じゃかぁしい!!
とりあえず家に戻った俺は、お姫さんに今着ている物の上から俺の冬物のトレーナーを着せた。そうしたって、この小柄なお姫さんに俺のトレーナーはデカかったし、それよりもまず、男の俺がお姫さんの着替えをさせることをネマーサが許さないだろう。それに、要は身体を冷やさないことが先決だ。なら、服の上から服を着せる方が合理的と言えないか。
しかし、医者に診せようと思ったとき、俺は重要な事に気づいた。
「こいつ、当然だけど保険証持ってないんだよな……」
たぶん風邪だと思うから、薬局で薬を買っても良いが、抱いたときに感じた体温がハンパないし、意識ない状態だ。薬買っても上手く飲んでくれないかも知れないし、こんだけの症状ならとっとと医者で点滴打ってもらう方が安心だ。しかし、保険証がないんじゃなぁ……しゃーねぇ、実費で出してやるか。けど、一回で済むかな。それよか、入院てなことになるのも困る。取り敢えず病院は無理だ、町医者探さねぇと。
(そう言ゃ、商店街の横に一軒あったな)今や商店街っていうのもおこがましい位のシャッター商店街だが。その商店街の入り口の左側に確か、『倉田医院』という看板があったはずだ。ただ、その看板もかなり古かったから、まだその医者が生きてるかどうか微妙だけど、この際贅沢は言ってらんねぇ。案の定、
『本当にそのような医者で大丈夫なのか』
ネマーサが訝しげにそう聞いてくる。
「一応、看板掲げてんだ、大丈夫だろ」
『無責任な』
「それよか、医者に言ったら頼むから黙っててくれよな」
『何故じゃ、妾の声はお前以外には聞こえぬぞ』
たぶんじゃが、と小さく付け加えるネマーサに、
「医者に聞こえなくても、俺には聞こえんだろ。そんな風に横から色々言われても反論できねぇと、俺のストレスがたまるってぇの!」
俺はそう言いながら、ネマーサをタブレット端末買ったオマケでもらったエコバッグにぶっ込む。
『おのれ、何をする!』
バッグにぶっ込んでもうるさいネマーサに、
「あんなぁ、あんたらのコーヒー星とは違って、この日本じゃあんたみたいなのを持ってるだけで銃刀法違反で捕まんの。ガタガタ言ってると、さっきのネギ入れてたスーパーの袋にぶっ込むぞ!」
と言ってやったら、さすがに黙りやがった。とは言え、ネマーサを担いでいかないという選択肢はない。治療中にお姫さんが起きて、言葉が通じずパニック起こされても困るからな。
同じ地球の中でも国が違えば言葉が通じないのだ。ましてや、コーヒー星の宇宙人が日本語をしゃべってるなんてマジ思えねぇ。なのにそれが解るのは、絶対に『この刀』の力に決まってる。
俺は、エコバッグを腕にぶら下げると、再びお姫さんを抱っこして医者に向かった。




