困ったときのネマーサ頼み
姉貴んちに入った俺は、お姫さんがラテ星から麗子と入れ替わってきた異世界人だと掻い摘んで説明したが、当然誰も信じてくれなかった。
ならばとお姫さんのリュックからネマーサを取り出した。ネマーサは開口一番、
『ああ、死ぬかと思うた』
とぶーたれた。
「無生物の刀が死ぬかってんだ」
と返した俺に、
『それは言葉の綾ではないか』
ネマーサはしれっとそう答える。
これで、みんな解ってくれるかと思いきや、そこにとんだ伏兵が待っていた。姉貴の旦那の孝治さんにネマーサの声が聞こえないのは想定内だったが、まさかお袋にも聞こえないとは。
『内儀は名は野間だが、血は入っておらんからの』
仕方なかろうとネマーサ。
確かに、俺と姉貴とは血はつながってんだけど、親父とは紙切れだけだからな。
それでも、俺たちとネマーサのやりとり(姉貴がその大半だが)を聞いて異世界入れ替えトリップが本当だと解った途端、お袋は自分のせいだと泣き出した。
「私があの刀を売ろうなんて言わなきゃ……」
それを、なだめてすかしてようやく落ち着いたのはもう日も暮れようという頃。
「麗子は確かに生きているのよね」
と念を押すお袋に、
「もちろんさ」
と答えた俺の顔がこころもち引き攣っていたのはいうまでもない。うん、あいつなら少々距離があろうがどっかの町にたどり着いてる……たぶん。
『ときに、圭介よ。姫様を助けてもろうた礼がまだじゃったな。何が良い、申してみよ』
そして、ネマーサは帰りの車の中で突然、そんなことを言い出した。けど、
『とは言え、無から有を生むことは妾にもできぬが』
と言うので、
「じゃぁ、これが一枚あれば、増やせる?」
と一万円札を財布から取り出してみる。
『これは何じゃ?』
「うん? これは一万円札、日本の金だ」
『これをこのまま増やせとな。無から有は生めんと言うたであろうが』
じゃぁ何ができんだよ、結局今までこの日本でやったことって、青龍組と俺を吹っ飛ばしただけじゃんよ。……あ、
「あのさ、宝くじ当てるとか出来っか?」
と聞いてみる。アレって機械のアーチェリーで当選番号撃つんだよな。それなら吹き飛ばしで、好みの番号にいくかも。
『カラクジとな』
「空くじじゃねぇよ。宝くじ」
【た】抜いてんじゃねぇよ。最初からハズレててどうする。少額のお金をかけて、任意の数字を登録しすべて当たった者で山分けする一種の博打だと説明する。
『その抽選とやらをしている場所が分かるか?』
「ピンポイントでその部屋とか言われたらお手上げだが、抽選してるビルぐらいならたぶん分かると思うぜ」
公正を期すために、抽選しているビル位はググったら出てくるはず。すると、
『ならば問題ない。さっそくそのカラクジとやらを買うて参れ』
ネマーサはそう言って俺に命令する。俺は帰り道のスーパーの駐車場に車を止めると、軒先にある宝くじ売場へ。
けど、ホントに大丈夫かな。ま、一枚か二枚なら当たんなくても懐はそんなに痛まないし。10万ぐらい当たってくれりゃ、お姫さんの服代くらいは取り戻せる。俺はそれくらいの気持ちで、【ただいまキャリーオーバー中】と書かれた数字当ての宝くじを二枚買って帰り、ググって宝くじを仕切っている銀行の本店の位置をネマーサに教えたのだが……
翌々日、俺は昼休み職場近くの宝くじ売場で、確認してくれた売り場のおばさんと一緒にフリーズした。信用してなかったけど、あの化け刀は本当に一等を当てやがったのだ。しかも、キャリーオーバー中のそれは、2枚でなんと、578,209,260円! 約6億だよ!! 6億。
俺がその後、適当に仮病を作ってくじを扱っている銀行の支店に駆け込んだのは言うまでもない。




