第十一話:秘策
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「……お前の歩、結構取ったぜ」
「おー、ずいぶんスッキリしたじゃねえか」
「涼しげだぜ」
ショウギスキーは次なる敵陣に目を向ける。香車を取り、桂馬を取る。着実に攻めているはずだ。それなのに、銀次郎の表情はどこか企みがある様子。
「笑ってられるのも今のうちだぜ、銀次」
「銀次郎だっつってんだろ。ドアホ!」
銀次郎は余裕さを崩さない。しかしショウギスキーは攻め続ける。
「銀将は頂くぜ。金将も」
銀次郎の駒は、もうほとんど無い。取られていないのは、大駒の飛車角王将、それだけ。このままなら、本当に終わるが。ショウギスキーも深呼吸、そして終わりへのロンドを奏でる。
「……フゥ。……さて、いよいよ飛車角王将をいた、だ、く…………!? な、な、なにぃイイイイイーーーーッッ!!?!?」
「ガーーッハッハッハーーァーーー!! 気付くのが遅ぇーよ!」
なんと、銀次郎の飛車角王将が、将棋盤から消えていた……!
「オイ……。これは、どういうことだ、銀次」
ショウギスキーは動揺を隠せない。震える身体を抱きしめ、必死に平静を保とうとしている。
「銀次郎だっての。……これが、父さん仕込みの穴熊の、本当の姿だ」
「はっ……。駒を隠してんじゃ、穴熊とは言えねえ。これはただのイカサマだぜ。反則負けだぜ」
ショウギスキーは憤る。将棋道から逸脱した戦術、いや、戦術とも言えぬ愚策。小学生並の愚策である。実況も思わず閉口。
「……誰が、隠したって?」
「……は? テメーが、服の中とかそのへんに隠したに決まって……ウオォ!?」
将棋盤の中からだった。ワオォォーーーン! という獣、いや……熊の鳴き声がした。吃驚仰天。空前絶後。この瞬間、銀次郎の愚策は奇策に昇格した。
「そう、これが穴熊…………いや、"ホールベア"だ」
ホールベア。……この奇策、誰もが初めて目にしたはずだ。会場は氷河期のマンモスでももう少しは動けるだろうと思わせられるほど、一切の微振動無く一斉に固まった。
……銀次郎の王将とその側近は、将棋盤の中に埋まっていたのだ。




