75話・なんだかきみがもう一人いるみたいだ
「お褒めに預かり光栄だよ」
「それ全然褒めてないから。怪しさ満載ってことよ」
「どのあたりが?」
食事をしながら軽口を叩きあう。過去のわたしはギルバードとこのように会話を弾ませる事なんてできなかったような気がする。自分から話すのが苦手だったせいもあり、もっぱら話しかけてくるギルバードに合わせて相槌を打つのが精一杯だったのだ。
それってギルバードとしてはどう思っていたのだろう? つまらない女って思っていたよね? きっと。自己嫌悪に陥る前に、封を切られた小さな葡萄酒が目の前に差し出されていた。
「まあ、飲みなよ。喉が渇いていない?」
葡萄酒の瓶は良く冷えていた。ここにはグラスなんてないからじかに口を付けて飲むしかない。
「ありがとう」
やけくそ気味でぐいっと瓶を煽ると、それをギルバードが目を丸くして見ていた。以前だったならコップか何かないかしら? と、まず、ギルバードに聞いただろうけど、前世の記憶持ちであるわたしにはそんなもの全然問題なしだ。グイグイいける。お腹も満たされて葡萄酒が入ると、体がぽかぽかと熱くなり気分が良くなってきた。そのわたしに遠慮がちにギルバードが言ってきた。
「なんだかさ、ジェーン、きみ変わったよね?」
「そうぉ? 自分では何も変わった気はしないけれどぉ……? もしかしてあなたの前で何匹か被っていた猫を下ろすことにしたからかしら?」
と、惚けようとしたのに、彼は探るように見てきた。
「そうではないだろう? こんな事を言ってはきみが気を悪くするかもしれないが、今のきみは以前のきみとは全く違うような気がするんだ。なんだかきみがもう一人いるみたいだ。誰かがきみに成りすましてでもいるような、不可解さを感じるというか……」




