新間(妹)レポート①
私が、彼を初めて見たのは、姉に着いて行って小学生のサッカーの練習試合を見に行った時だった。
姉は新設の東条学園と云う中高一貫校で、サッカー部戦略部長…要はスカウトを担当し、全国を飛び回っている。
中学生になりたての私はサッカーが大好きで、そんな姉が羨ましくて休みの日にはこうやって姉に付いて回っていたのだ。勿論、仕事の邪魔は出来ないので、姉が将来有望な子達とお話をしている時は物陰に隠れていたんだけど。
その日は、サッカーを始めてまだ一年足らずなのに、強豪チームのエースとして活躍している子供の視察と云う話だった。
その子は香田圭司君と云って、後半から試合に出て、あっという間に2点を取ってしまった。
点を取っても喜びもしない。なんか、折角サッカーしてるのに退屈そう。…でも、そこがまたクールで絵になる。イケメンは得だな。
でもその日、私の目に焼き付いたのは香田君では無く、後半途中から交代した男の子だった。
その男の子は、身体は子供だけど、まるでプロの様なテクニックで、短時間で5点も取ったのだ。小学生の試合ではチームの力の差が如実だとよくある事ではある。でも、相手は全国優勝も狙える強豪チームなのだ。その相手に、僅か10分足らずで5点とるなんて、凄いを通り越して恐ろしさすら覚えた。この子は、普通じゃないと。
隣で見ていた姉も、驚きのあまり手が震えていた。でも、それ以上に、とんでもない発見をしたことに対する喜びが表情に出ていた。
試合終了後、姉は早速あの子にコンタクトを取った。私は物陰から見ていたので何を話しているかまでは聞こえなかったが。
私もあの子と話がしたい。そう思い、少しだけ後を尾けると、あの子の前に香田君が現れた。
瞬時に身を隠す。でも、この距離なら会話が聞こえる。
「お前、名前は?」
「お前?人に名前聞く時はまず、自分から名乗れよ」
「…香田圭司だ」
「…俺は日向大輔だ。で、何か用か?」
「……次は負けねーからな」
香田君が去り、そしてあの子も去って行ってもまだ、私は物陰から動く事が出来なかった。
何故か、私は“歴史的瞬間”に立ち合ってしまったのではと云う直感を抱いたのだ。
「日向…大輔…」
その時から、日向大輔は私の中で、とびっきりお気に入りの選手になったのだ。
それからも、私は折に触れ、日向大輔を追いかけた。
姉の話だと、日向君は東条学園への進学を決めたらしい。でも、私は東条では無いから、本気で転校を考えたのだが両親に反対された。
日向君はやっぱり凄かった。国内・海外合わせてプロの試合を年間100試合以上を見ている私でも、日向君のプレイはJリーガーにも引けを取らない程洗練されていた。勿論、体格などの差を差し引いてだが。
日向君の下、下高井戸キッカーズは見る見るうちに強くなり、遂に地区予選決勝で香田君率いる成城FCと対戦する事となった。
試合は香田君の先制ゴールに始まった。でも、香田君の見せ場は直ぐに終わりを告げ、日向君の五人抜きなどで下高井戸キッカーズが成城FCを圧倒した。
五人抜きを達成した時の日向君の表情は、私は一生忘れられないだろう。
まるで太陽の様に光輝く笑顔だった。
彼は…誰よりもサッカーを楽しんでいた…。
…本当に、彼は小学生なのだろうか?彼のプレイは巧いだけでは無いのだ。プレイの節々に、長年の経験が垣間見える瞬間があるのだ。
そして時折見せるフェイント等のテクニックは、一見フランスのジデンやブラジルのホナウドが世に知らしめたテクニックに見えて、少しだけ改良されている。
私は、一つの仮説を立てた。
…日向大輔は、サッカーの神様が未来から遣わせた“未来人”なのではないかと。
…な訳無いけどね。
新間(妹)レポートは、各章のまとめとして今後も章終わりに投稿します。
因みに、新間妹は眼鏡の似合う美少女です。