血のなせる業って、そこかっ!
「あ、あのさ……ナオはコーデちゃんが実は異世界から来たって言ったら、信じる? で、この刀がしゃべるって言ったら……」
「何よ、藪から棒に。そりゃ、逆トリも含めて異世界トリップはファンタジーの王道だし、大好きよ。
でもそれはお話の中のことでしょ」
覚悟を決めてそう言った姉貴に、ナオはそう言って、現実主義者の祥子らしくないわねと笑った。
「現実主義者の私が言うんだから、信じられない?」
尚もそう必至になって続ける姉貴に、
「にしたって、あんたたち以外にだれもしゃべってないじゃん。
確かに刀で生地が切れるのはびっくりしたけどさ、一応刃物なんだし、布専用にしてるのならそれもアリかなって」
と返すナオ。そうだよな、ネマーサの声は俺たちにしか聞こえない。どうすればネマーサの事が伝わるか……
「いっそのことナオを吹っ飛ばすか?」
と思わずつぶやいた俺に、
『圭介、そなたは妾の事を何と思っておるのじゃ』
吹っ飛ばす、吹っ飛ばすと心外な。と、言うネマーサと、
「何よ、あんたやる気なの?」
と言うナオのタイミングもテンションもほぼ一緒。こいつらが意志疎通できたら最強になるだろうな。ただ、そうなったら逆に最強すぎて手が着けられないかもしれないかも。
それでも、
「信じられないかもしれませ……%&*△#〒!?@」
「ほら、こうやってネマーサを外しちゃうとさ、お姫さんの言葉、全く通じなくなるだろ?」
と、ネマーサのオンオフで説明すると、ファンタジーに耐性があるというのか、ナオは比較的容易に事を納得してくれた。
「だって、言葉もそうだけどさ、大体刃を立てただけでジャストサイズに切り分けるなんてチートな技見せられたら、信じるっきゃないじゃん」
と言ったナオは、ネマーサの声が聞こえない事を悔しがってさえいた。そう、ナオが仕事中の事故で大けがしたとき、輸血した俺の血(たまたま血液型が一緒だったんだよな)でネマーサの声が聞こえるようになるまでは。血の成せる業って、そこかいっ! って俺たち姉弟がツッコミを入れたのは言うまでもない。
ともかく、ネマーサの事を受け入れた後のナオの指導は的確だった。お姫さんはあっという間に2つのミシンの扱い方を覚えて、高速でそれを操るようになった。
「そんなに勢いよく縫って怖くない?」
と姉貴が言うほど。そしてそれに、
「ゆっくり縫う方が歪みそうで……」
と答えるお姫さんは、あの何枚もあった生地をたった10日あまりで縫い上げてしまったのだった。




