特別講師召集
お袋を姉貴の家に送っていった俺たちはそのまま帰るつもりだったが、
「ご飯用意してあるわよ。
どうせ今から帰ったって途中でなんか食べに行くだけなんでしょ」
と姉貴から引き留められた。確かにそれはそうなんだが、お姫さんが一刻も早く生地をカットしたいらしいから、コンビニで弁当買って家に直行コースのつもりだったけどな。ま、ちゃんとした飯にありつけるのは俺的にはありがたいので、遠慮せずに受ける。
「ミシン? 教えても良いけどさ……コレ、すごい生地じゃないよ。失敗したらシャレんなんない」
俺らに飯を食わせながら今日のお姫さんの戦利品を見た姉貴の顔が『これをミシン初心者に縫わせるって?』と引き攣っている。
「ダメダメ、私じゃ荷が重いわ」
と姉貴は頭を抱えた後、
「そうだ、特別講師を呼んだげる。この際だから、地球のやり方、一から覚えた方がいいわ」
どうせミシンはウチにくるんだしさと、姉貴は一人勝手に助っ人の召集を決めやがる。
「ちょ! マズいぜ、それ。
それに、引っ越しの準備でなんやかんや忙しいから。無駄な時間はねぇんだよ」
縫うのはともかく、裁断はネマーサがやると聞いている。一応刀だから切れるっちゃ切れるんだろうが、どハサミじゃないネマーサがやってるのを俺ら以外に見せられるかってんだよ。
「あら、ナオはそんなこと気にする奴じゃないわよ。
それに、あんな部屋引っ越しの準備はあんただけで十分でしょ。コーデちゃんだけ送ってきて、あんたは帰って作業すればいいのよ。その方がロスタイムもなくて、効率的だわ」
けど、姉貴は俺の言うことなんか歯牙にもかけずにそう言い放って、
「だから生地はここに置いておくと良いわ。私が霧吹いて陰干ししといて上げる」
と、お姫さんの方を向いて生地をとんとんとたたきながらそう言う。
「モッテカエル ダメか?」
すると、お姫さんはがっかりした様子で姉貴にそう返した。
「コーデちゃんの腕を疑ってる訳じゃないの。
地直しの方法位分かってるだろうけど、ここに持ってくる道中でまたシワ作っちゃうだけだからさ。
同じ作るなら良いもの、作らないとね」
と諭す姉貴にお姫さんは渋々同意して、その日は戦利品を持たずに帰宅した。
ミシンは頼んだ翌々日に届いたと姉貴から電話があった。
そして、レクチャー当日、講師としてやってきたナオという奴を見て、俺はひっくり返りそうになった。 奴は、俺(172cm)より高い背にゴスロリファッションを身に纏った……男だったからだ。




