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第十六話:王手

「降参してもいいけど、どうする? 大丈夫、僕に負けても地球は侵略しないよ」


 お忘れかもしれないが、宇宙人のボスに将棋で負けると地球は侵略されるのである。


「……もっとも、僕に勝てないようじゃ、結果は同じだけど」


「……! ショウギスキーさん、中止、中止ッッ!! シェルター出して、誰か!」


 犬は喚く。無能の権化である。


「…………フンッ」


 ショウギスキーは、盤面に取り残された桂馬を掴み、犬に向かって飛ばした。犬は意識を失い、静かになる。


「うるさいハエだぜ」


「ショウギスキーさん、自ら最後の味方を捨てるなんて、さすがに無謀だね。この国で言う、背水の陣、というやつかな? この場合、それは当てはまらないと思うけど」


「…………」


 ショウギスキー、万事休す。なんと、持ち駒も、ゼロッッ!! 仲間に見捨てられた王である!


「……何も言わないんだ。ふーん、じゃ、行くよ」


 何も言わないショウギスキーに、ピノ君は呆れた様子を見せる。地球で一番強いと言われた棋士が、前哨戦で完全に戦意を喪失している現実に、わざわざ宇宙から来た甲斐もない。ピノ君はそう感じているようだった。


 パチ


「…………」


 パチ


「…………」


 パチ


「…………」


 パチ


「…………」


 パチ


「…………」


 パチ


「…………」


 パチ


「…………」


 パチ


「…………」


 パチ


「…………」


 パチ


「…………王手」


 誰の声だっただろう。ピノ君の中性的な声色ではない、低く落ち着いた声色。そんな心地良い声帯から発された 王手 の一言は、見るもの全てに衝撃を与えた。


「王手ッ…………!? 王手、だと……?」


「…………どうした、お前の番だぜ、メン・モチーリ」


 鋭い眼光固まる盤面。ピノ君は、起こっている状況を理解することができない。


「……ど、どうして! どうして君の玉将がここに! どうして君の玉将が、僕の王将の目の前にいるんだよォ!?」


 ショウギスキーの玉将は、相手の駒を一つも動かさせることなく、ピノ君の王将の前まで突破していたのだった。

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