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第十五話:メ、モチョーノ

「……まあ、やりましょう」


 宇宙人のでかい方は呆れ気味に言った。なんとなく、宇宙人は気に入らないものには鉄槌を下すようなイメージがあったので、歴代の将棋棋士世界代表を呼ばずになんたる無礼だビームでショウギスキーを殺してしまうかと思われた。しかし、思いのほか紳士的だ。表情は強張っているが。


「ねえパパ、この人、この前僕と遊んでくれた人より弱そうだよ」


 子供の方はクソガキである。惑星共通なのだろうか。


「聞き捨てならないぜ、ジャリボーイ」


 ショウギスキーもまた、クソガキだった。




「お兄さんには悪いけど、前にここで将棋をやってから、結構勉強したんだ。だから、本気で来ないと負けちゃうかもよ」


 宇宙人の計らいで、クソガキ対クソガキの前哨戦が行われることとなった。


「ショウギスキーさん。彼らは、以前地球にやっめきたときに将棋を指し、結果として我々人間は大敗したのですが……。どうやら、宇宙人の彼らの中では、歴代の棋士の方々は接待で将棋に付き合ってくれたと思っているようなんです。……しかし、実際は本気で挑んだ結果大敗したんです」


 日本政府の役人が耳打ちする。そんなことは承知済みだ。でなければ将棋界から姿を消すものか。ショウギスキーはそう思いながら、用意された将棋会場に向かった。




「ウゴストロロテクノラス。よろしくね」


「……? ショウギスキー桂馬だ」


 宇宙人の突然の宇宙語に戸惑うショウギスキーは、恐らく名前を名乗られたのだと推測し名乗り返した。


「ピノ、そういうことを言うのはやめなさい」


 どうやら名前ではなさそうである。




「対局開始です。え~、本日の解説を担当しますのは私日本政府の犬こと岡村慎太郎といううだつの上がらない凡人でして……。え~……」


 出世しない理由がよく分かる。


「まず先手は……、俺だ!」


 政府の犬の対局開始の合図も待たず、ピノ君の素早い駒出し。面対称の棋譜を最初に崩すのは銀将か。


「…………!」


「先手は俺だぜ」


 人間の洗礼。日本政府の犬も呆気にとられている。ピノ君が銀将を動かした時、既にショウギスキーの金将は臨戦態勢に入っており、前方に移動していた。これにはピノ君も態度を改める。こいつは只者ではない、そう感じるには十分な早業である。


「続けて俺だぜ」


 ショウギスキーは、将棋において最も面倒な、自陣の歩をどかす作業に入る。この作業は見ている側としても本当に退屈だ。筆者としても、飛車に貫通アビリティを付与することを提言したい。


「メ、モチョーノだよ、ショウギスキー」


「……? ショウギスキー桂馬だ」


 相変わらず会話は成立していないが、二人は着実に将棋盤を自分色に染めていく。


「……おや、これは、え~……、なんですかね、あの……」


 将棋より囲碁派の役人らしい。犬に解説を任せた飼い主は誰なのか。迷采配も甚だしい。


 ………………


 ショウギスキーは閉口する。その表情は険しい。それもそのはず、この盤面……


「後は、玉将と、……桂馬だけだね、ショウギスキーさん」


 ショウギスキーは、玉将と桂馬一枚を残して、全ての駒を取られてしまったのである!

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