第八話:決勝大会
~会場、東北大会~
「お兄ちゃん、いよいよ明日は決勝大会だね! なにか作戦は考えてるの?」
「考えてないぜ」
「そっか! 戦いの中で成長するお兄ちゃんらしいや!」
「そうでもないぜ」
ショウギスキーは、明日に備えて早く寝るようだ。眠りに落ちる寸前、香車男のことを思い出す。盤外将棋。将棋アプリでは見られない、リアル特有の妙技。これがリアル将棋の面白さである。
「寝坊したぜ」
「お兄ちゃん、急がないと! 新幹線に遅れちゃうよ~!」
ショウギスキー、寝坊!
「あと三分だよ、お兄ちゃん!」
「ちょっ……ま、まて、少し落ち着け……ゼーハーヒー」
「そんなこと言って! 乗れなかったら間に合わないんだよ!」
「ゼーゼーゼーゼー」
ショウギスキーの唯一の欠点、……スタミナ! 500mも走ったところで、酸欠でフラフラになっている。
「オイ、聞こえたぜ、兄弟。乗りな」
「え、おじさん誰?」
「おじさんだとォ!? そんな年じゃねぇぞ!?」
突如現れたおじさんは、高級感溢れる外車のドアを、天井が低いところでやったらどうなるんだろうと思わせるほど高く、ウィーンと上に上に自動操縦で持ち上げた。乗るべきか、乗らぬべきか。突然現れた、成金風の怪しい人間に警戒する二人。だが数秒後、ショウギスキーは息を整えスカして言った。
「新幹線乗り場まで頼むぜ、兄さん」
ショウギスキーは楽を取った!
「オメーの車、すげぇな。……さっさと廃車にしたほうがいいぜ、ボンクラ」
時速25kmで進む動く金属は、無慈悲にも新幹線の時間にショウギスキー達を間に合わせられなかった。軽自動車でももっと速度が出るだろう。新幹線は、目の前どころか駅につく頃には視界から完全にフェードアウトしていた。
「いや~、すまん。すまん。いやぁ困ったなぁ、俺様も新幹線に乗らなきゃいけねえかったんだけどなぁ……」
「何言ってんだ、このジャンクボケ成金ハゲ! こんな速度でよく乗せてってやるとかいったな、このカス野郎!」
ショウギスキーの弟、飛角は想像もできないほどに口汚く罵った。そりゃそうだ、最愛の兄の世界大会がかかっているのだから。
「いや、すまんすまん、ほんとにな。三人乗るとここまで遅くなるとはな、ガハハ」
「こ、こいつ……! こ、殺してやる、ハアハア」
「笑ってる場合じゃあないぜ、相棒。どうにかしねえと、俺様の香車がテメーの両目を貫くぜ」
後日談かつ余談だが、実はあの男の香車をショウギスキーは引き継いだ。決勝戦の後、男は完敗を認め、将棋界から手を引くことを決意したらしい。形見として、ショウギスキーに汗や様々な体液が染み込んだ香車を一騎、手渡した。その香車を、ショウギスキーは肌身放さず持ち歩いている。ショウギスキーは非常に情に厚い男なのだ。
「ヒェッ! それはご勘弁! ……って、どうして将棋の駒を……? ……あ、もしかして、お前ら」
「お兄ちゃんは、これから将棋の大会に行くんだぞ! ガルルル」
「行くんだぜ、コラ」
兄弟は揃って答えた。こんなことをしている場合ではないと、やや苛立っているのが分かる。だが、このジャンクボーイは目を輝かせ始める。
「おお、やっぱりお前らもか! 俺もだ、俺様も!」
神のいたずらか。ジャンクボーイこと播磨銀次郎もまた、決勝大会の出場者だった。




