第十二話:鬼ごっこですな
「ホール……ベア……。くそ、こいつは相当厄介だぜ」
「そろそろ、いいか? ショウギスキー……。攻めてるのは、お前だけじゃあ、ないんだぜ」
「……!? 待て!!」
嫌な予感。地中にいるのは王将だけではない。第六感が働く。咄嗟にショウギスキーは玉将を前に動かした。その瞬間、
バキバキィッ!!
「あー、惜しいぜ! いい勘だぜ、ショウギスキー!」
「銀次郎の飛車が、ショウギスキーの玉将の真後ろから飛び出してきた。」
「……こいつは、今までで一番の強敵だぜ」
「……あ、オホン! 銀次郎選手、駒を全て捨ててしまったので、一体どういうことか、こいつは馬鹿かと思いましたが、飛車角が自由に動かせるようにする為の布石だったとは! 反対に、ショウギスキー選手は盤面に大量の駒が……。これは、非常に動き辛い! これは銀次郎選手、一枚上手だったか……!?」
水を得た魚のように、実況は口を泳がせる。
「逃げたって、無駄だぜ」
バキバキバキ……
将棋盤内部で、駒が移動する音が聞こえる。角行が玉将に狙いを定める音。いつの間にか、飛車は出てきた穴に戻っている。
「これは……正直、詰んだ、ぜ」
「投了でもいいぞ? どうせ俺様の勝ちなんだからな」
「……割とありだぜ」
ショウギスキーは苦し紛れに玉将を移動させる。刹那、玉将のいたマスから角行が飛び出す。
「お前、運がいいじゃねぇか。……いや、勝者の嗅覚と言ったほうがいいのか」
滴る冷や汗。よぎる敗北。ホールベアは勿論、アプリ上では再現できないものだ。ショウギスキーの将棋人生では、この現状は想像もできなかったことだろう。
……バキ、バキキ……
ショウギスキーは、そろそろと玉将を動かす。
……チッ
玉将の周りから、今度は飛車が顔を出す。玉将の周りは穴だらけだ。いつ陥没してもおかしくない。穴熊ならぬ、モグラ戦法か。
……バキ
ショウギスキーが玉将を動かす度、周辺から駒が飛び出す。絶体絶命だが、不思議と玉将は取られない。
「お前、耳がいいな」
「毎日クラシックを聴いてるぜ」
お見事、英才教育の賜物か。ショウギスキーは、駒が将棋盤を進む音を聞いて、どこに銀次郎の駒があるかを把握していた。その情報から、飛車角が移動できないマスへ移動しているのだった。
「……ま、時間稼ぎにすぎねぇーがな」
その通り、たしかに取られないが、銀次郎の王将を取ることもできない。悪あがきと捉えられてもおかしくない。
「おぉーっと、ショウギスキー選手! 逃げている! 神がかり的な聴力を駆使して逃げているぞ!? だが、これは悪あがきにすぎないのではないのかぁーっ!?」




