ハイヒール男子!〜その御御足に接吻宜しいですか?〜
ちょっと下ネタあるよ
この学園で大和撫子といえばただひとり。文武両道、清楚でいて芯のある絶世の美少女、紗倉撫子。お家柄は由緒正しい元華族で、今は大地主。その地域を支配するほどの事業に成功しているそのお家は、昔から従事を務めている家があったほどだ。
「今日も素敵だね。紗倉さん」
「ね、私もあんな人になりたい」
「無理無理。金持ち、美人、その上、人格者なんて本当、漫画のキャラクターだよ」
撫子が廊下を歩けば、ほう、と簡単な溜息が溢れる。
ああ、今日も輝いてるな、私。
私には、自分が誰よりも優れている自覚がある。モブ子達が丁寧に説明してくれたように、私には全て揃っているのだ。女子からも男子からも人望厚く、一年生にして生徒会長。花嫁修業も並行して行っているので、マナーも品もバッチリ。そう、私はスーパーガール。願うことは何だった叶っちゃう。神に愛されし子。
「お嬢。自画自賛が顔に出てますよ」
「嘘!?私、今にやけてた?」
「ええ、いつものお嬢の口角より3ミリ上がってました」
「……そんなの普通気付かないわよ」
私の後ろにぴったりくっついているのは、この私の自称子分、赤坂希一。今では、学園の裏王子様♡なんて恥ずかしい名前で呼ばれているこの男も、昔は私に敵わないほどであっても、お姫様のように可愛い子供で、それが故にいじめにあっていた。真っ当な倫理観を持つ私は勿論、希一を毎度毎度助けに入り、結果的に懐かれたのだ。その頃、私もまだ女に目覚める前だったから、近所の間じゃガキ大将として有名で、気分を良くした私は喜んで希一を弟子に迎えたのだ。
今は、勿論、弟子扱いしていない、のだが、希一はまだ私を師匠とは呼ばなくなったものの師匠扱いする。
大和撫子に弟子がいるのはおかしいから止めろと言ってもやめないから今は、諦めている。
「希一。今日、和英辞書忘れたから貸して」
「大和撫子は忘れ物しないと思いますが」
「大和撫子にだってうっかりの日はあるわ」
「昨日は、消しゴム。一昨日は、日本史の教科書。その前は、寝坊してたのを誤魔化して道に迷ったお婆さんを助けてたなんて嘘をつくのが大和撫子。大和撫子も落ちましたね」
「そこまで言わなくても良くない!?」
「冗談ですよ」
私と希一は、クラスが違うので、登下校は一緒でもここで離れ離れ。ここから私は、昔とは違い弟子の立場に変わる。
「おはよう」
「おっはー。撫子。……今日は良いブツがあるよ」
「!……お昼休みいつもの場所で」
「崇め奉れ、これこそ小鳥遊先生の新作、ハイヒールとフリルだ!」
「うはーーー!!!尊い!」
彼女こそ私の師匠、田中夢。得意分野はBLのハイヒール受け。注目すべきは、ハイヒール受けの部分である。腐女子など本屋さんのBL棚の大きさから掃いて捨てるほどいるのは分かる。ただ、ハイヒール!ハイヒール男子は希少だ。私も勿論BLは、好きだがなんたってハイヒール男子を愛している。女装男子ではない。全身女装は寧ろ好みじゃない。細身の男性が女性より脂肪の付きにくい筋肉質な足で真っ赤なハイヒールを履いている事に何よりも萌える。萌え禿げる。
男が女性物の靴を履いている違和感。それなのに何故か、輝いて見えるそんなハイヒール男子を愛していると叫びたい。
そして、夢ちゃんの持ってきた小鳥遊先生こそハイヒール男子のスペシャリスト。二次元のハイヒール男子を描いてくださる大先生なのだ。
「いやはや、今回も傑作だったわ。さあ、どうぞ、貸してあげる」
「やっべ!涎出てくる。あぁ、表紙のハイヒールもたまんねぇな!!うひょひょひょ!!」
「いつも思うけど、ホント壊れてんなぁ。撫子。いつもの凛とした大和撫子はどこへ行った。ただの変態じゃないか。おーい!聞いてる?駄目だ。あちらの世界に行ってしまわれたか……」
こんなハイヒール男子を愛している私も普段は大和撫子ぶっている。断じて、ハイヒール男子に萌えて、時々、顔面崩壊させているなんて、夢しか知らない秘密だ。
「夢先生、ほかに他にブツは……」
「ハイヒールじゃないBLも一応持ってきた」
「ありがとう!!感謝感激ハイヒール!ハイヒールじゃなくてもBLは普通に読みたいよ」
「早く自分で買えるようになれるといいね。その崩壊っぷりだと相当我慢してんでしょ」
「本当にね!普段から良い子ちゃんやってるとね。BLも買いたいんだけど、毎日お母さんが私の部屋に入って片付けるから怖くて買えないし、もし買って見つかりでもしたら……想像しただけでも」
「お母さん、厳しいの?」
「うん。もし、バレたら正座して説教二時間コース。お母さんが私のエロ本を持ちながら、このエロ本は何なの?あんたいつの間にそんなハレンチな子になったの?と怒られたら、本当立ち直れない」
「ひえー。怖っ」
「姉がそんな風に説教されたのを見たときは、悲惨だと思ったし、私はBL読まないぞと思ったのに、結局この道に進んでしまった。大学の姉は一人暮らしの部屋でBL三昧よ」
結局、昼休みはお母さんの怖さについて話していたら終わってしまった。夢ちゃんは、目立ちたくないということで、二人きりの時以外はあまり話さないようにしている。すると、居ないのだ。私の本音を話せる人が。この学校には。
「お嬢、帰りましょう」
放課後、当たり前のように希一が私を迎えにくる。家が近所だから登下校は小学生の時から一緒だからだ。それにしても、希一、良い男だ。
幼い頃の可愛さを中性的に残しつつ、空手で鍛えられた鋼の体と意志の強い瞳は男らしさに溢れている。鋼の体といっても、その筋肉は密度が濃く、俗に言うムキムキな訳ではない。つまり、足も細すぎず太すぎない。つまり!ハイヒール男子としては理想的!!
「お嬢、何で俺を見てニヤニヤするんですか?」
「いや、改めて見ても希一は、カッコいいなぁと思って」
「……褒めても何も出ませんよ」
「いや、お世辞とかじゃなくて。もう、本当に私の理想だよ」
「……ありがとうございます。……本当、お嬢は俺を試してるのか?」
「ん?なんか言った?」
「言ってないです」
いつも通りミステリアスでツンツンな希一を見ていると、私の秘めていた野望が、また悶々と溢れ出してくる。
希一にハイヒールを履かせてみたい!!
いいんじゃない?希一なら、その下僕魂で、私の変態心も受け入れてくれるかもしれない。いいじゃん。いいじゃん。BLのことは伏せといて、取り敢えずハイヒールを履いてもらうとか。
どうやって履いてもらう?
なんかの罰ゲームで悪ノリ風に履かせる……いや、男サイズのハイヒールを急に持っていたらおかしいよね。
「ねえねえ、希一ってさ、靴のサイズ何センチ?」
「何ですか。急に。28ですけど」
「なるほど。やっぱり男の子だから大きいね」
「そりゃ、まあ」
「ね、もし、私がその、……急にさ、変なこと言い出したら私たちの関係崩れちゃうのかな」
「さあ、どうですかね(俺は、この関係を崩して恋人になりたいけど)……そんなあからさまに傷付いた顔しなくても」
「だって、希一。私の(ハイヒールを履いている男子に萌えるなんて)告白聞いたら、きっと、もう相手してくれなくなるでしょ」
「はっ!?え、なんで急に。いや、何があろうと俺がお嬢を嫌いになる事も、離れるなんて事もあり得ないので、絶対に。はい。絶対に」
よし!言質は取った!
希一に告白してみよう。私のハイヒール男子好きを。そして、履いて貰うのだ。ハイヒールを。そして、お写真の一枚や二枚……うふふ。
「じゃあ、来週の土曜うちに来て。大切な話があるから」
「……俺は、今でもいいですよ。返事は決まってますし」
「本当に?よかった……。じゃあ、当日は、足の脱毛して黒いパンツで来てね」
「はぁ!?いや、なんで」
「だって、私の、その、そのね、性癖的に、というか。(赤いハイヒールに黒いパンツで、足の毛は萎えるからなしなんて)そんな恥ずかしい事言わせないでよ」
「お嬢、そんな、告白当日にヤる気ですか。駄目です。俺はお嬢を大切にしたい」
「?、はぁ、ありがとう。でも、希一は私を嫌いにならないって言ってくれたでしょう?だから、私、恥ずかしいけど、勇気を振り絞ってみたのだけど」
「っ、分かりました。一応、一応ですけど、それで行きます」
「ありがとう!!希一、来週の土曜。絶対に忘れないでね!」
やったぁ!これで、生のハイヒール男子が拝める。早速、ネットで大きいサイズのハイヒール注文しなくちゃ。勿論、赤いハイヒールで!
それにしても、なんで希一、顔赤くなってたんだろう。あのクールな希一が珍しい。
それから一週間、希一は、私と目が会う度に顔を赤くしてそっぽを向くようになった。
変な希一。
「希一、さ、入って」
約束の土曜日、希一は殊更緊張した面持ちでうちにやって来た。確かに、パンツを黒とお願いしたはずだが、まさか全身真っ黒でやってくるとは。
「あ、ああ。今日、ご家族は?」
「ええー、(ハイヒール履かせるなんてバレたら怒られるし)いるわけないじゃん。だって、皆んながいない日を狙って誘ったんだし」
「……お嬢、ヤる気満々ですね」
「え、嫌?」
「いや、寧ろ好みです。それに、お嬢がこんなに積極的だってのは予想外ですが、俺だって男。正直言えば、嬉しいです」
「?、そう」
何が嬉しいんだろう?
なんとなく会話が噛み合わないなぁと思いながら、部屋に着いた私は、希一をベッドの上に座らせて、早速覚悟を決めた。
「あのね、」
「はい」
「私の告白聞いてくれる?」
「っ、当たり前です。本当は俺から言った方がいいって分かってますが、お嬢が望むなら大人しく聞きます」
「?、はぁ。あのね、実は、私」
「お嬢!」
「希一にハイヒール履いてもらいたいの!」
「勿論、俺も好きです!」
「「ん?」」
重たい沈黙が起きる。
「いま、なんて言いました?」
「希一こそ、私が言う前に返事されても。えっ、希一もハイヒール好きなの?もしかして、ハイヒール男子なの?受けなの?」
希一は、それまでの赤い顔をすっと、無くし、深い深〜い溜息をついて頭を抱えた。
「お嬢、もしかして俺にハイヒール履けって言いました?」
「うん」
「なんで?」
「ハイヒール男子に萌えるから」
「……ふぅ、落ち着け、俺」
「えっ、もしかして引いた?私のこと嫌いになった?」
「分かってましたよ。お嬢が、こんな人だってことは。ええ、期待していた俺が悪い。俺が悪いけども!……はぁ、お嬢のこと嫌いになるわけないでしょう。いいですよ、履いてあげますよ!ハイヒールくらい!ほら、さっさと始めましょう!」
希一は死んだ目で、私に先を促してきた。うん?これはいいのか?まあ、いいか。希一も受け入れてくれたことだし。
私は、ベッドの下に隠してあった赤いハイヒールを箱から出し希一の前に置く。
「これ、靴下って脱ぐんですか?」
「うん。あ、私がやるから希一は楽にしてて」
希一の足からスルスルと靴下を脱がせる。途端に現れる足は、骨がゴツゴツしていて血管が浮き出ている。理想の足の甲だ。足の指も細長く、爪も綺麗に切りそろえてある。この時点で、私は口の中の唾液が止まらなかった。
次に、パンツの裾を折る作業だ。ハイヒールはくるぶしが見えているからこそ美しい。左右対象になるよう、折る幅は細めにクルクルと折って完成だ。
そして、遂に、この完璧な足に、最強の武器赤いハイヒールを履かせる。ゴキュリ、と喉がなった。ハイヒールを傾け、希一の足に履かせる。ハイヒールは、ぴったりと足にフィットし、それは一つの完成品となった。
「「……」」
希一のハイヒール姿を想像していた時は、ただひたすら尊くて、もう、触れてはいけないキラキラした物だったのに、実際に見たら違った。
なんか、こう。ムラムラする。
「……足組んで」
「は?」
「御御足をお組みになって下さい!!」
尋常じゃない私の剣幕に、希一はさっと足を組んだ。
「……しい。……ばらしい。すはらしい。すばらしい。ヤバイヤバイ。もう、やばすぎるよ。え、エロくない?えっ、えっ、えっ、尊いうえにこの色気ヤバくない!?……希一、アンニュイな顔して!お願い!アンニュイな顔!!」
「アンニュイな顔って何ですか!?」
「賢者タイムの時の顔」
「っ、お嬢!なんつーことを!」
「早くしないと今ここで息子さんを慰めてもらうよ?」
「セクハラ!!お嬢!いつのまにかそんな」
「早く!」
「うっ、こうですか?」
それは、それは、もう、言葉に出来ないほどの破壊力でした。これは一つの極地なのです。アート。最早、神を超えた。
「うっ、うっ、うっ」
「お嬢、なんで泣いてるんですか!?」
「……させて候。御御足を舐めさせて頂き候!」
「はぁ!?」
「ぺろっ」
「!」
私は、ひたすらに舐めた。頬ずりをしてキスもした。もう、羞恥心なんてそんなもの知らない。私が、ちゅっちゅっしている間も希一は、微動だにしない。ああ、なんて幸せ。子宮の奥底がきゅんきゅんと言って疼いている。
「はぁはぁ」
「お嬢……」
「あむっ、ちょっとまってぇ、もうちょっとだけ。お願い」
「お嬢……」
「あっ、希一、希一」
「お嬢ーーー!!!!!」
我慢しきれないように希一が大声を出すので、足から視線を外し、希一を見上げるとそこには顔を赤くしながら怒っている希一がいた。
この表情は、とんでもなく怒っている。
もしや、引かれたと思い、目を合わせるのも辛くて視線を下げると、パンツの股間部分が張っていて、そこで漸く自分のしでかしたことに気付いた。驚き半分と嬉しさ半分である。
じっと、希一の股間を見ているわけにもいかないので目線を下に下げると愛しいハイヒールが。駄目だ。また、涎が垂れてくる。そうして、目線を上げると希一の股間が。私はそっと視線を斜め下に下げた。
「お嬢、俺は怒っています。ものすごく怒っています。何故だか分かりますか?」
「……私が変態だから。希一のこと、不愉快にさせたから」
「半分間違ってて、半分合ってます。俺が怒っているのは恋人でもない人間に、こんな誘うような事をしたことに怒っているんです。今、俺がどれだけ手を出すのを我慢したか分かりますか」
「殴るのを我慢するほど、嫌だったの」
「そっちの方の手を出すじゃりありません。こう、男として女に手を出すというか、ってそんなこと言わせないでください。俺は、もしお嬢がこんな事を他の男にやっていたらと思うと」
「他の人にやるわけないじゃん!!確かに、希一の足は理想的だよ?勿論、見た目だって。ハイヒールを履くために生まれてきたようなもんだよ」
「いや、違いますって」
「でもさ、流石に婚約者以外にこんな事しないわよ」
「は?」
「えっ?」
「婚約者ってどういうことですか!」
「私との婚約嫌だった?」
「「ん?」」
「ちょっと待ってください。俺の婚約者がお嬢?は?」
「やっぱり私との婚約は嫌なのね。私はこんなにも希一が好きなのに。希一を好きになったその日に、私の家から希一のご両親に話を付けてきたのだけど」
「は!?何、この急展開は!いや、ハイヒールを履けという時点から可笑しいけど、今はもっとおかしい。お嬢、俺のこと好きなんですか!俺も好きです!」
「希一の事は好きじゃないわ。大好き。愛してる。好きな人にじゃなきゃあんな事出来ないよ」
希一への愛なんて当たり前すぎて語る事も忘れてしまう。そもそも、私の存在の中に希一への愛があって、希一が好きだからこそ私は私でいられるのだ。
だいたい、私と希一が婚約しているなんて皆んな知っている事実だ。だからこそ、誰も私にも希一にも告白してこないのだろう。
「お嬢!」
希一は、私にがばっと抱きついた。胸にゴリゴリと質量のあるものがあたる。
「では、もう我慢しなくていいんですね?」
「えっ?」
「明日、声が出ないほどに喘がせてやるよ。覚悟しろ」
「ん?希一?」
「ほら、服を脱いで裸になれよ。たっぷり愛してやる」
その日、私はめくるめく快感を初めて経験した。そして、新たな萌えポイントを持つことになる。
「でね、夢ちゃん。ハイヒールは攻めでもいけるんだよ!あと、普段敬語なのに、エッチの時だけ俺様とか超萌える!!」
「なんだよ。惚気かよ。爆発しろ」
因みに、作者の姉のBL本が母に見つかり、姉が正座して説教を食らったのは実話です。