第二十話:世界の行方、そして明日
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「はっ」
晴天の霹靂。神の一擲。パルムは思いついてしまった。ここからの最高の打開策を。パルムは笑う。笑いを堪えきれない。身体が震え、汗が吹き出す。マッドサイエンティストよろしく、パルムは口を開いた。
「わ、悪いな、ショウギスキー君。その甘さがいけなかった。ル、ルール違反をしたのは私なのだから、厳しくあれば良かったものを……。フフ……終わりだ」
パルムはなんと、徐ろに自身の金将を持ち上げ、そのままショウギスキーの玉将の隣に差し込んだ。
「すまないね、ショウギスキー君。この金将は本来、将棋盤を半回転する前は、この玉将の隣にいただろう。当然、元の位置に戻る権利を持っているはずだ。ということは……、そう、地球のX軸、Y軸の位置的に、このマスに移動することになる。だってそうだろう、本来ある位置からならば、ここに移動するのは普通のことだ。違うかい? ……横着をして盤を回転させた君のミスだ」
ピノどころか胎児ですら思いも付かない、思い付いても即時没となるであろうトンデモ屁理屈で、パルムは形成を逆転にかかる。確かに、次はパルムの番で、今の金将の移動はただ位置を元に戻しただけである。つまり、パルムはまだ一手打ち込むことができる。これが意味することはただ一つ。……詰んだ。これは万事休す、ショウギスキー!
「……二歩だ」
ショウギスキーはボソリと呟いた。
「……? 今なんと? まさか二歩と言ったわけじゃないだろうな? 動かしたのは、金将だ、ショウギスキー君」
「二歩だ」
実況が必死に盤面を確認する。しかし当然ながら、歩が同列に並ぶマスは存在しない。会場に失笑とも苦笑いともとれる表情と空気が漂う。引くに引けないショウギスキーの恥ずかしい醜態が晒される。しかしショウギスキーは続けて口を開く。
「……二歩だ、パルム。お前、自分が何を言ったか、思い出せねーわけじゃないだろう」
「……!? ま、まさか、将棋盤を半回転させたから、ここにあったお前の歩兵の残像が重なっているだとか、そんな下らない屁理屈をこねるんじゃあ、ないだろうな……!?」
「……? どういうことか、分からないな。……そうじゃない。テメーがやっちまったのは……、」
「……やっちまったのは?」
「……"フフ"、っていう、その笑い声だぜ、パルム」
「…………? はっ、どういう……!? ……ま、まさか……」
「二"フ"…………反則負けだ」
「な、なんだと!? ……そ、そんな屁理屈、認められるわけないだろう!?」
「……ピノ、お前はどう思う」
ショウギスキーは、後ろで見ていたピノ君に尋ねた。ピノ君の答えは決まっているように見えるが、どっちの味方をすればいいのか決めかねているような、複雑な表情をしていた。
「ピノ! 駄目に決まってるだろう!」
パルムは叫ぶ。ピノ君はビクッと身体を震わせ下を向いてしまった。しかし、十秒ほど経過した後、意を決した表情で再び前を向いた。
「……パパの反則負けだと思う。……別にニフだけじゃない、その前のも……反則だよ」
「………………ピノオオオオオォォォ!!!」
パルムは発狂し、ぐたりとその場に倒れた。ショウギスキーはダメ押しに、パルムの駒全てを両手で弾き飛ばしてから、飛車で王将を奪い取った。
「たいしたことなかったぜ」
これにて終幕。ショウギスキーは見事地球の危機を救ったのである。
後日談。
ショウギスキーは、国の英雄として国民栄誉賞が与えられ、連日記念パレードが続いた。
「ショウギスキー様、素敵!」
「ショウギスキー様、最高!」
そこかしこから歓声が聞こえてくるが、ショウギスキーは気にも止めない。ショウギスキーはある目的地に向かうため、用意された自家用ジェットに乗り込む。飛角も乗り込む。飛角は今回、代理人としての搭乗らしい。
「緊張するね、お兄ちゃん」
「緊張するぜ」
「でも、将棋界から引退するなんて決断、やっぱり早すぎると思うけどな」
「少し名残惜しいぜ」
緊張のせいか、いつもより口数が少ない。そう、あの闘いの後、ショウギスキーは緊急会見を開き、こう言った。
「将棋はもうやめるぜ」
それは全人類が初耳で、皆が驚いた。世界中が彼の引退を引き留めたが、ショウギスキーの決意は堅く、いくら説得しようにもその決意が揺らぐことがないと分かったとき、民衆は思った。
「引退後はどうするんだ?」と。
それは、今向かう先、スペインで……
「頑張ってね、お兄ちゃん、応援してるよ」
「ああ、打倒バルセロナウドだ」
ショウギスキー桂馬は、
世界一のサッカー選手を目指す。
猿でも分かる〇〇の美学 完




