エピローグ
そして、美安家亭は連日大盛況。
実は、開店前日の仕込みの時にあまりにもたくさんの食材が飛んできたもんで、
「ホントにこんなに作って大丈夫なの?」
と思わず言ったら、
「我の力を信じぬか」
と菊宗正がしばらく拗ねモードになるほど。オッティーさんたちもあたしからは聞いていたけど、実際に食材がすっ飛んでくる様を見て、腰抜かしそうになっていた。ミラさんには、
「おまいさん、いつか食べもんに殺されるんじゃないかい」
と、マジな顔でそう言われたもんね。ホントは見てないところでやりたかったんだけどね、なんてったって共同経営者だしさぁ、『鶴の恩返し』よろしくいつまでも密室でって訳にはいかないっしょ。
オーレンはあれから連日行われた『試作品会』で、すっかりオッティーさんに餌付け(げふんげふん)されて、
「おっじー、おっじー」
と、本物のおじいちゃんも真っ青な位の懐きよう。
そして、開店後はなんとオービルよろしく菊宗正を抱えて料金箱の横に陣取り、まさかの会計担当。幼気な子供にまっすぐ見つめられて、タダ飯食えるほど強心臓な奴はこのヘイメにはまずいないという、即戦力だったんだな、これが。ただ、そのまずいないふとどき者も、ガドさんはじめ海猫亭の常連だった人たちが睨みを利かせてくれて、タダ飯どころか、お釣りのトラブルもない。というか、あったのは最初の2日くらい。金貨なんぞ持ってこようもんなら、その常連さんたちに、
「おいこら、そんなデカい金持ってこの店にくんな」
とネチネチ言われながら食べることになるので、あっという間に『美安家亭はお釣りが要らないように行け』というのが口コミで広がったからだ。
そんな面倒臭い店なのに、客足は一向に減らなかった。そして、思った以上にアルスタットの伝統食の売れ行きがよかった。特に煮物なんかは、家庭ではいろんな食材を少しずつ入れて作ってもすごい量になっちゃって、何度も同じものを食べなきゃならなくなるけど、ここなら要る分だけ取れば良いんだもんね。
で、日本食の売れ筋は、手巻きオムスビ(フィエット)。手巻き寿司じゃないのは、こっちの人は酢飯がどうも苦手らしいから。
一方、焼き海苔は潮の香りがすると大好評。今や、この町の漁師の奥さんたちの内職ランキング第1位だ。10年あまり前、レクサント家の庭だけだった光景は今、海沿いのあちこちで見られるようになった。
因みに、オムスビ(フィエット)の具の人気ランキングは3位海老2位海鮭そして、ダントツの第一位は、なんとマヨたま。卵サンドに入っているアレよ。
実は、近所のパン屋さんに協力してもらって、伝統パンと精白小麦のパンを両方おいてみたんだけど、パンにはさむのはもちろん、ご飯に乗っける人が続出したのだ。実際食べてみて、あたしもなんでコンビニオムスビのラインナップになかったのか不思議に思った位だ。
ご飯も、白米と、玄米は時間がかかるので、風味を残しつつ時間のかからない3分づきの2種類を用意している。おかずも、30種類あまりあるラインナップから、15~18種類を日替わりで出しているから、みんなに飽きずに来てもらえているのだろう。
そんなこんなで、あっという間に3年が経ってしまった。最近また、ジェイ陛下がうるさい。
『ねぇ、もう充分里帰りは堪能したでしょ。バイキングレモアがしたいのなら、こっちでも用意するから、とにかくケイレスに帰っておいでよ』
と、入れ替わり立ち替わり近衛さんを送ってくる。この前なんか、今騎士団(王族も2年間だけ入るのだ。ジェイ陛下もそのときにナタリアさんと知り合った)にいるからって、クレメリオ君が来たもんね。王子様をパシリに使うってどうよ。あ、依頼してるのが王様だから良いのか。
『来年からオーレンも基礎学舎だよ。その意味でもケイレスに帰らなきゃ』
とジェイ陛下の伝言は続く。伯爵として立つならやっぱケイレスの基礎学舎に入って、そこから騎士団っていうのが一応コースなんだろうけど……
「ボクは、おっじーみたいなご飯作る人になるんだもん。ケイレスなんか行かない!!」
って、当の本人が頑としてヘイメに残ると言い切るし。あたしも、生まれてはないけど、ヘイメは第二の故郷、町の人もみんな良くしてくれるし、正直帰りたくないんだよね。
だから、近衛さんたちにはもれなく涙目でケイレスに帰ってもらうことになる。
……オービル、あんたなら笑って良いって言ってくれるよね。
さて、ほいじゃお店を開けようかな。今日も頑張るぞ~!!
-いらっしゃいませ、ようこそ美安家亭へ!-




