49話・原因不明の眠り病は嘘でした
あわや簒奪となりそうな場面をどうにか乗り切ったギルバード達は、ガルム達、衛兵らによって牢屋に連行されたメアリー達の背を見送ると執務室にきていた。サーファリアスはギルバードを労った。
「ギルバード。ご苦労だったな。あの者たちの情報をいち早く伝えてくれたおかげで最悪な状態は防げた」
「宰相のせいでこっちはしばらく病人の振りをする羽目になって大変でしたよ。許婚の前で寝たふりはきつかった」
「そう言いつつも、きみは昼夜逆転生活を送っていたのだから、何も問題はなかっただろう? ギルバード」
「全く、あなた方は人遣いが荒い」
軽く睨むギルバードにサーファリアスは飄々とした物言いで言う。アズライトはふたりを見て苦笑した。実はギルバードはメアリーに薬を盛られそうになったとき、一度は含んでみせ、すぐに吐き出していたのだ。
コウモリとなったばかりの頃、薬を飲んで吐き出す訓練があり、それが今回役に立った。コウモリは人知れず行動を起こすので、万が一、身の危険が迫っても一人でどうにか切り抜けなくてはならない。武術の他に先代のコウモリから指導を受けていたのでそのおかげで助かったとも言える。
ただ、メアリーにどんな薬を盛られたのか分からなかったので、たまたま丁度良く訪ねて来た義兄に協力を求めた。義兄には自分が倒れたことにして屋敷に連れ帰ってもらい、宰相たちに連絡を取ってもらった。
そして運が良かったことに、義兄はエメラルドグリーン家のお抱え医師を連れていたのですぐにギルバードが吐き出した薬の解析を頼む事ができた。薬は毒薬で仮死状態になるものだったらしい。
メアリーの周辺でルイを王座から引き下ろそうとする動きがあることを聞きつけた宰相は、ギルバードが奇病にかかり眠りつづけているとわざと噂を流し、メアリー達の動向を監視していた。ところがメアリーはこちら側の動きに気が付いたのか特に動きを見せず、サーファリアスはオックスを今度はギルバードに近づけてみた。
ギルバードを囮に使い、彼らの行動を見張っていたものの、逆に警戒されたようで何も起こらなかった。そこでギルバード自ら目覚めたと芝居をうち、自分に薬を盛ったことを脅迫して彼らに接触することにしたのだ。
普段は屋敷の者をも騙し狸寝入りを決め込んでいたギルバードを、陛下は彼をただ寝せておくのは勿体無いと、宰相を通して彼に皆が寝静まった後に諜報活動するように求めてきたのだからたちが悪い。
でもそのおかげでギルバードは芝居する必要もなく、昼間に熟睡出来たのはもっけの幸いとも言えた。
「でもこれで我らの悲願は叶う。なあ、アズライト」
「ええ。今まで彼らは隙を見せませんでしたからね。怪しいだけで疑うわけにもいきませんでしたから。ここまでルイさまをお守りする事が出来て良かった。ギルバードのおかげですよ」
「侍従長の言葉はどこかうそ臭いな。一応、ありがたく受け取っておくが」
「可愛げがないですよ。ギルバード。年長者の言葉は素直に受け取るものですよ」
「はいはい」
軽口を叩きあいながら三人は、当代の王の命を守れたことに安堵していた。この場にいる三名のうち、特にサーファリアスとアズライトはルイに対し、負い目があった。




