第七話:異次元の将棋
「あれれ~? 動かさないのぉ? なら、行っちゃうよ~……グフ、ウヒョヒョ」
さすがのショウギスキーも思わず動きが止まったか。……そして、そんな意気地なしを将棋は待ってくれない。背中を見せたら殺られる。これが将棋の掟なのだ。
「香車取り! 桂馬取り! 銀将取り! 金将取り! ……そして、王手ダァ! ンアアァ香車たん強いィ!!」
これを好機と見るや、男は一気に攻め上がる。ショウギスキー、万事休す。ここからどう動くか、一挙手一投足を観衆は見つめる。
「……確かに、強いぜ、お前の香車は」
ショウギスキーは、今日初めて、ニヤリと笑い、続けて呟く。
「……だが、もうテメーの研究は終わったぜ」
パチリ。
「んんっ?? おっとショウギスキー選手、なんと!? 王を放置して歩兵を進めたぁ!! これはどう言うことだ!?」
実況も驚くこの一手。観衆も男もこれには言葉も出ない。馬鹿なのか、ショウギスキー! 誰もがそう思った。
「ウヒョヒョ……。まさか、決勝戦で戦うやつが、一番弱いとは思わなかったよぉ……。君は、将棋のルールをもう一度教わったほうがいいゾ……」
香車を高く持ち上げる。その駒を、ショウギスキーの玉将目がけて強く振り下ろす!!
「ウヒョーーー!! 優勝だよぉ、香車たん!!」
バチコーン!
……
…
パチリ
「約束通り、歩は頂くぜ」
「……ヒョ?」
「? どうした、動かないなら進めるぜ」
パチリ、パチリ、パチリ、パチリ
「王手だ。……面倒だから、成らないでいいぜ」
この場にいる全員が、何が起きたか分からなかった。とにかく、香車男が王手を決めたと思ったら、ショウギスキーに王手を返されていた。それだけである。
「……おい! お前、何やっただァ!?」
男は理解できていない、この状況を。それもそのはず、高く上げた香車が降りたその場所は、飛び上がった元の場所だったのだ。高揚感から狙いがずれたか、香車はただジャンプしただけに終わった。……ショウギスキーの玉将は九死に一生を得た、ということなのか。
「お前の王、頂くぜ」
ショウギスキーは歩兵を前へ進めようとする。
「……! ま、待て! 俺のターンだろう!? 喰らえ、"王取り・ヘップバーン"!」
パチィ!!
「……なっ!? また同じ場所……!」
「……頂くぜ」
ショウギスキーは、男の無防備な王将の首を、最弱の兵、成りを潜めた歩兵で優しく刈り取った。
「しょ、勝者、ショウギスキー桂馬!! 何がなんだか分からないが、とにかく勝者、ショウギスキー、桂馬!!」
「余裕だぜ。ただ、最初のアレは良い手だったぞ、お前」
「な、なんで、俺の香車たんが……」
天晴! ショウギスキー桂馬!!




