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刀様の言う通り!?  作者: 神山 備
企画モノ短編
93/96

番外:鳴かぬなら……(初恋ショコラ企画)

今、レクサント家(実家)のあたしたちの寝室には半径10cm位の丸い穴が開いている。別に夫婦喧嘩した訳じゃない。『レクサント家にはものすごく希少なジョルトがあるらしい』という噂を聞きつけたこそ泥が菊宗正を盗みに入ったのだ。

 だけど、こそ泥が菊宗正を掴んだ途端、こそ泥の身体が勝手に動き出し、辺り構わず切りつけてその一太刀が寝室の壁に。そしてできた穴がコレ。ちなみに件のこそ泥は、あたしたちが帰ってきたとき菊宗正を振り回し(いや菊宗正に振り回され)続けてヘロヘロしながら、

「頼む、助けてくれ!」

とあたしに向かって叫んだ。身体が勝手に動く時点でヤバいっと思って離そうとしたけど、一度握ると手から離れなかったらしい。あたしが菊宗正を持った途端、簡単に離れたけどね。それを見てこそ泥は意味分からんって顔で呆然としていた。

 オービルがそんな放心状態になっているこそ泥を騎士団に連れて行った後、一人になったあたしは、できあがってしまった穴を見た。あちゃー、派手にやってくれちゃってと、菊宗正を見る。菊宗正はバツが悪いのかだんまりを決め込んでいる。

 だけどそのとき、どこからかピッと電子音がした。えっ? なぜに電子音?? このアルスタットに電気で動く物なんて存在しないんだけどなと思ってると、次に聞こえてきたのが男の人二人の声。次いでわっと大げさな爆笑が入る。これって……

「テレビ!?」

そう、テレビよ! テレビのお笑い番組だ。それが今、ぽっかりと開いた穴から聞こえているのだ。

 んで、改めて穴を覗いてみると、真っ暗だった穴の中が明るくなっている。しかも、穴の向こう側は見慣れたレクサント家の廊下ではなく、テレビがあってソファーとローテーブルの置かれた、別の意味で意味で見慣れた一般的な日本のリビングの風景。

「日本!? 日本とつながった?」

懐かしい日本の風景にあたしは思わず手を伸ばす。だけどあたしの手は開いているはずの穴の中に入れず、ビリっと弾かれた。

『無駄だ。完全に開いておるわけではない。此度は空間の薄皮を剥いたに過ぎぬ』

すると、すかさず菊宗正がそう言った。なによぉ、『見てるだけぇ~』? まったく相変わらず中途半端にチートなんだから、こいつは。ちゃんと開いてるんならこの穴広げちゃえば日本に帰れるのに。

 ま、でもまだアルスタットの食改革プロジェクトも終わってないし、オービルも悲しむだろうし、何よりこの穴の先って、たぶんウチじゃないんだよね。ソファーもローテーブルもどう見てもウチのじゃないし、ウチはリビングにパソコンなんかおいてない。壁壊して異世界から人が乱入したら……やっぱ迷惑だよね。


 とまれ、あたしはそれ以来、ぽっかりと浮かび上がった異世界(いや、あたしにとってはここが異世界か)の風景を堪能するのが日課になった。どうやらあっちからはこっちのことは見えてないみたいだし、ならわざわざ塞ぐことはないかなって。寝室とかならアレだけど、リビングだし、何よりテレビが見られるのはオイシすぎる。ただ、番組も時間帯も選べないのが玉に瑕だけどね。

 あと、コマーシャルも困る。だって、どんなに美味しそうだと思っても、逆立ちしても買いに行けないもん。ああ、コンビニスイーツ食いてぇ、特にあの……初恋ショコラ! 見るからにうまそうなんだよね。今ブレイク中の韓流アイドルグループが、

『ケーキとボクのキス、どっちが好き?』

とちょっと舌っ足らずな日本語で言うのを食い入るように見てたら、オービルの背中に黒い羽が生えていたときには慌てたけど。言っとくけど、あたしはイケメンアイドルを見てたんじゃなくて、初恋ショコラを見てたんだからね。

 ホント食いてぇ! 食べられないと思うと余計に。

こう言うの、蛇の生殺しって言うんだよね。



 だけど、食べたくて悶々としてたのは、あたしだけじゃなかった……

「なぁ、テンテン、初恋ショコラてノーソンやったよな」

ある日、この家の主婦小山翼こやまたすくさんは帰ってくるなり、高校生の娘テンテン(本名は天衣たかえ)ちゃんにそう言った。

「うん、確かそうやったと思うけど、うんそうやわ」

テンテンちゃんは自分のスマフォを確認してそう答える。

「今、ノーソンに行ったんやけどあらへんかった。あらへんどころか値段のプレートとかなんもなかったに」

「うそっ、また一部地域かいな」

それを聞くと、こなだも、いまいち根性ないスポーツアニメそれやってんからと、テンテンちゃんはふくれっ面。そう言えば、この家族が住んでいるのは、財布の紐が堅いので有名な地方で、色々な新製品が先行発売される割には、全国的に売り出されるものから除外されるという、かなり残念な地域だ。

「ああ、ホンマムカつくわ。こうなったら、自分で作ろかな。テンテン、ググってくれる?」

すると翼さんがそう言ってリビングのソファーから立ち上がった。

「チョコレートググるの? ちょっと待ってや」

それやったら、スマフォよりパソコンの方がええやろと、パソコンを開いたテンテンちゃんはチョコレートを検索し始める。けど、コンビニスイーツなんて簡単に再現できるの? と首を傾げながら見てると、テンテンちゃんはチョコレートのページを開いて、

「チョコレートはカカオの種子を発酵、焙煎したカカオマスに砂糖・ココアバター・粉乳などを混ぜ固めた物である。バナナの葉っぱに包んで発酵させる……んやって」

と、大きな声で内容を読み上げる。でもこれってチョコレートそのものの作り方じゃん。まさか、テンテンちゃん、カカオ豆から作るつもり?

「あんた何開けとん。この日本でカカオ豆から作るアホがどこにおるんさ。料理レシピでええんやんか」

すると、やっぱりたすくさんからすかさずツッコミが入る。でも、ここで終わらないのが小山家だ。

「本気でつくるんやったらこれぐらいって……日本にカカオの木なんてないやろっ!」

って、間髪入れずテンテンちゃんから返しが。しかも一人ノリツッコミってどうよ。言っとくけど、この家、ごく普通のサラリーマン家庭だよ。ただ、全住民にお笑いのクオリティーを求められる都道府県からここに転勤してきたらしいけどね。

 

「カカオ豆も載ってるわ。こんなんやねんて」

お母さんを無視して、さらに画面をスクロールさせていくテンテンちゃん。チョコレートの製造法の記事に続いて載っていたのは、チョコレートの歴史。そこにカカオ豆の画像も張り付けてあった。へぇ、カカオ豆ってこんな豆なんだ、でかいアーモンドって感じ。……でも、あれっ、これどっかで見たことが……これって、ヘイメの山側によく生えてるスカルテの実じゃない? アルスタット、特にヘイメはばっちり亜熱帯気候だから、カカオ生えてもおかしくないんじゃないかな。絶対、スカルテってカカオだよ!!

 じゃぁさ、じゃぁさ、カカオ豆はバナナの葉に包んで発酵させるんだよね-これはポラの葉っぱで代用できるっと。

 それから、砕くのは菊宗正にやって貰うとして、焙煎はモンテを焼くドラム式の鍋が使えるよね。それを砂糖とか生クリームを入れて練れば……できるかも知れない、チョコレート!! テンパリングはバリ難しいかもしれない。けど、やってみる価値あるんじゃない!?


 思い立ったが吉日。さっそくあたしはヘイメに手紙を書いてスカルテの実をポラの葉に包んでケイレスに運んでもらい(うふふ、馬車で移動している間に発酵もできるという、一石二鳥策なのだ)それを菊宗正に、『ちょうどいい加減』に砕いてもらい、(そのままだと不揃いだから、大きさをそろえないと火の通りがムラになるからね)モンテを焼く用のドラム式の鍋でじっくりと焙煎して、粉々に叩き潰す。た。

 で、出来たものに、砂糖と水飴、そして、生クリームとエバミルクで練り上げて、固めれば……アルスタット産チョコレートの完成だ。

 んで、作ったチョコレートであたしはガナッシュを作り(濃度を変えて二段階に口どけさせるこだわり付きで)それを、きれいに精白した小麦粉で焼いたタルト生地に盛れば……初恋グリエンテショコラの完成だ。ショコラはショコラのまんま。だって、今までアルスタットになかった物なんだもん。地球の名前でも良いでしょ、ってことで。

 これは、瞬く間に一部の男性たちを除いて大ヒット。


 ちなみに、たすくさんは初恋ショコラを自作したかというと……

小山家の上の娘、専門学校生のあぐりん(本名は称理あぐり)ちゃんからのカエルコールにテンテンちゃんがその不満をぶつけたら、

「なんや、そんなんガッコの近所のノーソンやったらいっぱい売ってるに」

あたし、何回か食とるにと、あぐりんちゃんはその日の内に家族の人数分買ってきた。それでも小山家近くのノーソンになかったのは、田舎過ぎるのだということで納得したとかしなかったとか。



 あたしとしてはド田舎に住んでくれてありがとうなんだけどね。


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