だから、ナオだって言ってるでしょ!
「こいつが言ってたナオ-瀬田直純。私の会社の同期よ。
ナオ、これが弟の圭介と今日の生徒のコーデリアちゃんね」
「きゃ~かわいい! これくらいの背ならどんなドレスでも似合いそうよね。ただ、ちょっと日に焼けすぎてるわね。ま、それはファンデでかくすとして。創作意欲そそるわぁ~。
それから、あたしがこのカッコしてるときはナオだからね。間違っても本名なんかで呼ばないでちょうだいよ」
ただでさえデカいのに黒にヒラヒラ白レースなんつー強烈なカッコの直純改めナオはそう言ってお姫さんの姿に目を細める。
「あのね、私はコーデちゃんをあんたの生け贄にする気なんてぜんぜんないの。
それに、この子ちゃんと一通りの洋裁の知識はあるようだから。姉貴はそんなナオに、
今日ここにあんたを呼んだのは、普通のミシンはともかく、ロックミシンとかなーちゃん(姉貴の娘、夏菜のことだ。今日はお袋が連れだしている)が手を出すと怖いだけなんだからね」
と言いながらスリッパをすすめるが、
「あ、スリッパはいいわ。
だけど、生け贄だなんて失礼な。あたしは可愛い物が大好きなだけよ。可愛い子をより可愛く装って何が悪いの」
奴は手を振ってスリッパを断り逆ギレする。
「それはあんたの趣味でしょうが。
それとさ、ついでだから言っとくけど、この子私たちとタメだからね」
あんたの趣味につきあう年齢じゃないんだからと姉貴。
「た、タメ!? うそっ、見えない。コーデちゃんって言ったかしら? 後でどんなスキンケアしてるか教えて」
それに対して、逆に色めいてそう聞くナオはどう見てもおっさんだ。いや、そんなにイカツい顔をしてるわけではない。どっちかと言えばイケメンの部類に入るのだが、いかんせん骨太。そう言えば、歌舞伎の女形は素顔は地味なのが多いし、その方が化粧映えするのかもしれない。とにかく、顔も態度もすべてが暑苦しいとでも言えば良いのだろうか。そんなことを思っていると、
「何、あんた、何か言いたい訳?」
と急にナオがこっちを横目で見て言う。
「い、いや、別に……」
「ま、良いわ。あたし、別に男には興味ないから。
さぁ、コーデちゃん行きましょ」
ナオはそう言ってお姫さんをリビングダイニングに手招きする。
「ちょ、ちょっと待て!!」
それにしても、男に興味ないってどう言う事だ!!
「何よ、やっぱ何かあんの?」
「お前、カマじゃねぇのか」
と、聞く俺に、
「失礼ね、あたしは歴とした男よ!」
と吹いて、ナオはたっぷりとしたフリルをユサユサとさせて、リビングダイニングに入って行った。
「ナオのはただの女装趣味。ってか、自分の容姿に関係なく可愛い物が大好きで、身につけたいだけの男よ」
呆然とする俺に、姉貴が小声で耳打ちする。
「……それってやっぱりカマじゃ……」
「それがね、この服装じゃないときにはちゃんとというか、結構男っぽいし、彼女もいるのよね」
ウソだろ、こいつが男っぽいって想像つかねぇ。
「あ、彼女はナオのこういう癖知ってるよ。
大体、二人が知り合ったのコスプレサークルだから」
と付け加えたどうでもいい情報に俺は更に頭を抱えたのだった。




