第三話:奇跡的な遭遇
「ちょ、君、少しいいかい」
「なに? 相席はだめだよ! 知らない人との相席はだめってママに言われてるから!」
「奢るよ。好きなだけ食べていい」
「え、いいの! でも、一緒に食べるだけだよ!」
「ああ。それでいい」
「やったー! ちょうど財布忘れちゃってたから助かったぁ」
なんでこいつは店を出なかったんだ。と五目は思った、が、そんなことはどうでもいい。むしろ出ないでいてくれてありがとう、だ。「ご注文がお決まりになりましたらこちらボタンでお呼びください」という店員の言葉を右に受け流し、メニューを青年に渡そうとしたが、彼は既にメニューを決めていたようで、
「店員さんドリンクバー! ハンバーグランチでスープはコンソメ! ごはん少なめ!」
と元気に答えた。
「それだけでいいのか?」
このあと大事な予定があるんだ。近くで大会があって!
「こちらのお客様は、お決まりですか?」
「チキンステーキ定食、コーヒーは食前で。……もしかして、将棋の大会か?」
「え、どうして分かるの? もしかしてお兄さんも出るの??」
五目は喜んだ。彼だ。渦中の天才棋士、ショウギスキーに違いない。なんと新卒一年目にして大手柄。幸運にも、なんの苦労もなく遭遇することができたのだ。
「いや、私は出ないよ。……それより君、ショウギスキー桂馬君、だよね? 実は私は、君が遊んでる、スーパー将棋バトルっていうアプリの開発チームで働いているんだけど……」
「え、違うよ。僕、ショウギスキー飛角だけど」
……残念ながら人違い。五目は肩透かしをくらったような顔になる。同時に、なんてクソ紛らわしい奴が、このタイミングで将棋界に首を突っ込んだものだ、と酷く憤慨した。
「……悪い、急用を思い出したから出るよ。お代はここに置いておくから、じゃあ」
「あ、そうなの? じゃ、ごちそうさま!」
察しが悪い人間でも察しがつく、とはこの状況のことである。しかし五目は、察するという能力を毛ほども持たなかった。だからこそ、新卒にして零細アプリ開発会社の契約社員という待遇でしか迎え入れてもらえなかったのだから責めることはできない。彼は足早にこの壮大な物語の舞台から飛び降り、以後その物語には登場しないのであった。
「待たせたぜ」
「あ、遅いよお兄ちゃん! いろいろあってさ、そのチキンステーキ定食とコーヒー、食べていいよ! お金ここにあるから」
この物語は、ショウギスキー桂馬の世界救済物語である。




