新たな仲間
怪物の一体がオトヒメの腕をつかみ持ち上げる。
つるし上げられた人形のように、オトヒメの身体はグラグラゆれていた。
もう一体の怪物がタケルに襲い掛かる。恐怖に震える体は硬直し、タケルは怪物が迫って来るのを見続けた。
オトヒメの身体が目の端で揺れている。
怪物に掴まれた華奢な腕は潰れていないだろうか。
か細い肩からギシギシと音が聞こえてくるようだ。
顔は恐怖で歪んでいた。
オトヒメの瞳は、助けてを求めて見開かれていた。
体は石のように重く、指一本動かすことが出来なかった。
怪物の指先に生える太いかぎ爪がタケルに覆いかぶさる。
ここで死ぬのか。
とても静かだ。
とても長い時間に感じたが、すべては一瞬の出来事であった。
デュウエルが右手で左手首をささえ、左手を前に突き出していた。
突き出した左手が翠色をおび、光が膨れ上がり弾けた。
光は今にもタケルに掴みかかろうとしていた怪物の腕を押し返す。
怪物は衝撃で後ろに仰け反った。
タケルの中で何かが爆発した。
「うあーーーーーー」
タケルは柄をひねり光の刃を顕わにしながら、剣を前に突き刺す。
光剣は怪物の胸下から頭までを貫いていた。
肉の焦げる音と匂いがタケルを包む。
倒れこむ怪物を跨ぎ、オトヒメを釣り上げている怪物に襲い掛かる。
タケルは恐慌状態に陥っていた。その時のことは記憶にない。
意識を戻したとき、もう一体の魔物も息絶えていた。タケルはミンチになった魔物を組み敷いていた。
嘔吐感がタケルを襲う。
「お嬢様ー」
オニコが背を向けた瞬間、男は全身をバネのようにしならせ、凄まじい勢いで襲いかかる。
男から見れば千歳一隅のチャンスである。
爪はオニコの背中を深く切り裂いた。
オニコが前にはじけ飛ぶ、止めとばかりに男はオニコに向かい跳躍し、腕を前に突き出す。
男の爪がオニコに届こうかとする刹那、男の注意は前方に引き付けられた。
眩い翠の光がはじけ、白い棒状の光が配下の一体を貫いていた。
危険度を推し量る一瞬の逡巡が、遅れを招いた。
オニコが体を反転させ、爪をよけながら、男の左肩に深々と光る指先を突き立てたのである。
「ぐは!」
男はうめき声をあげながらも、足でオニコの腹を蹴りつけ距離をとった。
オニコの腹は、足の爪により抉られた。
オニコと男は距離を開け、三度対峙する。
オニコの後方から、怪物の断末魔が聞こえた。
男の顔から薄ら笑いは消えていた。
オニコの服は大きく破け、背中と腹部の傷は深かった。戦闘を長引かせるのはかなり不利な状況であった。
オニコは額にエネルギーを集中する。額の光は成長し、一本角が辺りを昼間に変えていく。
男の左肩の傷もかなり深く肺まで達していた。左腕は垂れ下がり、動かすことができなかった。
男は右腕で動かなくなった左腕を抱えながら、オニコとその後ろを見る。
倒された二体の部下、光の剣をもち呆然としているタケル、気絶しているオトヒメ、助け起こそうとしている女。
「翠の光か、忌々しい。エルフが居たとは・・・」
男の口腔に赤い光が集まる。すでに勝敗は決したのであった。
死なばもろとも。
男の口から赤い閃光がはしる、同じくしてオニコの額から発した白光が、またしても両者の間で激突する。
男は熱に焼かれ吹き飛んだ。
オニコは腕を顔の前でクロスし、その場で耐え続けた。後方にオトヒメがいる。少しでも衝撃を身に受け盾になる必要があったのだ。
デュウエルもまた腕を前に翳し、前方に翠色の壁を作ったのだった。
浜辺に静寂が戻った。入り江は半円に抉られ形を変えていた。デュウエルの家も粉々に吹き飛び、跡形も無く無くなっていた。
オニコは浜辺に一人佇む。エネルギー切れて硬直していた。男は半円に広がった入り江の反対側で、全身を焼かれこと切れていた。タケル、オトヒメ、デュウエルも意識がない。
森の奥から乳白色の箱が滑るように進んでくる。オトヒメの横で止まると中から鬼子が現れた。
鬼子はオトヒメの安否を確認すると、再度箱に乗り込みオニコの回収に向かうのだった。
次に目覚めたのはデュウエルだった。
魔力の使い過ぎで痺れる頭を振りながら周囲を見渡すと、唖然として言葉も出てこなかった。
入り江は大きく変形し、家は何処にも見当たらない。
横に倒れているオトヒメを鬼子が心配そうに介抱していた。
デュウエルは重い体を奮い起こし、タケルとオトヒメを近くの木の下まで運ぶのだった。
デュウエルは左手を掲げる。
(生命の光よ)
翠の光が溢れ二人を包み込むと、徐々に顔色が良くなっていった。
「ふぅ、お姉さんもうクタクタ~」
デュウエルはオトヒメにかぶさり、眠りにつくのであった。
日がだいぶ高くなってから3人は目覚めた。デュウエルは頭を抱え頭痛と戦っている。二日酔いの親方みたいであった。
タケルとオリヒメは、変わり果てた景色に言葉を飲み込む。
「デュウエルさん御免なさい、巻き込んでしまって・・・」
「御免なさい・・・」
二人の謝罪にたいし、手をふって答える。いまはそれどころでは無いという雰囲気であった。
タケルは光剣の柄を拾い上げる。柄をひねっても光の刃は現れなかった。魔核を使い切ってしまったようだ。次に怪物2体を確認し、入り江向こうを見に行った。男の全身はただれ、辛うじて元の身体をとどめている状況であった。
船も流されてしまったのか、見つけることは出来なかった。タケルは森に食べ物を探しに向かった。
タケルが木の実を取り戻ってくると、デュウエルは少し回復していた。
「貴方たち、なぜ竜族にねらわれているの?」
初日の晩にも話していたのだが、デュウエルは子供の言っている事と、話半分で聞いていたようだ。鬼子への興味で頭に入っていなかったらしい。
食事を取りながらタケルが話す今までの経緯を、今回は真剣に聞いていてくれた。
「シャルトルへ帰りましょう」
デュウエルはこの島に一人で住み、魔素の研究をしていた。
生まれ育った土地は遥か遠く、大陸の西の端にあるという。
「私たちの町になら、竜族でも簡単には手をだしてこないはずよ。お姉さんにドンと任せなさい。」
胸に手を当てる。デュウエルはタケルとオトヒメをとても気に入っていた。落ち着いて暮らせるところが見つかるまで、2人を保護しようと決意するのであった。
2体の魔物から魔核を、謎の男からはレッドダイヤモンドを取りだすことができた。魔核の一つを光剣にセットする。
その後タケルは二日をかけて3人が乗れる船を造ったのだった。