だけど長い一日はまだまだ終わらない……(泣)
こうして、あたしはオービルに付いて彼の家に行った。
先ず、驚いたのは、オービルん家がデカかったこと。さすがに付いてこいと言うだけはある。部屋が10以上もある大豪邸だったのだ。
それもそのはず、オービルは若くして騎士団長にまで上り詰めた強者で、陛下の覚えもめでたく、一代限りだけど爵位も持っているお貴族様だった。
ただ今は、大怪我をしたので、この故郷ヘイメで静養中。
「だが、傷も良くなったし、俺もそろそろ王都に戻ろうと思っていた所だ。ノーマがここを使ってくれれれば、屋敷も寂れずに済む」
人のいない家はあっという間に寂れるからなぁというオービルに、あたしは、正直、こんな豪邸の管理なんかできないわよと思う。大体、あたしに与えられた部屋自体、地球のあたしが使っている部屋のおよそ3倍はあるんだから。落ち着かないし、掃除するのも一苦労だ。ま、贅沢言える立場じゃないんだけどさ、あたし、明日から『カイファレモア』(無理矢理日本語に訳すとしたら海猫亭)で仕事もしなくちゃなんないんだよ。
「心配するな、この家のことはダリルとイオナがする」
そしたら、オービルがくすくす笑いながらそう言った。ま、いくら独り者だからって、お貴族様が自ら家事をする訳ないか。……でも、何で考えてること解っちゃったんだろう。
ま、いっか。お給料が入ったらお家賃を払えばいいんだよね。
あー疲れた。ホント一日が長かった。食事はカイファレモアでしてきたし、明日があるから、早々に寝させてもらおう。
「じゃぁ、おやすみなさい。オービル」
あたしは、部屋の前でオービルに手を振った。でもオービルは、あたしが閉めようとしたドアを手で押さえて、
「待て、まだやることがあるだろ」
と言った。こんな夜遅くに何をやろうって言うのよ!
「ノーマは、言葉が解らないんだろ。来い、今から特訓してやる」
すると、オービルはそう言って、あたしの手を引っ張った。
「言葉なら通じてるじゃない!」
と、手を振りきろうとしたあたしにオービルは、
「お前なぁ、解るのはその刀があるからなんだろ。明日から、背負って仕事するつもりか」
と、心底呆れた顔でそう言った。
そうだった! この中途半端にチートな化け刀は、一点でも触れてないとダメだったんだ。ずっと持ったまんまだったから、忘れてたよ。
「カイファレモアからメニューをもらってきたから、とりあえずはそれだけでも丸暗記しろ。お前も料理人の端くれだろ、食材は分かるな。俺が声に出して読んでやるから、最初は刀を持って、料理を把握して、次に刀を離して発音を聞く。大丈夫、意味が解ってれば理解するのはそんなに大変じゃない。なんせ、ノーマは俺より10も若いんだからな」
と、畳みかけるように、今日の学習計画を話すオービル。
かくしてあたしは、騎士団長様直々に、夜も寝ないでこの国の言語であるアルスタット語の猛特訓を受ける羽目になったのだった。
ああ、のたれ死にするのとどっちが楽だったのかな……