えっ、コレないの?
その後、お袋からも姉貴と同様の電話をもらい、大体同じような受け答えをする。
そして、夜も更けた頃、やっとお姫さんが目覚めた。
「%#▽※↓↑∽♭〒☆?」
予想通り、何も持ってないお姫さんの言葉はまったく分からない。にしても、めちゃくちゃ難しくない? この発音。ベタな日本語の発音の3倍くらい舌が動いてる気がするぞ。麗子、大丈夫かな。そう思いながらネマーサをお姫さんに手渡そうと持つと、
『心配するでない。麗子にはあやつが付いておる。あやつが妾と同じように、ムオスカル語の橋渡しをしておろう』
ネマーサが俺の心配をよそに暢気にそう言う。でも、この訳の分かんない言葉、ムオスカル語っていうのか。
『ムオスカル語とはな、ラテの南、アルスタットやベギアナ、マークレシアなどで話されておる言葉じゃ』
すると、ネマーサはムオスカル語に関心を示したと勘違いしたのか、ムダな蘊蓄を滔々と述べる。異世界の地理なんて解ったってしゃーねーじゃん。俺は
『しゃーねーとは、何ぞ』
しつこくぶつぶつ言ってるネマーサをお姫さんに返して、(ま、それでネマーサの声が聞こえなくなる訳じゃないのがつらいが)
「ちったぁ気分が良くなったか?」
と聞いた。
「あ、ありがとうございます。少しふらふらしますが、大丈夫です」
そう言ったお姫さんの顔は元々褐色なので判りにくいが、ぶっ倒れたときよりはさすがによくなっているみたいだ。
「とにかく、腹に何か入れた方が良いな」
ハゲおやじも慢性的な栄養不足だって言ってたしなと、俺はガサゴソとスーパーの袋からレンジ飯を取り出し、レンジにぶっ込む。とは言え、俺が常備してる物といえば、カレーやラーメンとか、お世辞にも身体の弱っている奴に優しい食材じゃない物ばかり。あ、冷蔵庫に海苔の佃煮はあったっけ。もう夜も遅いし、とりあえずそれとインスタント味噌汁で決まりだな。俺は、一分で沸くとCMやってる(実際はもう少しかかってる気がするんだが、それは模造品だからか)ポットに水を入れてスイッチオン。それからレンジが鳴ったので、飯を取り出すついでに冷蔵庫から海苔の佃煮を取り出す。ま、ちゃんと茶碗に移した方が食欲をそそるのかもしんないけど、洗うの面倒だしこのまま食べてもらうか。じゃぁ、味噌汁も紙コップでっと。
俺は、紙コップに乾燥具材と味噌を袋から絞り出すと、そのころになってやっと沸き上がったポット(飯が2分なんだから、絶対に1分以上かかってるぞ、やっぱり)のお湯を注いで割り箸でかき混ぜた。だが、
「ホイ、食えよ」
と言っても、お姫さんはテーブルの上の食べ物を見たまま固まってる。
「早く食わねぇと冷めちまうぜ」
と俺が急かしても、
「あ、はい……」
とは言うが手は動かない。もしかして、毒味を待ってるとか。前の世界では姫だったわけだし。なので、
「別に毒は入ってないけど?」
と俺が言うと、
「あ、いえ、決してそのようなつもりではないのです。ただ……」
お姫さんは俺が怒っていると思ったのか、慌てて毒味を否定する。そして、
「ただ?」
「これは、なんと言う食べ物なのでしょうか」
真顔でお姫さんが指さしたのは、なんとレンジ飯だった。
えっ、コーヒー星って米食う習慣がないの?




