お詫びのディナー
「す、済まん……短髪でズボンを穿いていたからてっきり近くの村の小僧が、こっそり家宝を持ち出して家出してきたんだと思ったんだ」
オービルはあたしが女だと分かった途端、そう言って何度も謝った。そして改めてお詫びにと、この町で一番と言われているレストランに連れて行ってくれた。
「では、改めて自己紹介する。オービル・レクサントだ。騎士団に所属している」
「あたしは野間麗子。料理の専門……いや、料理の勉強をしてる」
あたしは専門学校と言い掛けてやめた。周りの状況をみても、ここの文化水準は近代? 悪くすれば中世レベルだ。たぶん、料理学校なんてものは存在しないだろう。
「そうか、それでノーマは修行の旅に出たのか?」
親には言ってきたのかと、女だと解っても何気に子供扱い。それに、あたしはノーマじゃなくて、野間。ついでに言わせてもらえば、野間は名字。名前は麗子なんだけどな。けど、今一番伝えなきゃなんないのはそこじゃないしね。とりあえず、
「いや、空間切ったら来ちゃったって言うか……」
と返す。すると案の定オービルは、
「空間を切る? 何だそれは?」
と言って首を傾げた。
「とにかく、この菊宗正を振り回したらいつの間にかあっちの方の森にいたのよ」
あたしは来た方向を手で示してそう付け加える。
そっちが理解できようができまいが、それが事実なんだから、それ以上説明しようがない。
「あっちの森と言えば、セフィロタか」
オービルはそれを聞くと、そう言ってため息をついた。
「まぁ、信じられないと言いたいところだが、此奴を見るとそうも言えないな。
俺も騎士団に長くいるが、そのような形をした刀を見るのは初めてだからな」
何より言葉が通じないとなるとなと、あたしの膝に置いてある菊宗正に目をやる。
こっちにあるのは、中国で使われていたようなもっと太短いものらしい。因みに、なんで膝に置いたままなのかというと、体のどっかに菊宗正が触れていないと、ここの人たちの言葉が全く解らないからだ。ホントに菊宗正って、中途半端にチート。
「扱いが難しいだろう」
というオービルに、
「鞘から抜くことさえできれば、こっちの方が間合いが取れるから扱いやすいと思うけど」
と答えるあたし。刀って要するに金属の塊だもんね。この菊宗正だってあたしにとっては十分重いんだもん。コレ以上太くなったら腕力のないあたしにはマジで振り回せない。
そうこうしている内に料理が運ばれてきた。焼きたてのパンに、スープ、それとローストされているのは鮭っぽい魚。
「いただきます」
あたしはさっそく、パンを千切る。か、堅っ! それになんでこんなにぱさぱさなの? 何とか割ってみると、小麦の香ばしい香りがする。そっか、この堅いのは精白していない全粒粉がはいってるからだ。それにしてもこのパン全粒粉率やけに高い気がする。普通、日本で全粒粉入りパンとして売られているのは、1割から、多くても3割くらいまでだ。これはどう見てもそれより入ってる感じがする。ホントにこれがこの町一番のレストランが出すパンなの?
で、オービルの方を見てみると、千切らずにドブンとパンをスープに浸け、食べている。日本でやったら確実に行儀悪いと怒られる食べ方だけど、どうやらこれがここでのパンの食べ方のようで、辺りを見回すと、他の席でも綺麗な女の人が、全く同じ食べ方をしていた。なので、あたしもエイヤとスープに放り込んで食べてみる。うわっ、何このスープ、めちゃくちゃ美味しい! あのパサパサのパンも絶品スープを吸い込んで、すごく良い味になってる。
「旨いか」
驚いた顔をしたあたしに、オービルはそう言って満足気に笑った。