兄弟の契りとやかましい奴
そんな最中、ナオが得意先に向かう途中で事故にあったと姉貴から連絡があった。行くと命には別状はないが、右足がふくらはぎより下からバキバキに折れているらしく、手術するため輸血が必要だとのこと。同じ血液型だと聞いていた俺は早速提供を申し出た。そして今俺は、一応検査した上で血が抜かれ、処置室でしばらく横になってろと言われている。それを見て姉貴が、
「これであんたたちって血を分けた兄弟ってこと?」
と笑いながら言う。
「げっ、マジ勘弁。ナオにだけは兄貴面されたくねぇ」
うん? あいつの場合、兄貴面じゃなくて姉貴面か? どっちにしてもごめんだ。何かと細かいとこで説教される図しか浮かばねぇもん。
「にしたって、俺と兄弟って事は、姉貴ともそうなるってことだぜ」
良いのかよと言うと、
「あら、私は別に良いわよ。ナオのこと嫌いじゃないし」
と姉貴はお気楽にそう返す。
「俺も、別に嫌いじゃねぇよ」
俺だってナオのことは嫌いじゃない。ただ、時々地味にウザいだけだ。そしたら、俺たちのことを遠巻きに見ているちまっこい女の子に睨まれた。ナオの本当の兄弟? 確かあいつの兄弟って男ばっかのはずだけど。しかも一番末っ子のはず。妹にしても中学生じゃ、離れすぎてるし。
んで、このどう見ても中学生にしか見えない娘がナオの彼女の茉莉ちゃんだった。142cm、38kgの彼女はナオとは反対に、小さすぎて市販のコスプレ衣装が着られない。いや、一部チビガキサイズの大量生産のなら大丈夫かもしんねぇ。だが、入れば入ったで激しく凹むことになるのは必至だ。二人は市販の衣装に負けないものを作るという話で意気投合し、それがいつしか恋に発展したのだという。
ま、恋人が悪く言われるのはいい気はしねぇわな。俺はそのときそう軽く考えていた。
ナオの手術は無事終わった。だが、治るのは相当先で、もっと言えば完全に元のようにはならないらしい。当然、今までのような営業の仕事は足に負担がかかりすぎるためにNG。
そのことをナオが医者から宣告されてしばらくして、俺とお姫さんはナオから病院に呼び出された。
「コーデちゃん、アタシたちでブランド立ち上げない?」
ナオはお姫さん特製のフリフリパジャマのリボンを弄くりながらそう切り出した。
「へっ? 戻れるんだろ、会社に」
たしか、内勤で戻れると姉貴から聞いている。
「うん、それはそうなんだけどね……行っても全然違う仕事だと新人と変わんないしね。それなら自分で何かするのもアリかなぁって。
それにさ、もう正直自分を偽るのもイヤなのよね。同じ一回の人生だったら、よりアタシらしく生きたいじゃない。
その点、今なら保険金も入るし、退職金もいくらか上乗せしてもらえるみたいだしね。それを元手にしてさ」
「ま、まぁな」
すると、ナオはそう言って俺たちにウインクした。俺は鳥肌を立てながら軽くうなづく。
一応代替えの部署を用意してはいるが、基本会社は希望退職を促す気満々。確かにそんな会社、戻ったって居心地が良いはずはない。辞めて正解だろうが……
「だからって、この仕事が上手くいくとは限んないぜ」
と俺が返すと、
「そりゃそうだけど、やってみる価値はあるんじゃない?
それにさ、アタシが聞いてるのはコーデちゃんよ」
圭介は黙っててと、口を尖らすナオ。その一言に、
「私は……」
口ごもるお姫さんの横から割って入ったのは、
『妾は賛成じゃ。このままでは早晩姫様だけでは立ちゆかなくなるでの』
いつも通りのやかましい刀ネマーサだったが、
「そうでしょ! 需要がちゃんとあるんだもん。コケたりしないわよ」
それにナオが返事をしたもんだから、俺は思わずお姫さんと顔を見合わせた。
「えっ……」
もしかしてナオ、ネマーサの声聞こえてる?
『ナオとやらよ、喜んで姫様の僕となるがよい』
ネマーサもフツーにナオに話しかけてるし。
「僕? 冗談言わないで、この化け刀! あくまでも共同経営者よ、共同経営者!! そこんとこ間違わないでよね」
……一体、どーなってんだ??




