行きはよいよい、帰りは怖い?
「お前さん、歩いてきたのか」
点滴を打ってもらって、規定通り? 3割の支払いをして帰ろうとした俺に、倉田医師はそう言った。
「車、持っとらんのか」
と続けるハゲおやじ(どー見ても、医者には見えないんだよな、このおっさん)に、
「持ってますよ。だけど、ここ車停めるとこないでしょ」
と反論する。門前払いを食らったらヤバいなと思いつつ、点滴とかしてもらえるようなら時間食うし、駐禁貼られるのも癪だと、二つを天秤にかけての歩きだ。
「ま、良い選択だったな。もし、お前さんが車で乗り付けておったら、儂はそのまま追い返していたろうからの」
すると、ハゲおやじはそう言って高笑いする。
「何でですか、病人には変わりはないでしょ」
「医者なら、この町にも他に何人もおる。さっさとそいつらのとこに行けばいい」
何だ、その論理は。ま、おかげで実費で出さなくて済んだ訳だけどさ。そして、再度お姫さんを抱えた俺に、
「ちょっと待っとれ、送ってやる」
と、言うハゲおやじ。
「えっ?」
「心配するな、まだ酒は飲んどらん」
「良いんですか?」
「この娘も細っこいとは言え、大人だ。若いお前さんでも、往復となれば明日は筋肉痛になるぞ。
それになにやら訳ありそうじゃからな」
「な、何でそう思うんですか」
ハゲおやじに訳ありと言われて、思わず俺の声が裏がえる。診察して、地球人じゃない事がバレた? そしたらハゲおやじが、
「お前さんが一緒に抱えてきた袋に物騒な物が見え隠れしとるからの」
そう言って、俺のエコバッグから、ネマーサを取り出したので、一安心する。しかし、『物』になって取り出されているネマーサ。俺の時は電撃食らわたクセに、なんでハゲおやじにはノーマークなんだよ。んで、
(あれっ、無礼者とか言って弾かない訳?)と(勿論心の中で)言ってやったら、
『姫様の命の恩人に手荒な真似などできぬ』
と返してきたので、
(俺も、命の恩人だと思うけど?)
と言うと、
『あのときはお前が妾の言葉を解すると思わんかったし、何より悪党共より這々の体で逃げてきたのだぞ、疑心暗鬼になっていて何が悪い』
と、少し焦って逆ギレしやがった。ま、ちょっとスッキリしたので、その辺にしといてやったが。
「ほう、見事な宝剣じゃな。柄の仕事も丁寧じゃ」
一方、ハゲおやじの方はネマーサに目を瞠っている。確かに、何の変哲もない菊宗正と比べても、限りなく豪華だ。
「最初見たときは、働かされてる店から逃げ出してきたのかと思ったが、この刀をみる限り、どっかの国から亡命してきて追われとるとかそういうところじゃろう。折角助けてやろうと思った命を帰りにどうかされるのは儂の性に合わん」
んで、ハゲおやじはそう続けた。にしても、お姫さんは異世界人だから追っ手なんか来ないと言い掛けて、俺はふとネマーサの言葉を思い出した。そう言えば、こいつら麗子の代わりに菊宗正を狙った奴らを振りきってきたんだっけ。それに、今そのまま家に帰っても、お姫さんの着替えとか皆無だし。点滴で熱が下がったとしても、汗かいたまま放っといたら、また熱が出ちまう。
「それじゃぁ、途中でカトウナノカドーに寄ってもらえますか。彼女に着替えとか買いたいけど、家に一人で置いとけないし」
俺がそう言うと、
「おう、分かった。じゃが高いぞ」
とハゲおやじは返した。えっ、それって金とるんかいっと俺は一瞬引いたが、行きはたまたまそいつらに会わなかっただけで、帰りにはどうかわからない。ここはひとまず好意に甘えようと思った。
で、実際ハゲおやじはガソリン代すら取らずに俺たちをマンションに送ってくれた。
俺も大概だが、ハゲおやじも相当のお人好しのようだ。




