてもらいました」上司を押し退けて松浦 久美がしゃしゃり出た。
「えっ?お言葉?オレ、何も言うてへんぞ」優香には言ったが久美には配達で来るだろうと言っただけだった。
「またまたぁ、美人三人を目の前にして照れてはるんですか?さぁ、代表。座らしてもらいましょ?」これと決めた行動力は優香が上だろうが突発的な行動力は久美に勝る人間は中々いない。
「おぉ、水野さんやないか?」三浦に迫られていた大橋は、話しを逸らすのに周りを見て、優香を見つけた。
「あっ!大橋社長。ご無沙汰してます。お元気でしたか?」優香は13年前に戻ったように笑顔を見せた。
「おぉ、水野さんか?ウチの和浩が迷惑かけとらんか?何や、ベッピンさんばっかしやなぁ。ここへ来て一緒に飲もう。さぁ、さぁ」上機嫌の三浦に誘われ、グリーン・ヘヴンの三人は三浦たちの輪に加わった。
「大橋のアホな話しをしよか?そうやなぁ、肥溜めにはまった話しはどないや?」三浦は相変わらず上機嫌でお猪口のお酒を飲み干した。
「せ…先輩、止めて下さいよ。その話しだけは」大橋が必死に止めようとするのも聞かず、三浦は話し出した。
「あれはワシらが小学生くらいやから60年くらい前の話しやなぁ。こいつは戦後にも関わらず、当時から太っとってなぁ、伸夫、伸夫って言う度に1kgづつくらい増えて行ってなぁ。皆んながデブ夫って呼ぶようになったんや。そんなモンやから皆んなからイジメられるやろ?ほならワシにヤッちゃんヤッちゃん言うて頼って来よってな。ほならある日や、イジメっ子に肥溜めに突き落とされてもうて、ワシが何とか引っ張り出したんや。せやけど下半身がクソまみれやろ?仕方ないからこいつのズボンやらパンツやらをナイロンに入れてワシがグルグルって回して生駒の山の方に捨てたったんや。でもこいつはフル○ンやろ?せやからワシは蓮根畑に入って蓮の葉を取ってきてこいつの下半身に巻いて帰したったんや」三浦の話しに一同は爆笑して聞いていた。
「ほなら次はウ○コを踏んで滑ってコケた話ししよか?」調子に乗って三浦は大橋との昔のエピソードを話そうとしていた。
「先輩、ホンマ勘弁して下さいよ」大橋は本気で泣きそうだった。
「ハイ!お待っとうさん。オムライスのクランベリーソースがけ三人前!」山崎が約束通りにオムライスを作ってきた。
「うわっ!何?これ。むっちゃ美味そうやん!」
「な…何か見た事ないご馳走ですね…」優香が連れてきた二人は始めて見る山崎の料理に感動していた。
「オイ!カズボン。年寄りのワシから主役を取るな」三浦が拗ねたように言った。
「せやから年寄りは大人しゅう家に帰ったらエエねん」山崎はハイライトに火を着けながら言った。
「何やと?人を年寄り扱いすな!」
「自分で年寄りって言うたんやろ」宴は賑やかに続いていた。
「あの…三浦社長、大丈夫なんですか?」優香が心配顔をした。
「構へんよ。多分、社長を降りたから肩の荷が下りてはしゃいどるんやろ。まぁ、今までお疲れさんってトコやな」口は悪いが山崎らしく愛情が籠もっていると優香は思った。
「ただいま。カズ兄ちゃん、患者さんにクッキーもらったから皆んなに分けてあげて」真希が帰宅して缶入りのクッキーを山崎に渡した。
「えっ?久本先生?何でここに?」優香は驚いて立ち上がった。
「えっ?水野さん?水野さんこそ何で?」真希も驚き、その場に立ち尽くした。