そんなもん、優しさじゃねぇ!
いきなり、旦那認定しなくて良いと言い出した茉莉ちゃんの、
「王様には他にも奥さんがいてコーデリアさんには手を出さなかったんだよね」
という問いかけに、
「はい、わたくしとはわたくしのお祖父様などの大臣が決めたことで、陛下は騎士団時代からナタリア様一筋でしたから」
と、王様の事を語るお姫さん。その姿はどこか誇らしげで、俺には何だかそれがムカつく。そんな俺の顔をちらっと見た茉莉ちゃんは、
「で、コーデリアさんのじいちゃんが悪さして、森に放置されたんだよね。だけど、何で森なんだろ」
と、不敵な笑みを浮かべながらそう続けた。
「そうよね、普通幽閉って言うと、お城の塔とか、修道院とか一生特定の人にしか会えないとこだわよね」
ナオもそれに頷きながら相づちを打つ。で、続く茉莉ちゃんの見解に、
「あたし思うんだけどさ、それって王様の謝罪と愛情の現れなんじゃないかって」
俺とお姫さんは思わず顔を見合わせる。は? なんだそれ。
「何が言いたいのよ、茉莉」
ナオも茉莉ちゃんの言う意味が解らなくて首を傾げている。
「だってさ、森の大きさとかはわかんないけど、とりあえず壁なんかないわけでしょ? 見張りはたくさんいたの?」
すると、茉莉ちゃんはそう言って、それに対するお姫さんの、
「いいえ、特にセフィロタの森に着いてからは、私が王妃だった頃から仕えていた侍女のカエラだけですわ」
と言う答えに、
「やっぱね。逃げてもらう気満々じゃん」
グッジョブポーズを繰り出す。そして、
「茉莉……逃げてもらうってアンタ……」
「逃げるって言うと語弊はあるかな。とにかく王様はコーデリアさんに別の場所ででも幸せになってもらいたかったんだよ。
でなかったら、じいちゃんが処刑されたときに一緒に殺られてるって」
半ば呆れながら言うナオに、ドヤ顔そう返す。
「本当にこの女は物言いを知らぬ」
ネマーサも、俺のこめかみを勝手に押さえながらそう呟くが、
「知らぬが、その言うことは的を射ているから厄介じゃ」
と付け加えてため息をつく。
「確かに、あの男は姫様を日陰に置きながら、その幸せを願うような訳の分からぬ奴じゃった」
もう少し冷たければ恨めるというものをと、憎々しげにいうネマーサ(俺の口)に、
「陛下はお優しいのですわ!」
と俺の手を取り、反論するお姫さん。おいおい、体の自由は拘束されてるけど、それ、ネマーサじゃなくて俺の手だぜ。柔らかいお姫さんの手の温もりを感じながら、何で元旦那のほめ言葉なんて聞かなきゃなんねぇんだ! すると、
「んなもん、優しいもんか!
ただの優柔不断じゃねぇか!!」
いきなり俺の拘束が解け、握られているお姫さんの手をふりほどいた俺は、勢い余ってお姫さんを壁に追いつめた。
「違うます、陛下は国と民のことみんなみんな考えてるます」
すると、俺の手を握るのにネマーサから手を離していたお姫さんがそう言って俺の腕から逃れようともがいた。俺はがっちりとホールドしながら、
「そりゃ、考えるだろうさ、王様なんだからな。
けど、なんでそんな奴の事を庇うんだ。
別の女とラブラブなとこ見せつけて、挙げ句の果てにはへんぴな森に放り出す……結局ワリ食ってんのはお姫さん、あんた一人だろ。
俺なら、そんなヒドいことはしない。俺なら……」
と囁く。
しかし、俺のその言葉にお姫さんは真っ赤な顔で震えながら、
「ダメです。私、圭介様一緒ありません」
と速攻お断りの返事をしたのだった。




