第九話:相反する二人
「……で、どうすんだ、銀次」
「銀次郎な。まままっ、新幹線は行っちまったが、本当に間に合わないんなら~俺様だってこんなに余裕かましちゃいねぇよ」
銀次郎には策があるようだ。物理法則を捻じ曲げる、何か秘策があるのか、銀次郎。
銀次郎は慣れた手付きでスマートフォンを取り出す。そして、どこかに電話をかけている素振りを見せると、ボソボソと何か電話先の相手に語りかける。
三分後、電話を終えた銀次郎は言う。
「次の駅で停まっているはずさ」
銀次郎の言う通り、新幹線は停まっていた。理由は分からないが、とにかく停まっていたのだ。こうして、ショウギスキー御一行は無事会場に間に合った。
「今日の勝利は、全部俺様がここまで送ってやったからってこと、忘れるなよ」
「恩着せがましいぜ。そもそもテメーの車がガラクタポンコツバカだったのがいけないんだぜ」
「ガラクタだと思ったのに降りないテメーも悪いけどな、ガハガハ」
「あん? やんのか? ……俺は盤外でも強いぜ」
二人の間に火花散る。子供同士の喧嘩はなかなか終わらないのである。飛角が割って入る。
「ちょっと! せっかく大会に来たんだよ! 普通に決勝戦で戦ったらいいじゃん!」
兄が決勝戦まで進むことになんの疑いも無いようである。
「ま、そうだな。 決勝戦で待ってるぜ、ショウギスキー」
ショウギスキーは、名乗った覚えの無い苗字を呼ばれた。なるほど、こいつはショウギスキーを知っていて、ヒッチハイクから今までの件は全て最初から想定済みの出来事だったのか、となんとも言えぬむず痒い気分になる。
「お前、俺のこと知ってたのか。意地が悪いぜ」
「香車の駒を持ち歩いてるのを見て、もしかしたらと思ったんだよ。ここまでの道のりでお前ら二人を見てたら、確信に変わったさ、ショウギスキー、桂馬」
一本取られた。ショウギスキーはそう感じた。こいつ、できる。
「さあ始まりました決勝大会、実況は私、光が丘成金が担当致します」
遂に決勝大会の戦いの火蓋が切って落とされた。決勝大会と言うだけあって、ここで優勝した人間が、実質的に世界一の称号を得られるのだ。
「トントン拍子に進んでいくぜ」
ショウギスキーは相変わらず相手に打たせない。決まり手は変わらず、歩兵による直進のみである。
「勝者、ショウギスキー桂馬!! この異次元の将棋を止められるやつはいるのかぁ!?」
「ショウギスキー……。やるな、あいつ。ま、俺もだけど」
「おおっと!? 気付いたらJチームも勝負が付いていたようだぁ! 勝者は……、乾選手……あ、いや、違うようですね、銀次郎選手だぁ!!」
「おいおい、こっちのこともよく見てくれよ。ま、焦ったが、これで次は準々決勝戦か、ガハガハ」
二人はお互いに勝ち上がる。準々決勝、準決勝と勝ち上がる。シンプルに。一人は歩兵を直進させ、一人は人知れず。次は決勝戦である。
「決勝戦は一八時三十分より開始となります。出場者は、控え室でお待ちください」
「まさか銀次がここまでとは思わなかったぜ」
「だろ? 俺も驚いたぜ。いつも父さんとやってたから知らなかったけど、世の中将棋が強えやつなんて、これっぽっちもいねえんだな」
控室で二人は語らう。この銀次郎という男もまた、籠の鳥。今まで世に出ることなく成長してしまった、勝利に飢えた軍鳥。
「……こいつは強気だぜ」
決勝戦が、始まる。




