話し合い
そして、俺は今後のことを話し合うために姉貴の家に行こうとしている。勿論、お姫さんもネマーサも一緒だ。とてもじゃないが、こいつらだけで留守番なんかさせられないと思ったからだ。
お姫さんの体調はハゲおやじが処方した薬と必殺栄養ドリンク&イオン飲料であっという間に回復、逆に俺が眠気でヘロヘロになって帰ってきた夕方にはケロっとしていた。ま、ハゲおやじがヤブじゃなかったのもそうなんだろうが、抗生物質なんて今まで飲んだこともなかったろうから、効きがすこぶる良かったってのもあるだろう。
それなら何で置いていけないかというと、コーヒー星には電気もガスもないらしい。お姫さんは、スイッチ一つで風呂を沸かした俺に、
「あなたは魔法使いですか!?」
と真顔で聞いてきたし、ガスコンロが火を噴いたとネマーサと一緒に大騒ぎ。テレビに挨拶して頭下げたのは笑えたけどな。んな訳で下手に置いていってガスや水道使って何か騒ぎを起こされても困るし。
ま、お姫さんが幽閉されていた森には、水道すらなかったっていうから、ボタン一つで風呂が沸く日本の生活は魔法としか思えないのかもしんないが。いちいち雄叫られると地味にウザい。
ただ、お姫さんの面が青龍組に割れていることがちょっと心配だったが、それもこっちの服を着せたらそんなものは見事にすっ飛んでしまった。馬子にも衣装とはよく言ったもんで、どこからどう見ても渋谷のJK。今時ガングロなんていねぇけど、そこそこ日焼けしてカラコンってのは、ゴロゴロいるからな。
で、ネマーサは丈夫なリュックサックに入れてお姫さんに背負わせた。ネマーサと密着している方が彼女自身安心だろうし、それ以前に密着してないとお姫さんと言葉が通じない。コレ相当重要。俺が背負ってもいいけど、それだと俺が通訳することになるからな。
そんで、トートバッグだと、覗いたら見えるし(実際、あのハゲおやじには見られた)、それでなくてもネマーサは結構重い。手で持つより肩で担いだ方が絶対楽だ。ただ、ネマーサは、ぶっ込むとき『苦しい、暗い、何をする』を連発してたが、俺はスルーした。暗いのはともかく、苦しい訳あるか。お前刀だろーが。
だが、姉貴の家に着いた途端、俺はお姫さんを紹介する間もなく姉貴に耳を引っ張られて、外に引っ張り出された。
「い、いてぇよ、姉貴!」
「ウチがめちゃくちゃ大変なときに、何のんきにカノジョ連れて来てんのよ! しかもあの子いくつ?」
これ以上問題増やさないでよねと、姉貴は俺の耳を引っ張ったまま、そう言った。
「待てよ、そんなんじゃねぇってば。それは中でちゃんと説明すっから」
それを、かろうじて振り切ると、俺は痛む耳を撫でながらそう返した。
疚しいことなんかなんにもない。ないけど、ただ、それを信じてくれるかが問題っちゃそうなんだよな。ま、いざとなれば、その名もズバリの『伝家の宝刀』を抜いて説明すりゃぁ良い。姉貴の旦那以外は全員野間家なんだからな、みんなネマーサの声が聞こえるはずだから。




