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戦闘メイド『日本鬼子』  作者: ビタミンB13
2/8

強敵現る

 とりあえず助かったようだが、目の前に転がる異形の魔物。あれは何だ?

 この島に魔物が現れたことは一回も無い。そもそも魔素の希薄から陸地では大幅に行動が制限されるはず。それが火を放ち森を焼き払った。そんなこと聞いた事も無い。

 その化け物どもが地面に転がり、息絶えている。

 目の前にいる少女は、その様な怪物を4匹とも瞬くまに倒してしまった。


 少女が前まで歩いてきて立ち止まった。徐にタケルの頭に手を置き2人の間に数瞬の時間が流れる。

 その後少女は西のほうへ向きを変え、森の中に消えていった。



 暫くその場で呆然としていると、南東の方から大勢の足跡と話し声が聞こえてきた。森の消火にやって来た村人たちであろう。彼らは魔物の死骸に驚きながらも、横をすり抜け火元へ向かっていった。

 消火活動は明け方までかかり、未明の薄明かりのなか露わになった西の岬は形を大きく変えていた。



 オリヒメは村長夫妻に心配をかけまいと窓の破壊の件をごまかし、部屋に戻って来れたのは、彼女が飛び出してから1時間位たってからであった。

 1Fには引っ切り無しに村人がやってきて、山火事やその他の対応を村長と話し合っている。

 平和なこの村では、滅多に災害が起こることがなく、皆の動揺が空気に乗って伝わってくる。


 部屋の扉をあけると先ほどの少女が立っていた。彼女が危険でないことは本能で理解できる。


 「あなたは誰」

 オリヒメが囁き声ともとれるか細い声で問うと、彼女はその場に跪き


 「当機はHigh novelty movement toy - 02。固有名称ひのもとおにこ」

 と答えた。その動きは滑らかで重さを感じない。

 


 「何処から来たの」

 「現在地より西方へ6000キロの距離になります」

 「何をしに来たの」

 「当機はマスターの保護を主目的としています」

 「マスター?」


 「マスター」

 と言いつつ少女が手を差し伸べてくる。

 「私はオトヒメ」

 「当機はマスターオトヒメの保護を主目的としています」


 その後幾つか質問を重ね分かってきたことは

 『ひのもとおにこ』は機械人形である。乳白色の箱は二重構造になっており、下部に収納されていた。

 箱は魔素に耐性を持たないオリヒメの除染装置であるとともに、『ひのもとおにこ』のメンテナンスの役割も担っている。西の岬に現れた怪物はマスターへの脅威と判断し、自動迎撃行動にでたとのこと。あとはリンクというものが切断されていて、詳細な情報は一切不明とのことだった。

 彼女の話には分からない言葉も多く、オリヒメに理解できたのはこのくらいであった。外では東の空が白み始めている。西の空をみると山火事は消火できたみたいだった。


 「もうすこし普通というか、分かりやすく話してもらうことは出来ないかしら」

 「内臓アーカイブにアクセス、アキハバラ語に変更。現時点までの会話履歴をもとに自動修正。」


 「畏まりました、お嬢様」

 そういうと、左足を少し後ろに引き膝を軽くかがめ会釈をした。

 その後、彼女は自身をモチーフとした手のひらサイズの人情を取り出した。そろそろ行動限界が近づいており充電及びメンテナンスが必要とのことだった。

 彼女が乳白色の箱に入ると、普段マットだと思っていた部分が閉じ彼女は見えなくなった。


 平行して手の上で人形が動き出す。

 人形は二頭身でまん丸の頭に小さな胴体がついていた。肌ざわりもよくスベスベしている。意匠にいたっては完ぺきに本体を再現していた。

 ・・・か、可愛い!


 「お嬢さ・・・んぐ」

 「おにこさんのミニチュア版だから鬼子ちゃんね!」

 オトヒメは人形を胸に抱きしめる。


 下の階では、まだ村人が出入りをし、村長と対策を打ち合わせているようだ。オリヒメは隣の空き部屋に向かい暫しの仮眠を取ることにした。



 朝になり森の鎮火が確実になったところで、村人は引き上げていった。その際恐る恐る魔物の死骸も持って行った。後に残されたタケルは家があったと思われる場所に、呆然を佇む。

 タケルの頬を熱いものが伝う。この島における唯一の安息地、無き父との思い出が詰まった家は、今では記憶の中にしか存在しない。

 いつまで呆然としていたのだろうか、いつの間にか横にライエが来ていた。ライエは様子を伺いつつタケルの服の裾を引っ張り、村へ誘おうとしてくれていた。マノア叔母さんに言い付かってやって来たのであろう。タケルはライエに誘れるがまま村へ向かった。


 村へ入ると、すれ違う村人皆の視線がタケルに突き刺さる。

 「忌み子が・・・」

 「山火事を起こすなんて・・・」

 「魔物を引き寄せたらしい・・・」

 「早くに島から追い出すべきだったんだよ・・・」

 「ナナクリやマイリだってあの子に殺されたようなもんだ・・・」


 水涌亭の前までくると、店の前でマノア叔母さんが待っていて、俯きながらたどたどしく歩いてくる二人を見つけると、走ってきて力強く抱きしめてくれた。呆然としているタケルの横でライエが肩を揺らし泣いていた。


 お店は徹夜で消火活動をしていた村人で混んでいた。タケルはマノア叔母さんに誘われ2Fの部屋に入った。部屋の中には温かい食事が運んであり、ご飯を食べてグッスリ寝るようにと言い残し叔母さんは部屋から出ていった。

 スープを啜ったがお腹がすいていない、いつもはとても美味しいと感じる叔母さんの料理なのに、まったく味がしない。嘔吐感をこらえて無理やり胃に流し込み、ベッドに倒れこんだ。

 夜を徹して水くみをしていたので、体はドロドロに疲れている。しかし頭の奥が疼き、容易に眠らせてはくれなかった。



 お昼ごろになり漸くひと段落ついたのか、村長の家も日常が戻りつつあった。オトヒメは母である村長の妻カウェラの呼ぶ声で目をさます。1階に降りていくと父である村長のバンザイは村人と共に出かけたとのことだった。少し早い朝食をとりながら、カウェラから昨日の出来事を聞く。


 西の岬が魔物に襲われ、周辺が大火事になったとの事。幸い火は消し止められて被害は最小限で抑えられたとの事。村人に被害者は無く、西の岬に着いたときには魔物は全て倒されていたらしい。4体とも鋭利な刃物で切り裂かれた痕があったとの事。今バンザイは魔物の見聞に鍛冶屋のカネオヘのところへ行ったとの事だった。



 食事を終えカウェラと軽く話を終えたあと、オトヒメは自室へ引き上げた。今日はカウェラも忙しいのだ。この後も村人が父を訪ねてくるだろう。


 部屋に入ると机に向かい、まん丸の人形に向かい合う

 「鬼子ちゃん」

 「はい、お嬢様。如何いたしました」

 人形はとても器用に短い脚をクロスしお辞儀をする。


 「私の本当のパパとママは今も生きているの?」

 オリヒメは家から、正確に言えば来客がいるときは部屋から出てこない。それでも噂は何処からか耳に届くし、髪と目の色の違いから、村長夫妻の子供でないことは前々から気が付いているのである。

 村長夫妻はオリヒメを実の娘のように可愛がってくれる。それでも子供の頃に家を抜け出して、村まで本当の両親を探しに行ったことがあった。


 初めて行った村は広くて、とても冷たい場所であった。村人はヒソヒソ話すだけで遠巻きに冷たい視線を向けてくる。オリヒメが話しかけようと近寄っても、顔を背け急ぎ足で立ち去ってしまうのであった。

 歩き疲れたオリヒメが道端に屈んでいると、目の前を親子が通りかかった。大人の方は短く借り上げられた金髪が太陽で輝き、白い歯と壁のような体が特徴であった。横を歩いていた子供が目ざとくオリヒメを見つけ駆け寄ってくる。


 「きみ何処からきたの?」

 話しかけられたオリヒメは胸に抱えたお気に入りの人形を、さらに強く抱きしめ縮こまる。


 「ぼくと同じ髪をしている子初めて見た。名前は何て言うの?」

 ハッとして顔を上げると、興味深々という面持ちの男の子がそこに居た。

 オリヒメと同じ黒目、黒髪の少年。何よりもキラキラした瞳に吸い寄せられる。


 その後オリヒメは少年の父親に負ぶわれ、村長の家に帰ってこれたのであった。この島に黒目黒髪の子は2人しかいない。何処の子供かなどは聞くまでもない事であった。

 以来オリヒメは村長の家から一度も出ていない。



 「申し訳ございませんお嬢様。何も分からないのです」

 鬼子ちゃんが申し訳なさそうに答える。どのような作りになっているのだろうか。鬼子ちゃんの表情はとても豊富である。

 「西へおよそ6000キロ、この島ですと外周300周の距離が離れています。私の力では海を渡ることができません。」

 鬼子ちゃんは今にも泣きだしそうな表情である。


 「鬼子ちゃん泣かないで。聞いてみただけだから」

 オリヒメは村長夫妻を父母として愛している。ただ真の親がいるのであればどうしても心が引かれてしまう。この島はオリヒメには冷たく、異邦の地であるのは間違いないのだから。



 日も沈みかけたころ、村長は家へ帰ってきた。魔物の解析ができたようだ。バンザイは頬を少し蒸気させている。

 3人で夕食を取っているときに、バンザイが嬉しそうに話し始めた。

 

 今回の魔物は魔核今まで見たことがないくらい大きいとの事だった。それが4個もあったという。村の生活に役立つとの事だった。


 ただ、陸に強力な魔物が現れるのは初めてで、その事を考えるとうすら寒いものもあった。


 オリヒメはバンザイの話をひとしきり聞き終えて、部屋に戻ることにした。

 オリヒメ専用ベッドは、食事の前にバンザイが隣の部屋へ移動してくれたとの事だった。元の部屋は明日に職人がくるとの事だった。



 魔物の襲撃から1週間ほどが過ぎていた。タケルは次の日から漁にでようとしたが、マノア叔母さんに止められた。傍から見ても生気がなく、このまま帰って来ないのではないかと心配をさたようである。

 タケルは毎日西の岬に来て周囲をさがすのであるが、思い出の欠片となるものは何一つ見つからなかった。もともと家の建っていた場所は地肌がめくれあがっている。どれだけの力がかかればこのようになるのであろうか。


 日も水平線に沈もうとしている。今日も何も収穫を得ず帰ろうとすると、背筋に悪寒が走った。タケルはとっさに飛び退り振り向く。そこには細身の人間が太陽を背にして立っていた。

 西日が眩しくよく見えないが、体にフィットした上下の服を着ているようだ。足は先の尖った靴で覆われている。違和感を感じるところは体の後ろに紐のような物が垂れ下がり、ゆらゆら揺れていることであろうか。


 「今天、我想何仁一点・・・」

 男の言葉は全く理解できなかった、そもそも言葉なのだろうか。

 「お前は・・・何だ?」

 タケルは勇気を振り絞り問いただす。


 男は首を傾げ、暫し黙考する。

 「失礼、少しお尋ねしたいのですが、この島に2mほどの乳白色の物体はありませんか?」

 男の口調はとても丁寧だ。片手を胸前に置き少し状態をかがめる姿勢も堂に入っている。殺気を微塵も感じないのに、太陽の光さえしのぐ目の奥の光はなんであろうか。


 「し、知らない」

 事実である、この男に嘘は通じない。本能が身の危険を報せている。

 今すぐこの場を離れろと


 しかし、タケルは男から目を離すことができなかった。背を向けた瞬間に最後の時間がやってくると肌で感じ取っているのである。


 「黒目黒髪、実に興味深い。体内にナノマシーンの反応は感じるので純粋種では無いのでしょが・・・先祖帰り?・・・貴重なサンプルとして持ち帰り・・・いや箱を探す時間を考慮しなければ・・・」

 男は顎に手をあて、考え事をしているようだ。

 気が付けば男と接してから幾ばくかの時間が過ぎていたようで、太陽は完全に水平線に沈んでいた。そして周囲が闇に包まれていくのに比例して、男の目は赤く燃え上がっていった。

 目の前の男も人間ではない、何者かであったようだ。


 「今回は諦めますか・・・」

 男が山の方へ眼を向けたとき森が白光に切り開かれ、再度彼女が現れた。

 白く輝く彼女の指先が男の首元に吸い寄せられる刹那、男は体をかわしながら右手で彼女の腕を払いのけていた。


 タケルは振り向き全力で走った。この戦闘はやばい、巻き添えをくらえば死ぬレベルだ。


 奇襲に失敗したことで、ヒノモトオニコは身構える。左右の指先に白光をたたえ、左腕を前に右腕を後ろに配し男の隙を伺う。


 「ほう、ガーディアンですか。先遣隊が帰ってこないので様子を見に来たのですが、この島で当たりのようです」

 行幸行幸と男は喜びを露にする。

 「この魔素の少なさであれば古代種の生存も可能ですか。十二年です、最初に反応が現れてから十二年。反応の微弱さゆえ海底をくまなく調べたのですが見つからないはずです。まさか陸に上がっていようとは。

箱と純粋種はどこですか。ここは息苦しくてあまり長いしたくありません。穏便に引き渡して頂けると幸いです。」

 男の態度はヒノモトオニコを前にしても変わらず、とても慇懃であった。


 「お嬢様を守るのが私の使命」

 言うと同時に、左の指先より光弾が走る。

 男は素早く右にステップを踏にそれをかわすと、態勢を低くし突っ込んでくるのであった。

 男の爪がオニコに迫る。その爪は深い緑色をしていて厚みがあり弧を描いていた。その爪は鉄板でも紙のように引き裂けるほどの破壊力をもっていた。

 オニコはわざと左に態勢を崩し男の爪を避けるとともに右爪の光剣で男の胸を狙う。


 光剣は男の胸を軽く撫で、破けた服の隙間から血を滴らせていた。しかし、男は交差した瞬間に尻尾でオニコの脇腹を貫いていた。両者の身体能力は全くの互角。


 間をあけてオニコと男が再度対峙する。

 「カスタマイズ品でしょうか、非常にお強い。このエリアは魔素がとても少ない。死なないまでも全力を出し切れば1月は戻って来れないでしょう。どうか大人しく捕まって頂けないでしょうか」


 オニコは消耗戦になることを考慮する。箱にはまだ予備のエネルギーが蓄積されているが、身体の欠損は修理に時間がかかる。ナノ細胞の活性化により著しい欠損でもない限り修復可能ではあるが、それでもダメージの大きさは行動不能時間と比例する。


 オニコは額のコアにエネルギーを集中する。光は角の様に伸び、輝きを増していく。両者全く隙が無く、お互いの間合いに入ることは不可能であった。

 男も口を開け喉の奥に赤い光を貯めていく。


 白と赤により西の入り江に太陽が落ちたかと思わせるほど光に満ちたとき、オニコの額と男の口からそれは同時に発射された。光は中間で交わり爆発した。


 オニコと男は衝撃波により吹き飛ばされ、西の入り江は丸く繰りぬかれたように消滅した。


 「このお礼はいずれ・・・必ず・・・」

 全身に火傷を帯びた男は海に去っていった。


 オニコも同じく全身に損傷を受け、その場に膝をついた。そのまま瞼が閉じ、体が硬直する。

 エネルギー切れにより機能停止となった。


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