美味しいは正義だ!
「ただいま、母さん」
オーレンが2ヶ月ぶりにヘイメに戻ってきた。
「お帰り、オーレン。けどあんた今日帰ってくる予定だった?」
今年、18歳のオーレンは、ガキんちょの頃の夢を貫いて基礎学舎に通いながらオッティーさんに師事し、再三のジェイ陛下の要請にあたしが根負けしてケイレスにバイキングレモアを作る時にだけいたときもヘイメに残って料理人へまっしぐら。
おかげで、成人した途端、伝統料理も異世界料理もこなせると、バイキングレモアを我が町にもと思っている所からひっぱりだこ。なのでオーレンは、佐々木小次郎ばりに菊宗正を担いで各地を飛び回っている。 最初はちょっと貸してるだけだったのに、どんどんと依頼が来るから、今はもうすっかり取られちゃったって感じ。
オーレンは当然野間の血を引いてるから、あたし同様菊宗正の声が聞こえる。もちろんマリエルにもちゃんと聞こえてるらしいけど、日本語なので何を言ってるのか解らないって。
そこ行くとオーレンは、3歳の時から菊宗正に子守させてたって感じだし、あたしもオッティーさんたちの前では平気で菊宗正と会話してたりしたし、自然と日本語とムオスカル語のバイリンガルになっていた。恐るべし幼児教育の効果。
で、そうなると問題になるのが伯爵位。オーレンは頑として伯爵なんかならないって言い張るし、どうしようかなと思ってたら、ケイレスに残っているマリエルが継ぐって言い出した。大体、マリエルは志願して女性王族の警護にあたるような娘なのよね。結局エルドさんちのマチス君を婿養子にして、レクサント家を継承する事になった。マチス君ってチビの頃からマリエルの子分だからね、きっと逆らえなかったに違いない。でも、バーンズ家の長男をウチに引っ張って良いのかなぁ……エルドさんは、
「構いません、ウチにはまだ男の子がいますから」
って軽く言うけど、なんだかなぁ。
「セタールの人たちって、物覚えがよくってさ、予定より早く終わったんだ。
そんではい、おみやげ」
オーレンはそう言うと、美安家亭の調理台にどんっと袋を一つ置いた。
「何?」
「セタ豆。セタールの一部の地域だけで作られてるんだけど、菊宗正がこれ、小豆だって言うから」
母さん、小豆ないかなぁって前から言ってたろと、オーレン。
「あ、小豆!」
小豆と聞いてあわてて開けた袋の中にはあたしが夢にまで見た小豆がぎっしり詰まっていた。
「あんパン、饅頭、いやここは善哉で……いやん、こんなんじゃ足んない」
それを見たあたしの頭の中が一気にあんこ色に染まる。
「ぷぷっ、そう言うと思って、別に一樽送ってもらうようにしてあるよ。セタールの人たちも、美安家亭で使ってもらえるんだったら作付面積増やしても良いって」
「ホント!」
さすが我が息子、解ってんじゃん。
「けど、セタ豆の甘煮なんてホントにウケんのかな」
でも、その割に首を傾げてそう言うオーレン。
「ウケるわよ。あんこはすべての女の夢なんだからね! それに美味しさは正義だよ」
そう力説するあたしに、オーレンはあきれた様子で首をすくめた。ふんっだ、あんこ嫌いのあんたに解ってもらわなくても良いよーだ。こういうとこだけオービルに似なくても良いのにな。
実際、この後すぐ、ヘイメのパン屋さんであんパンが一番人気の商品になったもんね~
-Taverna la Bianca End-




