麗子の行方
目の前にいるお姫さんが、麗子と入れ替わったと聞いて暴れる俺に、
『何を言うか、妾が互いに窮地に立たされていたと言うたのを忘れたか。あのとき、麗子とやらはあやつを抱えて不埒な男共に囲まれておったのだぞ。あのまま行けば早晩あやつを盗られ殺されておったわ』
入れ替わった妾たちも命からがら逃げてきたのだぞ、と振り回されながら叫ぶネマーサ。
『その点、こちらは姫様があの男のために自ら命を絶とうとされておっただけだからの、場所が人里離れているというだけで、命の危険など微塵もないわ』
と続ける。とにかく、襲われる心配はないんだなと安心する。けど、
「人里離れてるってどれくらい……」
と念のために聞いてみたら、
『そうさな、上手く街道筋に出て、半日も歩けば一番近い村にたどり着くかの』
って答えが返ってきて俺は唖然とした。
「は、半日! それよりそこ、道もないのかよ」
『何もない野原じゃが?』
「は?」
何にもない野っ原に一人っきり? 真っ昼間ならともかく、命の危険バリバリあるじゃんかよ!
『心配するでない。妾たちが入れ替わったのは、まだ陽が真上に上る前じゃ。すぐに行動を開始していれば、陽がくれるまでには着ける』
すると、ネマーサがそう返した。げっ、そう言えばこいつ、心がよめるんだっけ。と思うと、
『案ずるな、妾が解するのは表層心理だけじゃ』
間髪入れず、そう返ってくる。いや、そういう問題じゃないと思うけど。しかし、
「ま、危ないとこを助けてくれたんなら、それは礼を言うわ。けどよ、事態がおさまったんならもう元に戻ってもいいんだろ。ちゃっちゃと菊宗正と連絡取って、また入れ替えろや」
どこの国から来たか知んねーけどと言った俺に、ネマーサは、
『それはできぬ』
と即答した。
「なんでだよ、来れたものが帰れねぇわけねーだろ」
と言う俺に、
『あの時は、たまたま触だったのじゃ。もう今は離れてしもうたからできぬ』
というネマーサ。あれ、今日は日蝕だっけかと思いつつ、次の日蝕をググればいいかと思った俺に、ネマーサは、
『たわけが、触というてもそれは、この星とラテとの触じゃ』
と返す。ん? ってことは、こいつらがいたのって、地球のどこかじゃねぇ訳? にしても、ラテって何だよ、コーヒーの星か。
「ちなみに、そのコーヒー星と地球は次はいつ重なんだ」
『コーヒー星とは何ぞ。まぁよい。
次の触とな、それなりに接近することはあるが、このようにかっちりと重なるのは、200年後じゃな』
「に、200年後!」
200年後って、何だそりゃ。全く戻れないって事じゃんかよ。
「決めた、てめぇぶっ壊す!」
このムダに光ってる信号機みたいな宝石取り外して鋳つぶしてやる。そうでもしなきゃ……俺のかわいい麗子~(泣)
しかし、その時俺は、さっきから騒いでんのは俺とネマーサだけだって事に気づいた。お姫さんはと見ると、さっきの壁にもたれたまま眠っている……自殺志願者の割には良い度胸じゃねぇかと思いつつ、むき出しの腕を触ってみると、めちゃくちゃ熱い。こりゃ寝てるんじゃなくて、高熱で意識を失くしてる? ヤバいじゃん、このままじゃ自殺しなくてもこのお姫さん死んじまうじゃんか。折角麗子が助けた命だ。不本意だけど、それでもさっさと死なれてたまるかってんだよ。
「おい、ぶっ壊すのは後だ。とにかくお前のお姫さんを運ぶぞ」
俺はそう言うと、ビックリするくらい軽いお姫さんを抱えて、マンションに向かって歩き出した。




