ゴミ箱横で蠢く物は?
その日、久しぶりに早く帰れた俺は、駅前のスーパーで食材を買い込み(とは言え、その中身は見切り品の総菜とかレトルトだとかしかないが)自分のマンションに向かって歩いていた。そう言えば、最近実家に帰ってないよなぁと思う。そして、袋の中身をちらっと見ながら、
「あー、麗子の唐揚げ食いてぇ~」
と独りごちる。こんなの、麗子のと比べたら、唐揚げの皮を被ったスケルトンだよ。けど、今日は他にあんまし目欲しいものがなかったんだからしゃーない。半額に免じて食ってやる。あ、因みに麗子ってのは、5歳年下の俺のかわいい妹の名前ね。
その時、通りの店のゴミ箱の隅で何かが動いた。猫?……にしては大きいような気がする。イタチ? たまに、町中でもスーパーに住み着いたりするらしいからな。
「は?」
だけど、そこにいたのは、猫でもイタチでもなく、褐色の肌、茶色の巻き毛をした女の子だった。その子は小刻みに歯を鳴らしながら震えていた。そりゃそうだろう、そろそろ秋も深まるってのに、袖無しのドレスじゃ寒くないわけがない。何かのパーティーの帰りで迷子にでもなったか? 見るからに外人っぽそうだしな。この辺の地理に疎いんだろう。
「大丈夫か?」
と俺が尋ねると、女の子の瞳が恐怖で更に震えた。もしかしたら、外国の娘をこき使うやばい店から逃げてきたとか? 関わらない方が良いのかも知れないとは思ったが、このまま放置したら、明日には確実名前が変わってるだろう。それも寝覚めが悪いし、麗子のことを考えてたからだろうか、同じ位の彼女を放って置けない、そんな気になっていた。俺は、
「そんなカッコでこんなとこに座ってたら風邪引くぞ」
といいつつ、彼女を立ち上がらせようと手を差し伸べた。だが、彼女は更に壁に張り付く。
「ああ、怖がんなくても、何もしないから」
と言っても、彼女は微動だにしない。言葉が通じないのかもなと思いつつ彼女の腕を掴もうとしたとき、
『妾の姫様に何をする!』
というオバサンの声が聞こえて、俺の体はバチンという音と共に弾き飛ばされた。
「痛ってぇ!」
静電気か? いや、体が吹っ飛ぶ静電気なんてあるか。そう思って再度彼女を見ると、彼女は後生大事に何かを抱えている。もしかしたらこいつも……俺は、ズボンに付いた砂をはらいながら、
「オバサンは黙ってな。本気でこんな薄着でここにいさせる気か? そしたらあんたの大事なお姫さんは明日の朝までに確実あの世行きだぜ。それでもいいのか?」
と言って再び彼女の持っている『オバサン』の声の主をひっつかむ。
『おのれ、オバサンとは何ぞ! ……はっ、お前、妾の声が聞こえるのか? 離せ、離せと言うに解らぬか』
俺が話しかけると、案の定、『オバサン』はパニクって攻撃を忘れてわめき散らしている。
「ああ、俺んちにも似たのがいたからな」
それに対して、俺はそう言って笑った。




