人を幸せにするためには、まず自分が幸せにならなくちゃ
「ダメです。私、圭介様一緒ありません」
俺のやっとこさの告白をお姫さんはそう言って秒殺し、
「まぁね、コーデちゃんにだって男の好みはあるだろうけどさ、圭介ってそんなに悪い方じゃないと思うわよ。良くはないけど」
ナオがそう言って俺の傷口にさらに塩を塗り込む。悪かったな、俺は見た目も中身も十人並みだよ。だが、
「違うます。圭介様は良い方ございますわ」
それに対して、お姫さんはそう言って俯いた。それを見た茉莉ちゃんは、
「ね、ねぇ、もしかしてもしかしたらコーデリアさんって自分が年上なの気にしてるとか? やだぁ、そんなの心配することないよ」
と素っ頓狂な声を上げ、
「また妙な行き違いとかあったらイヤだから持ってて」
と、ネマーサをお姫さんにしっかり握らせる。
「あのさぁ、コーデリアさんってナオちゃんと同い年だから、圭介さんより二つ年上なのよね。
そんなの、この日本じゃいくらでもいるから無問題」
と言った茉莉ちゃんの言葉に、
「しかし、この歳では子供も……」
おずおずと反対しかけるが、
「ストーップ! アンタソレ以上言ったら、日本全国の独身アラサー全部敵に回すわよ」
それはナオに阻止される。
「敵に……ですか?」
でも、いまいち解ってないっぽい。そして、
「そうよ、今時この国じゃ30超えてからの結婚なんて当たり前なの。当然そこからだから、40手前で初産なんてのもザラ。だから、全然気にしなくていいの」
ナオの説明を聞いて一旦は顔を上げたお姫さんだったが、
「ですが……わたくしはやっぱりお受けできません。
だって、わたくし……人を儚くしてしまいましたもの」
と首を振りながら言うと、口を堅く結んでさらに俯いた。儚くって……死ぬってことだよな。ってことはお姫さん、誰かを殺っちまったことがあるってことか? 信じらんねぇと、半ば困惑気味の俺たちは、
『そのような戯けた事があるものか』
と言うネマーサの一喝で我に返る。さらに、
『妾を茉莉に』
とネマーサに言われた俺は、項垂れているお姫さんからネマーサを受け取ると、茉莉ちゃんに渡した。すると、今度はネマーサは茉莉ちゃんの口を使って話し始める。(なんか悪いな)と、俺が身振りで送ると茉莉ちゃんはニコニコしながら手を振る。後で聞いたら、「憑依なんて経験したくてもできないじゃん。キターっ! って思っちゃった」
だと。さすが、ナオの彼女だ。ただ者じゃねぇ。
ま、それは置いとくとして、茉莉ちゃんの口を借りたネマーサは、
「姫様、案ずるな。あやつは生きておるぞ」
相変わらずの口調でお姫さんにそう言ったが、
「ウソ、ウソです。私は見ておりました。お祖父様の私兵に切り裂かれて血の海に沈むあの方の姿を!」
お姫さんは首をフルフルして、それを全面否定。
「ウソではないわ。確かに黄泉の扉を叩きはしたがの。生き意地汚く戻ってきおった」
「ウソ」
「ウソではない、今は圭介の妹、麗子と所帯を持ち子供もおる」
「麗子様と……」
「夫婦して国営の食堂を任され、アルスタットの食に尽力しておる」
「ネマーサ……」
「姫様、姫様は麗子と入れ替わることで十分国母としての責務は果たされた。
もう、姫様自身の幸せを考えても罰は当たらぬ」
「わたくし自身の幸せを……考えてもよいのですか」
困惑するお姫さんに、
「当ったり前じゃない。
いい、よーく聞きなさい。人を幸せにするにはまず、自分が幸せにならなくちゃ。
特にアタシたちがこれからしようとしている仕事は、人の一番幸せな日の装いなのよ。
肝心なアンタがそんな辛気くさいこと考えてちゃ、来るお客も来なくなるわよ」
と、ナオが力説する。それを聞いてお姫さんはこっくりと頷いた。
「そう……そうですわね」
「ソレが解ったら圭介、コーデちゃんをどこでも連れてってしっかりプロポーズし直してきなさい!」
「お、おう」
と言うわけで、俺は病院の帰り道に改めてプロポーズ、やっとお姫さんをモノにしたと。
因みに、麗子が10歳も歳の離れた男の嫁になったと聞いて、親父と二人で暴れたのは当然の話だ。




