麗子が消えた訳
ハゲおやじ(一応恩人なんだし、ホントは倉田先生と呼ばなきゃならないのかもしれないが、どうもそういう気になれない)に送ってもらって、思わずお姫さんの着替えをゲットして帰ってきた俺は、お姫さんをとりあえずだぼだぼの俺のスウェットを着せたまま俺のベッドに寝かせた。着替えさせるのは汗かいてからで良い。それにその方が起きて自分で着替えてくれそうだからな。
さてと、一段落したし飯でも食うかなと、チンするご飯をスーパーの袋から取り出す。ふとローテーブルを見ると、帰ったときに置きっぱにしたケータイが光っている。見ると、マナーモードにしてあったそれには、20を超える着信履歴があった。ほとんどは実家で、後何本かは姉貴のケータイから。ご飯をレンジにぶっ込みながらマナーモードを解除すると、待ってましたと言うように着信音が鳴り響いた。この音は姉貴の方か。
「もしもし……なんだよ、姉貴」
「ああ、やっとつながったわ。ねえ圭介、麗子知らない?」
「知んないよ」
知ってると言えば知ってるんだが、その居場所が異世界じゃぁな。言っても、姉貴が信じる訳ゃないからな。
「朝からいなくて、この時間になっても全然連絡ないし、学校にも行ってないらしいわ。携帯の電源の電源も切ってあるし、それに……」
「それに……何だよ」
「あの化け刀が一緒に消えてるの」
姉貴は声のトーンを落としてそう言った。姉貴は麗子とは違って、菊宗正が嫌いだ。『化け刀』と呼び、ガキの頃から決して近づかなかった。
「菊宗正が?」
麗子が菊宗正を持って出ていたのを勿論俺は知ってたけど、知らないフリで驚いてやる。
「あのさぁ、あの化け刀、お父さんがネットでオークションに出したらしいのよね。そしたらあっと言う間に二億の値が付いたらしくて……」
「親父、売ったのか?」
「さすがに分刻みでどんどん上がっていくから、怖くなってそこでエントリー取り消したらしいんだけど、その後どこから調べたのか、売ってくれってガンガン電話がかかってくるようになったらしくて。
あんましかかってくるから、お母さんがプチノイローゼになっちゃったんだよね。で、本格的に病気になっちゃう前に売ろうって事になったったんだ」
まぁな、国のデータを盗む奴がいる位だから、個人のIDに入り込むなんてその手の奴からすれば、何でもないことなのかも知れない。
「で、それを麗子が反対してたって訳か」
「うん、麗子はじいちゃんっ子だったからさぁ、『菊宗正を売ったらウチに災いが降りかかる』って本気で信じてるんだよね。けどさ、このまま行ったら災いが降りかかる前に、お母さんがおかしくなっちゃうじゃん。そう言っても、あの子聞かなくてさ」
「で、持って家出って訳か」
姉貴の説明に、俺はそう言って深くため息をついた。
ま、お袋に病気になられんのも困るが、その結果麗子を異世界に飛ばすことになった。結局、親父が菊宗正をネットに載っけた時点でNGだったってことだ。
「こういう時に麗子が頼るのって、私じゃなくて圭介じゃん。それで電話してるのに、あんたも出ないし」
確かに、菊宗正を持って出るなら頼るのは姉貴と俺のとこしかない。しかし、姉貴には孝治さんと夏菜がいるから、そういう時当然身軽な俺の方を頼るだろうし。実際問題、お姫さんを発見したのはウチの近所。ウチに向かっていたので決定だ。
「とにかく学校の友達のとことかにもいないんなら、警察に届け出して待つしかねぇじゃん。
俺んとこに来たら、すぐに連絡入れっからさ」
絶対に見つかりっこない、内心そう思いながら、俺はそう言って姉貴との通話を終わり、俺はメールを確認する。やっぱり麗子からはメールが着ていた。送信時間は朝の9時半。
『相談したいことがあるから、そっちに行くね』
とあった。バカ野郎、メールするなら俺が仕事始める前に打てよ。そしたらもしかしたら……
俺はやり場のない思いを拳に込めてローテーブルにぶつける
俺がレンジで温めた飯は、もうすっかり湯気を失っていた。




