第十三話:決着!
……
パチリドゴォパチリドゴォパチリドゴォパチリドゴォパチリドゴォパチリドゴォパチリドゴォ
あれから1時間、二人の鬼ごっこは続いた。もう将棋盤は穴だらけだ。
「おい、ショウギスキー。……もういいだろ、さすがにダサいぜ」
「ダサくないぜ」
「ムキになってんのがよりダセェよ」
「ダサくないぜ」
ショウギスキーはムキになっているのか、反射的に反論する。
「…………はーっ。お前には、ちょっとガッカリだぜ」
実況も飽きてスマートフォンをいじっている。観客は帰り支度をはじめ、既に何人かは帰ってしまったようだ。
「ま、いいけどな。気付いてるだろ、そろそろ詰みだ」
ショウギスキーの玉将は、いつのまにか銀次郎の陣地まで進んでいた。飛車角のみなら逃げられた盤面も、銀次郎の王将が潜んでいるとすれば話が違う。
「あと三手だ、ショウギスキー」
パチリドゴォ
「あとニ手だ、ショウギスキー」
パチリドゴォ
「…………これで終わりだ、ショウギスキー!」
詰んだ。ショウギスキーの玉将は、王将が潜む右端に誘導され、元いた位置を考えると、もう動くことはできない。正真正銘の詰みである。
「……いいぜ、来いよ」
パチリ、とショウギスキーは玉将を動かす。銀次郎の王将の移動範囲内のその場所に。
「ここまで来たら、投了しなかったお前の諦めの悪さは認めてやるよ。いい勝負だったぜ、ショウギスキー」
銀次郎は深く息を吸う。トドメの一発、出る。
「……ソォイッ!!」
「………あれっ」
「……それっ! ソイヤ!」
出ない。王将が出てこない。
「くそっ! なんでだ、おい! 出ろ、王将!!」
「どうした。終わりじゃないのか」
「う、うるせえ! 王将が詰まっちまったんだよ! ちょっと待ってろ!」
銀次郎はホジホジと、将棋盤に空いた適当な穴に指を突っ込んで、王将を取り出そうとする。
「……くっ、あれ、いねえぞ……。どこだ、この……ッ!」
「王将って、これのことか?」
「あ!? ……って、あれ!?」
ショウギスキーが天高く掲げた指先には、紛れもない、銀次郎の王将がしっかりと摘まれていた。
「な……、なんで」
「虎穴に……、いや、熊穴に入らずんば熊子を得ず、だぜ」
「なっ……!? ま、まさか……」
「俺の持ち駒と、場にある駒の数をよく数えたほうが良かったな」
銀次郎はあわてて駒の総数を数える。すると、一駒だけ、足りない駒があることに気が付く。
「銀が……、お前が俺から取ったはずの、銀将が、……足りない」
「お前の駒とバッティングしないように動かすのは、なかなか骨が折れたぜ」
なんという返し技だろう。ショウギスキーは、銀次郎の開けた穴から、誰にも気づかれぬまま銀将を指し入れていたのだ。それを器用に動かし、スネークのようにニョロニョロ、コソコソとステルスアクションさながら敵地の最深部まで侵入することに成功させた。敏腕警備員もお手上げである。
「…………はは、負けたよ、ショウギスキー」
「良い試合だったぜ」
「……ん、おっとォ!? いつの間にか試合が終了していたァ! 勝者、ショウギスキー、桂馬!」
こうして、無事試合も終了し、ショウギスキーは世界一の将棋棋士となった。その活躍は素晴らしく、将棋界隈のみならずスポーツ界、金融、保険業界など幅広くの層から称賛され、CM出演の依頼が殺到した。中でも一番の関心を示したのは日本政府だ。核シェルター開発が思うようにいかず、フラストレーションが溜まっていた頃に舞い降りた吉報。この頃には時の総理大臣の支持率も2%を切っており、不信任決議案提出の日まで秒読みというところだった。藁にもすがる思いで、日本政府は連日、国会でショウギスキーの扱いを議論した。
「え~、ではショウギスキー保護法の制定を急ぐべきということで……」
「総理! 国が国民一人を優遇する法律を制定するなどとんでもありません! 法の下の平等の大原則をお忘れですか!?」
「え~、では、天皇特権を適用することとし、ショウギスキー桂馬名誉棋士を天皇としたいと思います」
「総理! そんな適当な!」
こうして、ショウギスキーは天皇となった。総理は解任させられた。




